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2026/07/06
夏になると心も体もだるい——それは夏バテ?それとも「夏うつ」?【横浜・関内の精神科医が解説】
7月に入ってから、体が重い。朝、目覚ましを止めた瞬間に、もう疲れている。食欲がわかなくて、そうめんばかり食べている。仕事の集中力が、午後まで持たない。休日は冷房の効いた部屋から一歩も出る気になれず、気づけば夕方になっている――。「まあ、夏バテだろう」と、あなたは思っているかもしれません。まわりも「暑いからね」と言うし、自分でもそう説明がついてしまう。
たしかに、その多くは夏バテです。けれど毎年この時期、当院の外来には「夏バテだと思って耐えていたら、気分の落ち込みがどんどん深くなっていた」という方がいらっしゃいます。体のだるさの陰に、心の不調が隠れていることがある。そして両者は、素人目には似ていても、見分けるポイントがはっきりあります。このページでは、横浜・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、夏の疲れとだるさの正体を体の仕組みから説明し、夏バテと心の不調の見分け方、根拠のあるセルフケア、受診を考える目安まで、順を追ってお話しします。慢性的な疲れが夏を越えても続く方は、休んでも疲れが取れない・常に疲れているあなたへもあわせてご覧ください。
「読むより先に、まず相談したい」という方へ。当院は関内駅から徒歩2分、土日も診療しており、当日のご予約も承っています。WEB予約はこちら、お電話は045-663-5925(診療時間内)へどうぞ。
なぜ夏は、これほど疲れるのか――体の中で起きていること
「暑いから疲れる」のは当たり前のようでいて、その中身を知っている方は意外に少ないものです。仕組みが分かると、対策の優先順位も見えてきます。
①体温調節という「見えない残業」
人間の体は、深部の体温をほぼ一定に保つよう設計されています。猛暑日、体は汗をかき、皮膚の血管を広げ、心拍を調整して、休みなく放熱を続けています。これを指揮しているのが自律神経です。つまり真夏は、じっと座っているだけでも、自律神経が残業を続けている状態。日本の夏は高温に加えて湿度が高く、汗が蒸発しにくいぶん放熱の効率が悪いため、この負担はさらに重くなります。「何もしていないのに疲れる」のは、気のせいではなく、実際に体が働き続けているからです。この自律神経の乱れが多彩な不調を生む仕組みは、自律神経失調症とは?でくわしく解説しています。
②冷房と外気の寒暖差が、自律神経を消耗させる
室内26度、屋外35度。この10度近い落差を、通勤や外回りで一日に何往復もする。体温調節の司令塔である自律神経は、そのたびに設定を切り替えさせられ、次第に調整が追いつかなくなります。だるさ、頭痛、めまい、肩こり、胃腸の不調――いわゆる寒暖差疲労の症状は、自律神経の疲弊のあらわれです。夏の不調が「暑さ」だけでなく「冷え」からも来る、というのは診察室でよくお伝えするポイントです。
③熱帯夜が、回復の時間を奪う
疲労を回復させる最大の装置は睡眠ですが、夏はその睡眠そのものが削られます。眠りに入るとき、人の体は深部体温を下げることで入眠のスイッチを入れます。ところが熱帯夜は、この体温低下がうまく進まない。結果、寝つきが悪くなり、夜中に目が覚め、眠りが浅くなります。厚生労働省の睡眠指針でも、寝室の温度・湿度環境を整えることは、睡眠の質を左右する基本要素として位置づけられています。「寝ても疲れが取れない」夏の典型パターンは、多くの場合ここから始まっています。夏の不眠そのものへの具体策は、次回の暑くて眠れない――熱帯夜の不眠と今夜からできる対策でくわしくお話しします。
④食欲低下・脱水・生活リズムの乱れが追い打ちをかける
暑さで食が細り、冷たい麺類に偏ると、疲労回復の材料になるたんぱく質やビタミンが不足します。軽い脱水でも、だるさ・頭痛・集中力の低下は起こります。加えて夏は日が長く、夜更かしをしやすい。イベントや帰省で生活が不規則にもなりやすい。――体温調節の消耗、寒暖差、睡眠の劣化、栄養と水分の不足、リズムの乱れ。これだけの要因が同時に重なる季節は、一年で夏だけです。夏に調子を崩すのは自然なことで、あなたの体が弱いわけでは決してありません。
問題は、この体の消耗が続いたとき、心のエネルギーまで削られていくことがある、という点です。睡眠不足が気分の調節力を下げることは多くの研究で示されており、体の疲れと心の不調は、地続きなのです。
夏バテと「心の不調」を見分けるポイント
体のだるさ・食欲低下・眠りの浅さ――ここまでは、夏バテでも心の不調でも共通して起こります。見分けの手がかりは、気分と興味の変化にあります。次の項目を、この2週間のご自身に当てはめてみてください。
- だるさだけでなく、気分の落ち込みや憂うつさが一日の大半を占める日が続いている
- 好きだったこと(趣味・食事・人と会うこと)への興味や楽しさが薄れている
- 涼しい部屋で休日を過ごしても、疲れも気分も回復しない
- 「自分はダメだ」という考えや、理由のない焦り・不安が増えている
- 集中力が落ちて、仕事のミスや読み飛ばしが増えた。簡単な決断ができない
- 朝がとくにつらく、会社や学校に行けない日が出てきた
夏バテの中心は「体」です。涼しい環境で休み、食事と水分がとれれば、数日から1週間ほどで少しずつ回復に向かいます。一方、心の不調では、休んでも気分が晴れず、楽しめなくなるという変化が前に出てきます。精神医学の診断でも、気分の落ち込みや興味の喪失が「2週間以上、ほぼ毎日」続くことがうつ状態を考える重要な目安とされています。だるさに加えて上のサインが2週間を超えて続いているなら、それはもう夏バテの枠を超えているかもしれません。気分の落ち込みが主役になっている場合はうつ病とは?を、不安が前に出るタイプの不調については不安とは?不安症(不安障害)の種類と治療で全体像を解説しています。
「夏うつ」という言葉について
近年、「夏うつ」という言葉を目にすることが増えました。季節と気分の関係では、日照時間の短い冬に気分が落ち込む冬季うつ病(季節性感情障害)がよく知られていますが、研究の歴史のなかでは、夏に症状が強まるタイプの存在も古くから報告されています。暑さによる睡眠不足と消耗、生活リズムの乱れが引き金になるほか、「夏は楽しむもの」という世間の空気の中で、楽しめない自分への焦りが落ち込みを深くする――という心理的な要因も働きます。名前が何であれ、大切なのは、夏をきっかけにした気分の不調は珍しくなく、対処できるものだ、ということです。
体の症状が前に出ることもあります
夏の不調は、動悸・息苦しさ・めまい・胃腸の不調といった体の症状として現れることもあります。暑さと寒暖差で自律神経が乱れると、心臓や呼吸の感覚が過敏になりやすいのです。「内科で検査したが異常なし。でも動悸が続く」という方は、動悸がするのはストレスのせい?で、その仕組みをくわしく解説しています。検査では異常が出ないのに頭痛・胃痛・めまいなどが続く方は、ストレスで体調が悪い(頭痛・胃痛・めまい)――検査では「異常なし」でもつらいあなたへもあわせてご覧ください。
今日からできる、根拠のあるセルフケア
ここからは、疲れ切った人でも実行できる順に、対策を挙げます。全部やる必要はありません。まず①だけでも、変わります。
①睡眠を最優先で守る――冷房は朝までつけっぱなしでいい
夏の回復力は、睡眠で決まります。冷房は朝まで連続運転で構いません。電気代を惜しんで熱帯夜に耐えるのは、心身の回復を削る、いちばん割に合わない節約です。設定温度は無理に下げず、朝まで26〜28度前後を目安に一定に保つこと。タイマーで夜中に切れる設定は、切れた瞬間の温度上昇で目が覚めて眠りを分断するため、おすすめしません。環境省も熱中症予防の観点から、夜間のエアコン使用をためらわないよう呼びかけています。夜間の熱中症は、実は室内で多く起きているのです。湿度も大切で、50〜60%程度に保つと同じ温度でも体感がまるで違います。
②入浴で「眠りのスイッチ」を作る
暑いからとシャワーだけで済ませていませんか。就寝の1〜2時間前に、ぬるめ(38〜40度程度)の湯船に10〜15分つかると、いったん上がった深部体温がその後下がっていく過程で、自然な眠気が訪れます。これは睡眠研究で確認されている、もっとも手軽で確実な入眠テクニックのひとつです。熱い湯や寝る直前の入浴は逆効果になるので、時間帯だけ守ってください。
③カフェインとアルコールを見直す
だるさをコーヒーやエナジードリンクでごまかし、寝苦しさをお酒でごまかす――夏にやりがちなこの二つは、どちらも眠りの質を下げて、翌日のだるさを深くします。カフェインは体内で分解されるまでに数時間かかり、夕方以降の摂取は就寝時刻になっても効果が残ります。目安として、午後3時以降は控えめに。そして寝酒は、寝つきをよくするように感じられますが、アルコールが分解される過程で眠りを浅くし、夜中の覚醒を増やすことが繰り返し示されています。厚生労働省の睡眠指針でも、寝酒は睡眠の質を悪化させるものとして明確に注意喚起されています。
④食事は「たんぱく質と水分」を意識する
食欲がないときこそ、麺だけで終わらせず、卵・豆腐・納豆・肉・魚を一品足してください。疲労の回復には材料が要ります。水分は、のどが渇く前にこまめに。大量に汗をかいた日は、水だけでなく塩分も一緒に補うのが基本です。冷たいものの摂りすぎは胃腸の働きを落とし、食欲低下の悪循環を作ることも覚えておいてください。
⑤朝の光と、軽い運動でリズムを立て直す
体内時計は、朝の光でリセットされます。起きたらカーテンを開けて光を浴びる。これだけで、夜の眠気が来る時刻が整いやすくなります。運動は、涼しい時間帯の散歩程度で十分です。「疲れているのに運動?」と思われるかもしれませんが、軽い有酸素運動が睡眠の質と気分を改善することは、数多くの研究が支持しています。炎天下で頑張る必要はまったくありません。夕方、日が落ちてからの15分でいいのです。生活リズムの整え方は自律神経を整える生活習慣とは?にもまとめています。
⑥「夏を楽しめない自分」を責めない
SNSに流れる海や花火やフェスの写真を見て、「自分は何もできていない」と焦る必要はありません。消耗している時期に予定を詰め込まないのは、怠けではなく正しいエネルギー管理です。回復すれば、楽しむ力は必ず戻ってきます。いまは回復に専念する時期だと、自分に許可を出してください。
受診を考える目安
セルフケアを2週間ほど試しても、次のような状態が続くときは、専門家に相談するタイミングです。
- 気分の落ち込みや、楽しめない状態が2週間以上、ほぼ毎日続いている
- 眠れない・何度も目が覚める日が続き、日中の生活に支障が出ている
- 食欲が落ちて、体重が明らかに減ってきた
- 仕事に行けない日、ミスや遅刻が増えている
- 動悸・めまい・息苦しさなどの体の症状がくり返している
- 「消えてしまいたい」という考えが頭をよぎることがある
最後の項目に当てはまる方は、様子を見ずに、早めにご相談ください。また、「夏バテか心の不調か、自分では判断がつかない」という段階での受診も、まったく問題ありません。見分けること自体が、私たちの仕事です。当院は精神科・心療内科とあわせて内科も標榜しており、貧血や甲状腺の病気など、だるさの背景になる体の要因も含めて診ることができます。仕事のストレスが重なっていると感じる方は、仕事のストレスで限界を感じている方へ|産業医・休職・復職のご相談のページも参考になります。WEB予約はこちらから、当日のご予約も承っています。
よくあるご質問
毎年夏になると調子を崩します。体質でしょうか?
毎年くりかえすなら、それは偶然ではなく、あなたの心身が夏の負荷に反応しやすいというパターンです。体質と呼ぶかどうかより、パターンが分かっていることを活かしましょう。来年からは6月のうちから睡眠環境と冷房の対策を先回りする――そういう付き合い方に変えていけますし、その設計のお手伝いもできます。
夏休みに入れば治るでしょうか?
休養で回復するなら、それに越したことはありません。ただ、「休みまであと少しだから」と我慢を重ねて悪化するケースを、毎年拝見します。とくに気分の落ち込みや興味の喪失が出はじめている場合、我慢の上積みは回復を遠ざけます。休みを待たずに手を打つほうが、結果的に夏休みを楽しめる可能性は高くなります。
だるさで受診して、検査で異常がなかったら無駄足になりませんか?
なりません。「体の病気ではない」と確認できること自体が、診断の大きな前進です。そのうえで、睡眠・自律神経・気分のどこに主な原因があるかを一緒に整理し、対策を組み立てます。だるさは、原因の見当がつくだけでも気持ちが軽くなるものです。
家族が「夏バテだ」と言い張って、明らかに元気がありません。
ご本人は「夏バテ」という説明に収めたがることが多いものです。責めずに、「眠れているか」「食べられているか」「楽しめているか」の三つをそっと気にかけてください。三つとも崩れているようなら、受診を勧める段階です。付き添いでのご相談も受け付けています。
今日・明日など、すぐに受診できますか?
当院は当日のご予約にも対応しています(空き状況によります)。土日も診療、平日は夜19時まで対応しているので、お仕事帰りや週末にもご来院いただけます。WEB予約またはお電話(045-663-5925・診療時間内)でご確認ください。
横浜・関内で相談したいとき
みなとメンタルクリニックは、JR関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・みなとみらいエリアにお勤めの方が、通勤の途中やお昼休みに立ち寄れる場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。「ただの夏バテかもしれないけれど」――その段階でのご相談で、まったく構いません。むしろその段階の一歩が、いちばん早い回復につながります。ご予約はWEB予約から。受診にあたってのご不明な点はよくある質問もご参照ください。
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シリーズ最終回は、夏の不調の大もとになる「熱帯夜の不眠」に的をしぼります。暑くて眠れない夜を、今夜からどう乗り切るか。冷房・入浴・光の使い方まで、具体的に解説してシリーズを締めくくります。
▶ 次のページ:暑くて眠れない――熱帯夜の不眠を放置してはいけない理由と、今夜からできる対策
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参考文献・情報源
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(睡眠環境・寝酒・カフェインに関する推奨)
- 環境省「熱中症予防情報サイト」(夜間の冷房使用・室内熱中症に関する注意喚起)
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(抑うつエピソード・季節性の型に関する記載)
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。