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2026/06/29

トリンテリックス(ボルチオキセチン)とは|効果・副作用・特徴・やめ方を精神科医が解説

「トリンテリックスを処方されたけれど、脳の中で何が起きているのだろう」「ほかの抗うつ薬と何が違うのか」「認知機能に効くと聞いたが本当か」「自分に向いているのか」——トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン)について、このような疑問を感じていませんか。このページでは、トリンテリックスが脳に対してどのようにはたらくのかという「しくみ」を深く掘り下げたうえで、どのような方に向くか、効き方、副作用、やめるときの注意点まで、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医がくわしく解説します。

なお、ここでご紹介する内容は、お薬を理解していただくための一般的な情報です。実際にどのお薬を使うか、どのくらいの量にするかは、お一人おひとりの症状や体質、これまでの経過をふまえて医師が判断します。自己判断での服用・中止は避けてください。

トリンテリックス(ボルチオキセチン)とは

トリンテリックスは、ボルチオキセチンを有効成分とする抗うつ薬で、日本では2019年に発売された、最も新しい世代の抗うつ薬のひとつです。ジェネリック医薬品の場合は、有効成分名の「ボルチオキセチン」として処方されます。デンマークのルンドベック社が開発し、日本では武田薬品工業とともに販売しています。

トリンテリックスは、S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)、または「マルチモーダル抗うつ薬」とよばれます。SSRI・SNRI・NaSSAのいずれとも異なり、「再取り込みを抑える」ことと「複数のセロトニン受容体を一つひとつ直接操作する」ことを組み合わせた新しいしくみが、その名前の由来です。

脳の中で何が起きているのか——「再取り込み」+「受容体の直接操作」の二刀流

トリンテリックスは、大きく2つの仕事を同時に行います。

仕事①:セロトニンの取り込み口をふさぐ(SSRIと同じ部分)

1つ目は、SSRIと同じく、セロトニンの「取り込み口(セロトニントランスポーター=SERT)」をふさいで回収を抑え、すき間のセロトニンを増やすはたらきです。ここまでは、これまでの抗うつ薬と共通しています。

仕事②:セロトニン受容体を“一つひとつ”直接操作する(マルチモーダル)

トリンテリックスが本当にユニークなのは2つ目です。セロトニンが結合する受容体には十数種類あり、それぞれ役割が違います。これまでの抗うつ薬は、ただセロトニンを増やして「受容体まかせ」にしていましたが、トリンテリックスは受容体ごとに、押す(刺激する)・ブロックする(遮断する)を“打ち分ける”のです。

  • 5-HT1A受容体:アゴニスト(直接押す)——抗うつ・抗不安の“本丸”とされる受容体を、セロトニンを増やすだけでなく、お薬が直接刺激します。
  • 5-HT1B受容体:部分アゴニスト(ほどよく押す)
  • 5-HT3受容体:アンタゴニスト(ブロックする)——吐き気に関わる受容体であり、後で述べる認知機能の最大のカギです。
  • 5-HT7受容体:アンタゴニスト(ブロックする)——気分・睡眠リズム・認知に関わるとされます。
  • 5-HT1D受容体:アンタゴニスト(ブロックする)

この“打ち分け”の結果、トリンテリックスはセロトニンを増やすだけでなく、その下流でノルアドレナリン・ドパミン・アセチルコリン・ヒスタミン・グルタミン酸など、複数の神経伝達物質のはたらきまで幅広く調節します。1つの様式ではなく複数の様式(モード)で脳に作用するため「マルチモーダル」とよばれ、実際に動物実験では、SSRIよりも前頭前野でのモノアミンの増え方が大きいことが示されています。

用量で「効くスイッチ」の数が変わる

もう一つ知っておくと役立つのが、トリンテリックスは少ない量では主にSERT阻害と5-HT3遮断だけがはたらき、量を増やすにつれて5-HT7・5-HT1B・5-HT1Aといったほかの標的も順に“オン”になっていくという性質です。量を上げることが、単に効果を強めるだけでなく、はたらく受容体の“顔ぶれ”を増やすことにつながります。だからこそ、症状を見ながら段階的に調整していきます。

なぜ認知機能に効くのか——トリンテリックス最大の差別化

トリンテリックスが世界的に注目される最大の理由が、うつ病にともなう「認知症状」への効果です。ここはこのお薬の心臓部なので、神経回路のレベルまで掘り下げます。

うつ病の「認知症状」とは

うつ病は、気分の落ち込みだけの病気ではありません。多くの方が、集中が続かない・考えがまとまらない・物事を決められない・頭の回転が遅い・物覚えが悪いといった「認知(思考)の症状」に悩まされます。これは仕事や家事の能率に直結し、気分が回復した後も“残ってしまう”ことが多く、復職の壁になります。実際、うつ病では前頭前野や海馬のはたらきの低下や、これらの部位の容積の減少が報告されています。

カギは「5-HT3遮断による“脱抑制”」——ブレーキのブレーキを外す

ここが薬理の核心です。脳の思考の中枢である前頭前野や、記憶の中枢である海馬では、情報処理の主役は錐体細胞(すいたいさいぼう)という大きな神経細胞です。この錐体細胞には、興奮しすぎないよう“ブレーキ”をかけるGABA介在ニューロンが張りついています。そして重要なことに、このGABA介在ニューロンの表面にこそ、5-HT3受容体が選ばれて存在しているのです。

トリンテリックスは、この5-HT3受容体に強く結合して遮断します(結合の強さは非常に強い部類です)。すると、ブレーキ役であるGABA介在ニューロンのはたらきが抑えられ、その結果、抑えられていた錐体細胞が解放されて活発に発火する——いわば「ブレーキにブレーキをかけて、アクセルを利かせる(脱抑制)」という現象が起こります。解放された錐体細胞は、前頭前野や海馬でグルタミン酸という“考える・覚える”の主役となる伝達物質を増やし、学習・記憶の細胞レベルの土台であるLTP(長期増強)や、神経のつながりの成長(可塑性)を促します。さらに、5-HT1Aの刺激と5-HT1Bの部分刺激もこの錐体細胞の活性化を後押しし、その下流でアセチルコリン・ドパミン・ノルアドレナリンも動きます。これが、トリンテリックスが認知のネットワークそのものを底上げすると考えられているしくみです。

臨床で確かめられていること、そして誠実な“線引き”

実際の臨床試験でも、トリンテリックスは、処理速度・注意・遂行機能をみるテスト(DSST)や、学習・記憶のテストで、プラセボ(偽薬)より成績を改善することが示されています。重要なのは、この認知機能の改善が、気分の改善だけでは説明しきれない、ある程度“直接的”な効果とされている点です。一方で、誠実にお伝えすると、これはあくまで「うつ病にともなう認知症状」への効果であり、トリンテリックスは認知症の治療薬ではなく、健康な方の頭を良くするお薬でもありません。この線引きは大切です。

どのような方に向いているか

以上のしくみから、トリンテリックスは次のような方に向くことが多いお薬です。あくまで一般的な目安で、最終的な判断は診察のうえで行います。

① 「頭が回らない」がつらいうつの方

気分の落ち込みに加えて、集中力の低下・思考の遅さ・物忘れ・段取りが組めないといった認知の症状が前面に出ている方。とくに、仕事や学業の能率低下に困っている方、復職・復学を控えていて“頭のパフォーマンス”を取り戻したい方に、選択肢として検討されます。

② SSRIで性機能障害が出てしまった方

トリンテリックスは性機能への影響が比較的少なく、SSRIで性機能障害が出た方が切り替えると改善することもあります。性機能障害を避けたい・すでに困っている方に向きます。

③ お薬をやめるときの不調を避けたい方

後述するように半減期がとても長く、中断にともなう症状(離脱症状)が起こりにくいお薬です。過去にパキシルやイフェクサーなどの中止でつらい思いをした方、将来の減薬・終了を見据えたい方に向きます。

④ ほかの薬をたくさん飲んでいて、飲み合わせを抑えたい方

トリンテリックス自身は、ほかのお薬の分解酵素をほとんど邪魔しません。持病で多くのお薬を飲んでいる方でも、相手のお薬への影響を抑えやすいという利点があります。

一方で、注意が必要・向きにくい場合

飲み始めの吐き気が比較的出やすいため、もともと吐き気に弱い方は少量から慎重に始めます。また、CYP2D6という酵素のはたらきが生まれつき弱い体質の方では、量を控えめにします。これらは診察と経過で見極めていきます。

なぜ効くまでに2〜4週間かかるのか

トリンテリックスは5-HT1A受容体を直接刺激するなど効率のよいしくみを持ちますが、それでも気分の落ち込みそのものの改善には、ほかの抗うつ薬と同様に2〜4週間ほどかかるのが一般的です。これは、伝達が高まった状態が続くことで、脳が時間をかけて変化し適応していく(神経の可塑性、BDNFの増加、海馬での神経の成長など)必要があるためです。効果が乏しく感じる時期も、脳が変化していく途中です。自己判断でやめてしまわず、医師と一緒に乗り越えることが大切です。

血中濃度・体の中での動き(薬物動態)

トリンテリックスは、体内の量が半分になるまで(半減期)が約66時間と、抗うつ薬のなかでもとくに長いのが特徴です。このため1日1回でよく、朝でも夜でも、食事に関係なく飲めます。安定した血中濃度になるまでには約2週間かかります。

長い半減期がもたらす「やめやすさ」

半減期が長いことには大きな利点があります。お薬を飲み忘れたり中止したりしても、血中濃度がゆっくりとしか下がらないため、パロキセチンやベンラファキシンで問題になりやすい「中断にともなう症状」が、トリンテリックスでは起こりにくいのです。やめるときの負担が小さいという、実用的な強みです。

代謝と、体質・飲み合わせ

トリンテリックスは、主に肝臓のCYP2D6という酵素で代謝されます(ほかの複数の酵素も関わります)。このCYP2D6のはたらきには生まれつきの個人差があり、はたらきが弱いタイプの方では血中濃度が約2倍になることがあるため、その場合は量を控えめにします。また、CYP2D6を強く抑えるお薬(一部の抗うつ薬など)と併用すると血中濃度が上がります。

一方で見逃せない利点として、トリンテリックス自身は、ほかのお薬を分解する酵素(CYP)をほとんど邪魔しません。CYP2D6を強く抑えてしまうパロキセチンやデュロキセチンとは対照的で、「ほかのお薬に影響を与えにくい=併用相手にやさしい」お薬だといえます。なお、軽度〜中等度の肝臓・腎臓のはたらきの低下や、年齢・性別による量の調整は、基本的に必要ないとされています。

ほかの抗うつ薬との違い・使い分け

  • トリンテリックス(ボルチオキセチン/S-RIM):再取り込み阻害に加えて、複数のセロトニン受容体を直接操作するマルチモーダル。認知症状への効果が期待でき、性機能障害・中断症状が比較的少ないのが特徴です。
  • SSRI(レクサプロ・ジェイゾロフトなど):セロトニンの取り込み口をふさぐことに特化。
  • SNRI(サインバルタ・イフェクサーSRなど):セロトニンとノルアドレナリンの取り込み口をふさぎます。
  • NaSSA(リフレックス/レメロン):α2受容体を遮断して放出を増やします。

どのお薬が合うかは人によって異なります。抗うつ薬全体の位置づけは、うつ病の治療(3)|薬物療法 各論もあわせてご覧ください。

副作用と注意点

トリンテリックスは比較的のみやすいとされますが、知っておいていただきたい注意点があります。

吐き気(最も多い副作用)

最も多いのが吐き気です。トリンテリックスは吐き気に関わる5-HT3受容体を遮断しているにもかかわらず吐き気が出るのは、増えたセロトニンが体のほかの部分(消化管など)にも作用するためと考えられています。吐き気は量が多いほど出やすく(用量依存)、多くは飲み始めの時期に現れて、2週間ほどで和らいでいきます。少ない量から始めることで、やわらげられることがあります。便秘・嘔吐がみられることもあります。

性機能への影響は「比較的少ない」

性欲の低下や性機能の変化は、SSRIにくらべて比較的少ないとされ、SSRIで性機能障害が出た方が切り替えると改善することもあります。これはトリンテリックスの利点のひとつです(ただし、まったく起こらないわけではありません)。

そのほかの注意

  • 低ナトリウム血症:まれに血液中のナトリウムが下がることがあり、とくにご高齢の方で、だるさ・食欲低下・ぼんやりするといった形であらわれることがあります。
  • 出血しやすさ:痛み止め(NSAIDs)や血をサラサラにするお薬と併用すると、出血しやすくなることがあります。
  • 飲み始めの落ち着かなさ(賦活症候群):飲み始めや量を変えた時期に、不安・焦り・不眠などが強まることがあり、とくに若い方では注意が必要です。
  • 緑内障:眼圧が上がることがあるため、緑内障のある方はお伝えください。
  • セロトニン症候群:ほかのセロトニンに作用するお薬などと併用すると、まれに発熱・震え・混乱などが現れることがあります。急にこうした症状が出たときは、服用を続けず、できるだけ早く医療機関にご相談ください。

急にやめない——ただし中断症状は比較的少ない

トリンテリックスは半減期が長いため、中断にともなう症状は比較的出にくいお薬です。とはいえ、とくに多めの量を飲んでいた場合などには、急にやめると頭痛や体のこわばりなどが出ることがあります。よくなってきてお薬を減らす・やめるときも、自己判断ではなく、医師と相談しながら進めてください。

妊娠・授乳を考えている方へ

妊娠中・授乳中、またはこれから妊娠を考えている方は、お薬を続けるかどうかを自己判断で決めず、必ず医師にご相談ください。お薬を続けることの利益と、控えることの利益を、お一人おひとりの状況に合わせて一緒に考えていきます。急な中断はかえってよくないこともありますので、まずはご相談ください。

飲み合わせの注意

市販薬・サプリメント・ほかの医療機関で処方されたお薬も含め、使っているものは必ず医師・薬剤師にお伝えください。

  • MAO阻害薬:併用できません。トリンテリックスは半減期が長いため、切り替えの際は十分な間隔をあけます。
  • ほかのセロトニンに作用するもの:ほかの抗うつ薬、片頭痛のお薬(トリプタン系)、一部の鎮痛薬、セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)など。セロトニン症候群に注意します。
  • CYP2D6を強く抑えるお薬:トリンテリックスの血中濃度が上がることがあります。
  • 血液をサラサラにするお薬・痛み止め:出血しやすさに注意します。

日常生活での注意

  • 飲むタイミング:1日1回、朝でも夜でも、食事に関係なく飲めます。決まった時間に飲む習慣にすると続けやすくなります。
  • お酒(アルコール):飲酒については医師にご相談ください。
  • 車の運転・機械の操作:めまいなどが出ることがあるため、慣れるまでは注意してください。
  • 飲み忘れたとき:気づいたときに1回分を飲み、次が近い場合は1回分にとどめてください。2回分をまとめて飲むことは避けましょう。

よくあるご質問

本当に集中力や記憶などの認知機能に効くのですか?

うつ病にともなう集中力低下・処理速度の低下などの認知症状に対して、臨床試験で改善が示されています。5-HT3受容体の遮断を介して前頭前野・海馬の神経を活性化するしくみが背景にあると考えられています。ただし、認知症の治療薬ではない点はご理解ください。

どんな人に向いていますか?

気分の落ち込みに加えて「頭が回らない・集中できない」がつらい方、復職を控えて頭のパフォーマンスを取り戻したい方、SSRIで性機能障害が出た方、やめるときの不調を避けたい方などに向くことが多いお薬です。最終的な判断は診察のうえで行います。

性機能への副作用は少ないのですか?

SSRIにくらべると比較的少ないとされ、SSRIで性機能障害が出た方が切り替えて改善することもあります。ただし、まったく起こらないわけではありません。

いつ飲めばいいですか? やめやすいですか?

1日1回で、朝でも夜でも、食事に関係なく飲めます。半減期が長いため、中断にともなう症状は比較的出にくいとされますが、やめるときは自己判断ではなく医師と相談しながら進めてください。

吐き気が出ましたが、続けて大丈夫ですか?

吐き気は飲み始めに最も多く、多くは2週間ほどで和らいでいきます。つらい場合は、量の調整や対処について相談できますので、ご連絡ください。

ご相談ください

関内駅すぐのみなとメンタルクリニックでは、お一人おひとりの症状や体質、生活に合わせて、お薬を選び、ていねいに調整していきます。「トリンテリックスが自分に合っているか不安」「集中できない・頭が回らないのがつらい」「副作用が気になる」「ほかのお薬から変えたい」といったご相談も、どうぞお気軽にお聞かせください。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。


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この記事の監修者

田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。

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