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2026/07/13

「辞めたい」しか考えられなくなったら——退職・休職・異動をどう判断するかを横浜・関内の精神科医が解説

気づけば一日中、「辞めたい」ばかり考えている。

仕事中も、通勤中も、布団の中でも、頭に浮かぶのは退職届のことだけ。転職サイトを深夜まで眺め、退職代行の料金を調べ、「明日こそ言おう」と思っては言えずに、また朝が来る。「辞めれば楽になる」という考えと、「辞めたら生活はどうなる」という不安が交互に押し寄せて、それ以外のことが考えられない——。

この状態の方に、精神科医としてまずお伝えしたいことは一つです。「辞めたい」しか考えられなくなっているとき、あなたの脳は正常な判断ができる状態にありません。だから、今すぐ決めないでください。これは「辞めるな」という意味ではありません。辞めるという選択が正解の方も、実際に大勢います。そうではなく、人生の大きな決断を、判断力が落ちた状態で下さないでほしいのです。

この記事は、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックがお届けする「現代の働き方とメンタル不調」ガイドの一記事です。なぜ消耗時の判断が危ういのか、「辞めたい」の中身をどう分解するか、退職・休職・異動・現状維持という選択肢をどんな順番で検討すべきかを、精神科医が解説します。働き方による不調の全体像は現代の働き方とメンタル不調——テレワーク・常時接続・成果主義がなぜ心を削るのかにまとめています。

今夜にも退職届を出しそうなほど追い詰められている方は、その前に一度だけご相談ください。WEB予約はこちらから当日のご予約も可能です。土日も診療しています。


なぜ「今すぐ決めない」のか——視野狭窄という症状

心が消耗すると、思考には特徴的な変化が起こります。うつ状態では、物事を悲観的に、白か黒かで捉える傾向が強まり、選択肢を広く見渡す力——まさに「判断力」の中核——が低下します。「辞めるか、壊れるか」の二択しか見えなくなっている状態は、心理学で視野狭窄と呼ばれ、それ自体が消耗のサインです。

診察室では、こんな経過を何度も見てきました。追い詰められて衝動的に退職し、直後は解放感があったものの、数週間で「収入が途絶えた」「職歴に穴が空いた」という新しい不安が押し寄せ、うつ状態はむしろ悪化。療養に専念すべき時期を、焦りの転職活動で潰してしまう——。退職そのものが悪いのではありません。「消耗の底で決めた退職」が、回復の条件を悪くしやすいのです。

逆に言えば、やるべきことの順番はこうなります。①まず心身の状態を立て直す(判断力を取り戻す)→ ②それから、辞めるかどうかを決める。この順番を支える現実的な道具が、これからお話しする「休職」と「制度」です。


「辞めたい」の中身を3つに分解する

ひとくちに「辞めたい」と言っても、中身は人によってまったく違います。紙に書き出しながら、自分の「辞めたい」がどれに近いか、確かめてみてください。

① 「この職場」を辞めたい——特定の上司、部署、業務量、ハラスメント。原因が職場の特定の要素にあるタイプです。この場合、退職の前に、異動・配置転換・業務調整で原因から距離を取れる可能性があります。原因が特定できているぶん、環境調整が効きやすいタイプでもあります(適応障害についての解説記事一覧)。ハラスメントが絡む場合は、職場のストレス・ハラスメントについての解説記事一覧もご覧ください。

② 「働くこと」自体がもう無理だと感じる——どの仕事を想像しても無理だと感じる。朝起きられず、涙が出て、何にも興味が持てない。このタイプの「辞めたい」は、キャリアの問題ではなく、症状である可能性が高いものです。うつ状態が「働けない」という感覚を作り出しているのであって、治療によって状態が戻れば、「辞めたい」の切実さ自体が変わることが少なくありません(うつ病についての解説記事一覧)。今必要なのは転職サイトではなく、休養と治療です。朝起きられない・涙が出る状態が出ている方は月曜の朝、体が動かない・涙が出る——出社前の身体症状はうつのサイン?もご覧ください。

③ 「この働き方・この仕事」が合っていない気がする——職場は嫌いではないが、業務内容や働き方がずっとしっくりこない。ミスや人間関係のつまずきが職場を変えても繰り返される。このタイプは、焦って辞める前に、つまずきのパターン分析が先です。パターンを知らずに転職しても、同じ壁に当たる可能性が高いからです(仕事が続かない・転職を繰り返してしまうのは性格?)。


選択肢は「辞める・辞めない」の二択ではない

視野が狭くなっているときこそ、選択肢の全体像を外から確認してください。実際には、少なくとも5つあります。

① 現状維持+治療——症状が軽く、原因が一時的(繁忙期など)なら、働きながら治療と環境調整で立て直す道があります。働きながら会社に知られず通院を続けたい方は働きながら精神科・心療内科に通うには?会社に知られず治療を続けるコツをご覧ください。

② 業務調整・異動の交渉——「この職場」型なら、診断書を根拠に業務量の軽減や配置の相談ができます。会社には安全配慮義務があり、医師の意見が文書で示されれば検討せざるを得ません。

③ 休職——ここが最も知られていない重要な選択肢です。休職は「逃げ」ではなく、雇用と収入をある程度保ったまま、判断を保留し、回復に専念できる制度です。健康保険の傷病手当金により、医師が労務不能と認めれば、給与のおおむね3分の2に相当する額が最長1年6か月支給されます。つまり「辞めて無収入で療養」と「壊れるまで働く」の間に、「収入を保ちながら休んで、回復してから決める」という道があるのです。手続きの流れやお金の詳細は休職・復職についての解説記事一覧制度・お金についての解説記事一覧で解説しています。

④ 回復してからの転職——休職や治療で判断力が戻ったうえで、それでも辞めるべき職場だと思うなら、そのときの判断は信頼できます。回復後の転職活動は、消耗の底での転職活動とは、面接での印象も、選べる求人も、まるで違います。

⑤ 即時の退職——ハラスメントが深刻で会社に対応の意思がない、心身の危険が切迫しているなど、環境から即座に離れること自体が治療上必要なケースもあります。この判断も、できれば主治医と一緒に下してください。

ひとつ、実務上とても重要な注意があります。傷病手当金は、在職中に受給の条件を満たしていないと、退職後は新たに受け取れません。「先に辞めてから、ゆっくり治そう」と考えて退職すると、使えたはずの経済的な支えを失うことがあります。辞める前に、使える制度を確認する——この一手間が、療養期間の安心をまったく別のものにします。


受診で何が変わるか——「決めるための土台」を作る

「辞めたいだけで病院に行っていいのか」と思うかもしれません。行っていいのです。診察でお手伝いできることは、大きく3つあります。

第一に、状態の評価。今のあなたの「辞めたい」が、冷静なキャリア判断なのか、うつ状態が作り出している症状なのかを、医学的に見立てます。第二に、治療。不眠や落ち込みがあるなら、まず判断力の土台である心身を治療で立て直します。第三に、選択肢の設計。休職すべき状態か、働きながら調整できるか、診断書をいつどう使うか。当院の医師は日本医師会認定産業医の資格を持ち、企業側の労務の実情にも通じていますので、あなたの会社で現実的に通る道筋を一緒に考えられます。

なお、「辞めたい」の背景に月80時間水準の長時間労働がある方は、それ自体が心身を壊す働き方です。長時間労働で眠れない・休んでも疲れが取れない——過労のサインと受診の目安もあわせてお読みください。また、そもそも自分の状態が受診に値するのか迷っている方は、「仕事に行きたくない」は甘え?受診の目安と背後にある病気で目安を確認できます。


よくあるご質問

Q. もう明日にでも退職届を出したい気持ちです。止められますか?

A. 止めはしません。あなたの人生の決定権はあなたにあります。ただ、提案はさせてください。退職届を出すのを2週間だけ待って、その間に一度受診し、休職や傷病手当金という選択肢を知ったうえで決める——それでも辞めたいなら、その判断はずっと確かなものになっています。2週間の保留で失うものは、ほとんどありません。

Q. 休職すると、復職後やキャリアに傷がつきませんか?

A. 休職は法律や社内制度に基づく正当な権利であり、休職を理由とする不利益な取り扱いは許されません。また、転職時に休職歴を自ら申告する法的義務は原則ありません。何より、壊れるまで働いて長期離脱するほうが、キャリアへの影響は確実に大きくなります。

Q. 家族に「辞めるなんて甘い」と反対されています。

A. ご家族には状態の深刻さが見えていないことがよくあります。診察にご家族に同席いただき、医師から状態と選択肢を説明することも可能です。「本人の弱さ」ではなく「治療が必要な状態」だと第三者が伝えるだけで、ご家族の態度が変わることは少なくありません。

Q. 平日は仕事があり、受診の時間が取れません。

A. 当院は祝日を除く土曜・日曜も診療しています。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分です。会社帰りに通える心療内科をお探しの方へもご参考のうえ、WEB予約はこちらから、当日予約も可能です。


まとめ

「辞めたい」しか考えられない状態は、それ自体が視野狭窄という消耗のサインです。選択肢は「辞める・壊れるまで働く」の二択ではなく、業務調整、異動、そして収入を保ちながら判断を保留できる休職と傷病手当金という道があります。順番はひとつ——まず心身を立て直して判断力を取り戻し、それから決める。回復してから下した「辞める」なら、それは正しい決断です。その土台作りを、私たちに手伝わせてください。

横浜・関内エリアで「辞めたい」に追い詰められている方は、退職届の前に、みなとメンタルクリニックにご相談ください。土日も診療しています。WEB予約はこちらからどうぞ。


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参考文献

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「うつ病」「適応障害」
  • 厚生労働省「こころの耳」働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
  • 全国健康保険協会「傷病手当金について」
  • 厚生労働省「精神障害の労災認定基準」
  • 日本うつ病学会「日本うつ病学会診療ガイドライン」

この記事の監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。