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2026/07/06

脳卒中(脳梗塞・脳出血)後の意欲低下・アパシー|リハビリが進まない背景を横浜・関内の精神科医が解説

脳卒中(脳梗塞や脳出血)を乗り越え、いよいよ回復に向けたリハビリテーションが始まった。ところが——ご本人が、どうにも気が乗らない様子を見せる。リハビリを勧めても「今日はいい」と言う。体は少しずつ動かせるようになっているのに、自分から動こうとしない。以前の、意欲的だったその人とは、まるで別人のよう。ご家族やリハビリのスタッフが、「どうしてやる気が出ないんだろう」と戸惑う——。

この「意欲のなさ」は、多くの場合、本人の甘えでも、リハビリをさぼりたいわけでもありません。脳卒中によって脳がダメージを受けた結果として生じる、アパシー(意欲・関心の低下)という症状であることが少なくないのです。そして、これはリハビリの成否を左右する、とても重要な問題です。このページでは、横浜・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、脳卒中後のアパシーについて、研究知見にもとづいて解説します。アパシー全体の解説はアパシー(意欲障害)とはをご覧ください。


脳卒中後、およそ3人に1人にアパシーがみられます

研究によると、脳卒中のあとにアパシーがみられる方は、およそ3人に1人と報告されています。決してまれなことではなく、脳卒中の後遺症として、体の麻痺や言葉の障害と同じように、意欲の低下が起こりうるのです。

脳卒中後のアパシーには、いくつかの特徴があります。ひとつは、脳卒中の直後(早いものでは発症から数日後)から現れることがあること。もうひとつは、時間がたっても、多くの方で持続しやすいことです。自然に軽くなる方は一部にとどまり、放っておいて時間が解決するとは限らない——だからこそ、早く気づいて対応することに意味があります。


アパシーとうつは、脳卒中後でも区別される

脳卒中のあとには、うつ(脳卒中後うつ)もよくみられ、これも約3割の方に生じるとされます。意欲の低下は、うつの症状でもあるため、アパシーとうつは混同されやすいのですが、脳卒中後においても、両者は区別できる別々の状態と考えられています。

実際、ある研究では、アパシーのある脳卒中患者さんのうち、うつを併発していたのは4割ほどにとどまり、残りの多くは、うつを伴わない「純粋なアパシー」だったと報告されています。つまり、「意欲がない=うつ」とは限らないのです。ここでも、見分けの鍵は苦痛の有無です。うつなら、気分の落ち込みや苦しさを本人が感じている。アパシーなら、意欲は乏しいが、本人はそれほど苦痛を感じていない。この違いが、対処の方向を分けます。くわしくはアパシーとうつ病の違い|見分け方をご覧ください。


なぜ脳卒中でアパシーが起きるのか

アパシーは、意欲を生み出す前頭前野と、その下にある大脳基底核を結ぶ回路(前頭皮質下回路)のはたらきの低下によって生じると考えられています。脳卒中が、この回路のどこか——とくに大脳基底核や、それにつながる部分——を傷つけると、意欲を生み出すしくみが影響を受け、アパシーが現れます。

研究でも、脳卒中後のアパシーは、大脳基底核を含む脳の深い部分(皮質下)の損傷と関連することが、比較的一貫して報告されています。興味深いことに、脳卒中後のうつとアパシーでは、関連する脳の部位に違いがある可能性も指摘されており、これは両者が異なる状態であることの、脳の面からの裏づけになっています。脳のしくみの一般的な解説はアパシーはなぜ起きる?脳のしくみと原因をご覧ください。


アパシーは、リハビリの妨げになります

脳卒中後のアパシーが重要なのは、それがリハビリテーションの成果に、直接影響するからです。研究では、脳卒中後のアパシーが、日常生活機能の低下、認知機能の低下、そしてリハビリの転帰の悪化と関連することが、繰り返し報告されています。

これは、考えてみれば当然のことです。リハビリは、本人が「良くなりたい」「動けるようになりたい」という意欲を持って、能動的に取り組むことで、はじめて効果を発揮します。アパシーによってその意欲が失われていると、どれほど良いリハビリのプログラムがあっても、それを活かしきれません。せっかくの回復のチャンスが、意欲の低下によって損なわれてしまう——これが、脳卒中後アパシーの、もっとも避けたい影響です。

逆に言えば、アパシーに気づいて対応することは、リハビリの効果を高め、回復を後押しすることにつながるのです。「やる気がない」で片づけず、症状として捉えることの意義は、ここにあります。


ご家族・周囲にできること

「怠けている」と責めない

くり返しになりますが、これがもっとも大切です。脳卒中後のアパシーは、脳のダメージによる症状であって、本人の意志の弱さではありません。「頑張って」「しっかりして」という叱咤は、本人を追い詰めるだけで、意欲を生み出しはしません。

小さな成功体験を、一緒に積む

アパシーのある方には、外からの働きかけと、達成しやすい小さな目標が助けになります。大きな目標を掲げるより、「今日はここまでできた」という小さな成功を、一緒に確認し、喜ぶ。その積み重ねが、少しずつ意欲を引き出します。リハビリのスタッフとも、「意欲の問題としてのアパシーがある」という認識を共有できると、関わり方がそろいます。

専門家に相談する

脳卒中後のアパシーには、まだ確立した特効薬があるわけではありませんが、背景にうつが混じっている場合はその治療が助けになることもあり、また、環境調整や関わり方の工夫で状態が変わることもあります。「リハビリが進まない」「意欲が戻らない」とお困りのときは、その背景を整理するためにも、ご相談ください。接し方の詳細はアパシーのセルフチェックと家族の対応もご覧ください。


よくあるご質問

リハビリを嫌がるのは、うつだからでしょうか?

うつの可能性もありますが、うつを伴わないアパシーのこともあります。両者は対処が異なるため、見分けが大切です。「気分が落ち込んでつらそう」ならうつ寄り、「つらそうではないが、意欲がわかない」ならアパシー寄り、というのが一つの目安です。確定には専門的な評価をおすすめします。

時間がたてば、意欲は戻りますか?

一部の方では自然に軽くなりますが、多くの方では持続しやすいことが報告されています。「そのうち戻るだろう」と待つより、早めに背景を整理し、リハビリと並行して対応するほうが、回復にとって有利です。

脳卒中の主治医(神経内科・脳外科)にかかっていますが、精神科にも相談していいのですか?

もちろんです。脳卒中そのものの治療は主治医のもとで続けていただき、意欲や気分の面でのつらさについて、精神科・心療内科が並行してサポートする、という形が可能です。主治医との連携も大切にします。


横浜・関内で相談したいとき

みなとメンタルクリニックは、JR関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・みなとみらいエリアで、ご本人やご家族が通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。脳卒中そのものの治療は神経内科・脳神経外科での治療が中心となりますが、その後の意欲や気分の面でのつらさについては、精神科・心療内科としてサポートできます。「リハビリが進まない」「意欲が戻らない」というご家族からのご相談も歓迎です。ご予約はWEB予約から。受診にあたってのご不明な点はよくある質問もご参照ください。


関連ページ

参考文献・情報源

  • van Dalen JW, et al. Poststroke Apathy. Stroke.(脳卒中後アパシーの有病率、うつとの独立性、リハビリ転帰との関連)
  • Hama S, et al. 脳卒中後のうつ・アパシーと病巣・機能回復に関する研究(感情性・アパシー性の2次元、大脳基底核との関連)
  • Treatment of apathy in stroke patients: a systematic review. Frontiers in Neurology. 2025(前頭皮質下回路の関与、治療研究の現状)
  • 脳卒中後アパシーと大脳基底核の血流低下・報酬感受性に関する研究
  • American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』

監修

田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。