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2026/07/14

家族・パートナーの元気がないとき——かける言葉・避けたい言葉・受診のすすめ方を横浜・関内の精神科医が解説

最近、様子がおかしい。

口数が減った。休日も横になっている。好きだったことに、まるで関心を示さない。食事も進んでいないようだ。何かあったのかと聞いても、「別に」としか返ってこない。

心配しているのに、うまく言葉が届かない。励ませば「わかってない」という顔をされ、そっとしておけば「見放された」と思われそうで怖い。どう接するのが正解なのか、まったく分からない。

この記事は、そんな立場にいる方——ご家族、パートナー、大切な友人——のために書きました。横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックがお届けする「気分の落ち込み・無気力」ガイドの一記事で、精神科医が診察室で実際にご家族にお話ししている内容をまとめています。

ご本人が受診をためらっている場合、ご家族だけでのご相談も承っています。「本人が来ないと相談できない」と諦めておられる方が多いのですが、そんなことはありません。WEB予約はこちらから当日のご予約が可能です。関内駅から徒歩2分、祝日を除く土日も診療しています。


まず、知っておいていただきたいこと

ご本人に起きているのは、性格の変化でも、あなたへの気持ちが変わったからでもありません。

うつ状態では、意志や感情の届かない層——脳のエネルギー、報酬を感じる回路、思考の速度——に、実際の変化が起きています。だから、励ましても動けない。愛情が足りないからではないのです。

ご家族が最初につまずくのが、ここです。「元気を出してほしい」という願いから出た言葉が、なぜかご本人を追い詰めてしまう。悪意はまったくないのに、うまくいかない。

この記事の目的は、その理由を説明し、実際に届く関わり方をお伝えすることです。

うつがどんな状態なのかを知っておくこと。それ自体が、支えの土台になります。気分の落ち込みが続く——「ただの落ち込み」と「受診すべきうつ」の境界線「甘えているだけでは」と自分を責めてしまう方へ——うつは意志の弱さではないを、あわせてお読みいただくことをおすすめします。


避けたい言葉と、その理由

「頑張って」

最もよく知られた注意点ですが、理由まで理解しておくことが大切です。

ご本人は、すでに限界まで頑張った結果、動けなくなっています。「頑張って」は、「あなたの努力はまだ足りない」というメッセージとして受け取られてしまう。そして、頑張れない自分を、さらに責めることになります。

「気晴らしに出かけよう」「運動でもすれば」

善意の提案ですが、動けない時期には、提案そのものが負担になります。断れば申し訳なく、応じれば消耗する。

提案は、ご本人に「応えられない」という失敗体験を追加してしまいますやる気が出ない・何もしたくない——「無気力」の背後にあるものと回復の順序)。

「みんな大変なんだから」「もっとつらい人もいる」

比較は、つらさを軽くしません。「自分のつらさは認められない」と感じさせ、口を閉ざす方向に働きます。

「なぜそんなに落ち込むの?」「原因は何?」

原因を問い詰めると、答えられないご本人は、さらに追い込まれます。

うつ状態は、明確な原因なしに、あるいは原因の大きさと不釣り合いに起こりうるものです。説明を求めることは、説明責任を負わせることになります。

「病院に行くほどじゃないでしょ」「薬に頼らないほうがいい」

受診を止める言葉は、回復を遅らせます。ご本人が受診を考えているのに家族が否定すると、行き場がなくなります。


届きやすい言葉と、関わり方

評価せずに、事実を伝える

「最近、眠れていないみたいだね」「あまり食べていないように見えるよ」——判断や助言を加えず、見えていることをそのまま伝えてください。

これは「あなたを見ている」というメッセージになり、しかも責めていません。

「どうしたいか」ではなく「どうしてほしいか」を、選択肢で聞く

「何をしてほしい?」と聞かれても、うつ状態では判断できないことがあります(頭が働かない・ぼーっとして考えがまとまらない——うつと「思考の鈍さ」)。

かわりに、選択肢を絞って提示してください。「今日は一人がいい? それとも一緒にいたほうがいい?」——二択なら、答えられることがあります。

変えようとせず、そばにいる

支える側は、つい「良くしよう」としてしまいます。

しかし、うつの時期にご本人が最も必要としているのは、変えようとしない存在です。黙って同じ部屋にいる。一緒にテレビを見る。それだけで、十分に支えになります。

生活の実務を、静かに引き受ける

食事の用意、洗濯、支払い、手続き。——実行機能が落ちている時期には、こうした段取りが大きな壁になります。

励ますより、手を動かすほうが、はるかに効きます。「大丈夫?」と聞くより、味噌汁を作って置いておくほうが届く。実際に、そういうことがあります(食欲がない・食べても味がしない——気分の落ち込みと食欲の関係)。

回復を、急かさない

「そろそろ良くなった?」という問いは、ご本人にとって「まだ良くなっていない」という報告を強いるものです。

回復には波があり、良い日の翌日に悪い日が来ます。波を、後退と受け取らないでください。


受診をすすめるとき

ご本人が受診を渋る理由は、たいてい次のいずれかです。「大したことないから」「行っても治らない」「精神科に行くのが怖い」「会社に知られたくない」。

それぞれに、伝え方があります。

「あなたのため」ではなく「私が心配だから」

「あなたのために行くべきだ」は、正論の押しつけになりがちです。

「私が心配だから、一緒に行ってほしい」——主語を自分にすると、ご本人は責められていると感じずに済みます。

ハードルを、極限まで下げる

予約を代わりに取る。当日、一緒に行く。何を話すかは考えなくていいと伝える。

受診それ自体に、大きなエネルギーが要ることを忘れないでください。その分を、あなたが肩代わりできます。

「診断されるため」ではなく「確認するため」と伝える

「病気だと決めつけられるのが怖い」という抵抗には、「病気かどうかを確かめに行くだけ」という枠組みが有効です。実際、そのとおりです。

体の不調を、入口にする

「眠れないことだけでも、相談してみない?」——精神科への抵抗が強い方でも、不眠や食欲不振といった身体症状なら、受け入れやすいことがあります。

当院は内科も標榜しており、そうした入口からの受診も歓迎しています(不眠・睡眠障害についての解説記事一覧自律神経失調症についての解説記事一覧)。

それでも動かないとき

ご家族だけで、まず相談に来ていただくことができます。

ご本人の状態をどう見立てるか。どう伝えれば受診につながるか。ご家族として、どう関わるべきか。——具体的に、一緒に考えます。WEB予約は当日枠もご用意しています。


緊急性が高いと感じたとき

次のような様子が見られたら、様子見をせず、早めに受診をご検討ください。

  • 食事も水分もほとんど摂れていない。急激に痩せた
  • ほとんど眠れていない日が続いている
  • ここ数日、起き上がることもできず、日常生活が止まっている
  • 身の回りのことができなくなっている
  • 「もう限界だ」「もたない」と口にしている(もう限界だと感じたとき——つらさが振り切れたときの受診の考え方
  • これまでと明らかに違う言動がある

こうした状態では、ご本人が自分で受診を判断することが難しくなっています。ご家族が動いてよい場面です。

そして——ご本人が「消えたい」「いなくなりたい」といった言葉を口にしたとき。それは、何よりも優先して受け止めるべきサインです。驚いて話題を変えたり、「そんなこと言わないで」と否定したりせず、まずは聞いてください。そのうえで、その日のうちに専門家につないでください。

当院は当日のご予約が可能です(045-663-5925/診療時間内)。ご本人の同行が難しい場合は、まずご家族だけでご相談ください。

夜間や休診日など、すぐの受診が難しいときは、次の窓口をご利用いただけます。ご家族からの相談も受け付けています。

  • よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・通話料無料)
  • こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(お住まいの自治体の相談窓口につながります)
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」に、電話・SNS・チャットの窓口がまとめられています

危険が差し迫っていると感じるときは、迷わず119番へ。判断に迷ったときこそ、外に相談してください。ためらう必要はありません。


支える側が、壊れないために

ここが、この記事でもっとも伝えたい部分かもしれません。

大切な人がうつ状態にあるとき、支える側にも、確実に負荷がかかります。気を張り続け、言葉を選び続け、回復しない状況に無力感を覚え、そして「自分が疲れたなどと言ってはいけない」と、感情を押し殺す。

研究でも、うつ病の方を支える家族に、抑うつや不安が高い頻度で生じることが、繰り返し報告されています。

お伝えします。支える側が倒れたら、支えは終わります。だから、あなたが自分を守ることは、利己的な行為ではありません。支援を続けるための、必要条件です。

  • 自分の生活を、削りきらない。睡眠、食事、仕事、自分の楽しみ——すべてを犠牲にしないでください
  • 回復の責任を、背負わない。あなたの関わり方で、うつが治るわけでも、悪化するわけでもありません。治療は、医療の仕事です
  • 疲れを口に出せる相手を持つ。友人でも、別の家族でも、私たちでも構いません
  • あなた自身の不調にも、目を向ける。眠れない、涙が出る、気力が湧かない——支える側にも、それは起こります

ご家族ご自身が消耗している場合、それは何もしていないのに疲れる・休んでも回復しない——「心の疲労」の正体で説明した状態に、すでに入っているかもしれません。涙が止まらないという方は急に涙が出る・理由もなく涙が止まらない——心が限界を迎えているサインを、朝起き上がれないという方は朝起きられない・布団から出られないのは怠け?を、読んでみてください。

支える方も、受診してよいのです。


よくあるご質問

Q. 本人が「放っておいて」と言います。距離を置くべきでしょうか。

A. 「放っておいて」は、多くの場合「今は話したくない」であって、「関わらないでほしい」ではありません。

話を引き出そうとするのはやめて、しかしそばにいることは続けてください。「話したくなったら聞くよ。それまでは、何も聞かないでいるね」——ひとつの形です。

Q. 家族が受診を拒否します。無理やり連れて行くべきですか。

A. 強引な受診は、その後の信頼関係を損ないます。まず、ご家族だけでご相談ください。状態の見立てと、受診につなげる伝え方を、一緒に考えます。

ただし、食事も水分も摂れない、日常生活が完全に止まっている、「消えたい」と口にしている——こうした場合は、緊急性を優先すべき場面です。判断に迷うなら、その迷いごと、ご相談ください。

Q. 家族が受診したことを、私が職場に知られることはありますか。

A. ありません。診療内容は、守秘義務のもとで扱われます。ご本人の受診が会社に知られるかどうかについては、働きながら精神科・心療内科に通うには?会社に知られず治療を続けるコツで詳しく解説しています。

Q. 治療費や、休職中の収入が心配です。

A. 通院の医療費負担を軽くする自立支援医療、休職中の収入を支える傷病手当金など、利用できる制度があります。制度・お金についての解説記事一覧休職・復職についての解説記事一覧をご覧ください。診察でも、ご案内しています。

Q. 平日は仕事があり、通院に付き添えません。

A. 当院は祝日を除く土曜・日曜も診療しています。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分。会社帰りに通える心療内科をお探しの方へもご参考のうえ、WEB予約はこちらから当日予約もご利用いただけます。


まとめ

大切な人の元気がないとき、励ますことは、しばしば逆に働きます。うつは意志の届かない層で起きている変化であり、「頑張って」は「努力が足りない」と伝わってしまうからです。

効くのは、評価せずに事実を伝えること。選択肢を絞って聞くこと。変えようとせず、そばにいること。そして、実務を静かに引き受けること。

受診をすすめるときは「私が心配だから」と主語を自分にし、ハードルを極限まで下げてください。

そして——支えるあなた自身を、削りきらないでください。回復の責任を背負う必要はありません。治療は、私たちの仕事です。

横浜・関内エリアで、ご家族やパートナーの不調に悩んでいる方は、みなとメンタルクリニックにご相談ください。ご家族だけでのご相談も承っています。土日も診療しています。WEB予約はこちらからどうぞ。


気分の落ち込み・無気力(関連記事)

総合ガイド:気分の落ち込みが続く——「ただの落ち込み」と「受診すべきうつ」の境界線


参考文献

  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). 2022
  • Coyne JC, et al. Living with a depressed person. J Consult Clin Psychol. 1987
  • van Wijngaarden B, et al. Caregiving in bipolar disorder and depression: burden and consequences. Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol. 2004
  • Priestley J, McPherson S. Experiences of adults providing care to a partner or relative with depression: a meta-ethnographic synthesis. J Affect Disord. 2016
  • Shimazu K, et al. Family psychoeducation for major depression: randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 2011
  • 日本うつ病学会「日本うつ病学会診療ガイドライン 大うつ病性障害」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「うつ病」
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」相談窓口一覧

この記事の監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。