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2026/07/01
親の睡眠薬が心配な方へ|高齢者の睡眠薬の注意点と安全なタイプを精神科医が解説
「高齢の親が、睡眠薬を飲んでいるけれど大丈夫だろうか」「年をとってから、眠りが浅くなった」「睡眠薬でふらついて、転ばないか心配」——高齢の方の睡眠薬について、ご本人やご家族が、こうした不安を抱えることは少なくありません。まずお伝えしたいのは、高齢の方の睡眠薬は、いくつかの点に気をつければ、安全に使っていけるということです。まずは、この記事の要点です。
- 加齢とともに眠りは浅く・短くなる——「若い頃と同じ睡眠」を求めすぎないことも大切
- 高齢の方はお薬が効きすぎやすく、翌日に残りやすい(体の変化のため)
- とくに注意したいのが転倒・骨折、日中のふらつき、もの忘れやせん妄
- 従来型(ベンゾジアゼピン系)より、依存や転倒の少ないタイプが選ばれることが増えている
- ご家族が「様子がおかしい」と感じたら、遠慮なく主治医に伝えてほしい
高齢の方の不眠と睡眠薬は、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、心配の多いテーマです。このページでは、高齢の方に特有の注意点と、安全に眠りを支えるための考え方を、厚生労働省や日本老年医学会の指針もふまえながら、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックが、できるだけていねいに解説します。睡眠薬そのものについては「睡眠薬とは(種類・作用・依存と安全なやめ方)」、減らし方については「睡眠薬のやめ方・減らし方」のページもあわせてご覧ください。
まず知っておきたい|年をとると、眠りは自然に変わります
「若い頃は朝までぐっすり眠れたのに、最近は夜中に何度も目が覚める」「早くに目が覚めてしまう」——こうした変化は、多くの場合、加齢による自然なものです。年齢を重ねると、深い眠り(徐波睡眠)が減り、眠りが浅く、途中で目が覚めやすくなります。また、体内時計そのものが前倒しになり、「早く眠くなって、早く目が覚める」朝型に傾いていきます。必要な睡眠時間も、若い頃より短くなっていくのが自然です。
ここで大切なのは、「若い頃と同じ睡眠」を求めすぎないことです。日中に大きな支障がなければ、多少眠りが浅くなったり、睡眠時間が短くなったりすること自体は、必ずしも「治すべき異常」とは限りません。「8時間眠らなければ」と気にしすぎることが、かえって「眠れないことへの不安」を強め、その不安がまた眠りを妨げる——という悪循環を生むこともあります。もちろん、つらさが強い場合や、日中の生活に支障が出ている場合は、しっかり治療の対象になります。まずは、「今の眠りの、どこがどうつらいのか」を、一緒に整理するところから始めましょう。眠りの見方が変わるだけで、楽になることもあります。
なぜ、高齢の方は睡眠薬に注意が必要なのか
高齢の方が睡眠薬を使うときに注意が必要なのは、加齢にともなう体の変化によって、お薬が「効きすぎたり」「抜けにくくなったり」するためです。若い頃と同じお薬・同じ感覚で使うと、思わぬ形で作用が強く出ることがあります。
お薬が体に長くとどまりやすい
年齢を重ねると、お薬を分解する肝臓や、排泄する腎臓の働きが、少しずつ低下します。また、体内の水分の割合が減り、脂肪の割合が増えるため、脂に溶けやすい睡眠薬は、体内に蓄積しやすくなります。その結果、同じお薬でも、若い方より体内に長くとどまり、効果が強く・長く出やすくなります。半減期の長いお薬ほど、この蓄積の影響は大きくなります。
脳が、お薬の影響を受けやすくなる
加齢とともに、脳自体も、鎮静作用に対して敏感になります。同じ血中濃度でも、若い方より強く効いてしまう、ということです。このため、少ない量でも、ふらつきや眠気、頭がぼんやりする感じが、強く出やすくなります。「体に長くとどまる」ことと「脳が敏感になる」ことが重なるため、高齢の方では「少量から、慎重に」が、治療の基本になります。
とくに気をつけたい、3つのリスク
高齢の方の睡眠薬で、とくに注意したいリスクを挙げます。これらは、厚生労働省や日本老年医学会の指針でも、くり返し注意が促されているものです。「こわいこと」を並べるためではなく、知っておくことで防げるからこそ、お伝えします。
①転倒・骨折
もっとも気をつけたいのが、転倒です。睡眠薬の影響でふらついたり、足元が不安定になったりして、とくに夜中にトイレへ起きたときなどに、転倒しやすくなります。高齢の方の転倒は、大腿骨などの骨折につながりやすく、それがきっかけで入院・寝たきりや、生活の質の大きな低下を招くことがあります。「たかが転倒」ではなく、その後の暮らしを左右する、重大な出来事になりうるのです。
厚生労働省の指針でも、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、転倒・骨折のリスクがあるため、高齢の方にはできるだけ使用を控え、とくに作用時間の長いものは避けるべきとされています。また、日本老年医学会は、これらを「特に慎重な投与を要する薬剤」と位置づけています。依存の少ない非ベンゾジアゼピン系のお薬でも、転倒のリスクはゼロではないと報告されており、油断は禁物です。
②もの忘れ・せん妄
睡眠薬は、記憶や意識にも影響することがあります。服用後の記憶があいまいになったり、夜中に目を覚ましたときに、頭が混乱して、つじつまの合わない言動をとる「せん妄」が起きたりすることがあります。ご家族から見ると、「急に認知症が進んだ」「別人のようになった」と映り、強く心配されることがあります。けれど、お薬が原因で起きている場合は、お薬の見直しによって改善することが少なくありません。認知症そのものと決めつけず、まず「お薬の影響かもしれない」と考えてみることが大切です。「様子がおかしい」と感じたら、遠慮なく主治医にご相談ください。
③日中への持ち越し
お薬が体に長くとどまるため、翌朝以降にも、眠気・だるさ・頭が働かない感じが残ることがあります。これが日中のふらつきや、意欲の低下、外出や会話がおっくうになるといった、活動性の低下につながることもあります。「最近、日中もぼんやりしている」「元気がない」という様子は、認知症や老化のせいと思われがちですが、じつは睡眠薬の持ち越しが原因のこともあります。日中の様子も、お薬を見直す大切な手がかりです。
高齢の方には、どんなタイプが選ばれるのか
こうしたリスクをふまえ、高齢の方の不眠治療では、お薬の選び方にも工夫がなされます。
まず、従来からよく使われてきたベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、転倒・骨折・もの忘れ・せん妄のリスクから、高齢の方にはできるだけ避けることが望ましいとされています。とくに、作用時間の長いタイプは、持ち越しや体内への蓄積の面から、より慎重な判断が求められます。すでに長く使っている場合も、急にやめるのではなく、時間をかけて、より安全なお薬へ切り替えていくことが検討されます。
かわりに近年、高齢の方に選ばれることが増えているのが、依存や転倒のリスクが比較的少ないとされる、新しいタイプのお薬です。ひとつは、覚醒のしくみにそっと働きかけるオレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ・ベルソムラ・クービビック・ボルズィ)。もうひとつは、体内時計のリズムを整えるメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)です。これらは、脳の機能を広く抑え込むのではなく、自然な眠りのしくみに沿って働くため、筋弛緩によるふらつきが起こりにくく、高齢の方にも比較的使いやすいと考えられています。
使い分けの目安としては、昼夜のリズムが乱れがち・朝型に偏りすぎている方にはメラトニン系が、中途覚醒・早朝覚醒が気になる方にはオレキシン系が、選ばれることがあります。ただし、どのお薬が合うかは、不眠のタイプ・持病・ほかに飲んでいるお薬によって、お一人おひとり異なります。「新しい薬なら安心」と一律に決まるものでもありませんので、主治医と相談しながら、その方に合った一つを選んでいきましょう。
お薬の前に、そして併せて|眠りの土台を整える
高齢の方の不眠では、お薬に頼る前に、あるいはお薬と併せて、生活習慣を整えることが、とても大切です。公的な指針でも、不眠にはまず薬以外の工夫を試みることが勧められています。お薬だけに頼るより、こうした土台づくりと組み合わせるほうが、少ない量で・安全に眠りを支えられます。とくに高齢の方で見直したいポイントを挙げます。
- 朝、決まった時間に起きて、光を浴びる:体内時計を整える基本です。日中の散歩は、光を浴びる意味でも、体を動かす意味でも効果的です。
- 昼寝は短めに、午後の早い時間に:長い昼寝や夕方の居眠りは、夜の眠りを浅くします。とるなら、昼過ぎに30分以内を目安に。
- 日中に活動する:日中の活動量が少ないと、体が「眠る必要」を感じにくくなります。無理のない範囲で、体を動かしましょう。人と会う・用事に出かけるといった予定も、生活にメリハリをつけます。
- 寝床で過ごす時間を、長くしすぎない:眠れないのに早くから布団に入り、長く横になっていると、かえって眠りが浅く、細切れになります。眠くなってから床に就くのが基本です。
- 夕方以降のカフェイン・寝酒を控える:緑茶・コーヒーなどのカフェインや、寝酒はどちらも、高齢の方の眠りを乱す原因になります。とくに寝酒は、ふらつきや転倒、夜間頻尿のもとにもなります。
- 夜間の転倒に備えた環境づくり:足元灯をつける、床に物やコードを置かない、トイレまでの動線に手すりを設けるなど、万一ふらついても転ばない工夫も、お薬と同じくらい大切です。
「年だから、眠れなくても仕方ない」とあきらめる必要はありませんが、同時に「昔と同じだけ眠らなければ」と気負いすぎないことも大切です。その方にとって心地よい眠りのかたちを、一緒に探していきましょう。
ご家族の方へ|見守るときに、気づいてほしいこと
離れて暮らすご家族が、高齢のご本人の睡眠薬を心配されて、このページにたどり着かれることも多いと思います。ご家族が見守るうえで、気にかけていただきたいことをお伝えします。
まず、次のような様子が見られたら、お薬が影響している可能性があります。日中にぼんやりしている、ろれつが回りにくい、ふらつきが増えた、転びやすくなった、もの忘れが急に増えた、夜中につじつまの合わない言動がある、意欲や活気が落ちた——こうした変化に気づかれたら、遠慮なく主治医にお伝えください。ご本人は、こうした変化を自覚しにくかったり、「薬のせいにして減らされたくない」と、言い出しにくかったりすることもあります。日々近くで見ているご家族からの情報は、安全にお薬を調整するうえで、何よりの手がかりになります。
また、ご本人が複数の医療機関から、いくつものお薬をもらっていることもあります(多剤併用・ポリファーマシー)。睡眠薬と、ほかのお薬(抗不安薬、一部のアレルギー薬、頻尿の薬など)が重なって、ふらつき・眠気・もの忘れを強めていることもあります。飲んでいるお薬をお薬手帳などで一つにまとめ、受診時に見せていただくと、こうした重なりを確認できます。「うちの親の、この薬は大丈夫でしょうか」というご相談も、どうぞお気軽にお寄せください。ご家族が付き添って来院いただくことも、歓迎しています。
よくある質問
高齢だと、睡眠薬は飲まないほうがいいのですか?
「絶対に飲んではいけない」ということではありません。ただ、高齢の方は効きすぎや転倒などのリスクがあるため、より慎重に、少量から、より安全なタイプを選んで使うことが大切です。生活習慣の工夫と併せながら、必要な範囲で、上手に使っていきます。眠れないつらさを、我慢し続ける必要はありません。
親が長年、同じ睡眠薬を飲んでいます。変えたほうがいいですか?
長く飲んでいるお薬が、必ずしも今のご本人に最適とは限りません。とくに、ベンゾジアゼピン系を長く使っている場合は、より安全なタイプへの切り替えを検討する価値があります。ただし、急な変更や中止は、かえって不眠や不調のもとになるため、必ず主治医と相談しながら、少しずつ進めてください。
睡眠薬を飲んでから、もの忘れが増えた気がします。
睡眠薬が、もの忘れや意識のぼんやりに影響していることがあります。「認知症が進んだ」と思われた症状が、お薬の見直しで改善する場合もあります。自己判断で中止せず、まず主治医にご相談ください。ご家族が気づかれた変化も、ぜひお伝えください。
夜中にトイレで起きるとき、ふらつきます。転ばないか心配です。
睡眠薬の影響で、夜間のふらつき・転倒が起こりやすくなることがあります。足元灯をつける、動線に物を置かないといった環境の工夫に加え、お薬の種類や量の見直しも有効です。転倒は骨折・寝たきりにつながることもあるため、遠慮なくご相談ください。
年のせいで眠れないだけなら、放っておいてもいいですか?
加齢による自然な変化であれば、必ずしも治療は必要ありません。ただし、つらさが強い、日中の生活に支障がある、気分の落ち込みをともなう、といった場合は、背景にうつ病などが隠れていることもあります。高齢の方の不眠は、うつのサインであることも少なくありません。判断に迷うときは、一度ご相談ください。
認知症があっても、睡眠薬は使えますか?
使える場合もありますが、認知症のある方では、せん妄などのリスクにより注意が必要です。お薬の種類を慎重に選び、少量から、様子を見ながら使います。まずは生活リズムを整える工夫を土台に、必要に応じて安全性の高いお薬を検討します。ご家族と相談しながら進めていきましょう。
当院の特徴|関内駅2分・平日夜間診療・当日予約対応・女性医師在籍
みなとメンタルクリニックは、関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分の、通いやすい立地にあります。祝日以外は毎日診療しており、平日は夜19時まで診療しているため、ご家族が付き添って来院しやすい時間帯もあります(土曜・日曜も診療)。当日のご予約にも対応していますが、枠の状況によっては、ご希望に添えない場合もございます。できるだけ同じ医師が継続して診療し、お薬についても、ご本人・ご家族にご納得いただきながら進めることを大切にしています。高齢の方の睡眠薬についても、転倒や持ち越しのリスクをふまえ、安全な選択を一緒に考えます。女性医師も在籍し、保険適用の心理検査にも対応しています。うつ病、不安症、不眠症、自律神経失調症、適応障害、認知症など、こころの不調全般を診療しています。
横浜・関内で、高齢の方の睡眠についてご相談したい方へ
「親の睡眠薬が心配」「年をとってから眠れない」「ふらつかない、安全なお薬に変えたい」——ご本人からのご相談も、ご家族からのご相談も、どうぞお気軽にお寄せください。高齢の方の不眠は、お薬の選び方ひとつで、安全性が大きく変わります。ご本人の生活や、ご家族の心配に寄り添いながら、いちばん安心できる方法を、一緒に考えていきます。
横浜・関内のみなとメンタルクリニックは、関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。祝日以外は毎日診療し、平日は夜間まで、土日も診療しています。当日のご予約にも対応しており(枠の状況によります)、みなとみらいエリアからも通院しやすいクリニックです。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町エリアからもお越しいただけます。
「こんなことで受診していいのだろうか」と、ためらう必要はまったくありません。眠れないつらさも、ご家族の心配も、我慢するものではありません。初めての方も、緊張されて当然です。私たちは、その一歩を、ていねいにお迎えします。
関連ページ
睡眠薬のタイプ・全体解説
- 睡眠薬とは(種類・作用・依存と安全なやめ方)
- 睡眠薬のやめ方・減らし方
- オレキシン受容体拮抗薬とは(デエビゴ・ベルソムラ・クービビック・ボルズィ)
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不眠そのものについて
- 不眠・睡眠障害について
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。