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2026/07/06
パーキンソン病とアパシー(意欲低下)|ドパミンと意欲の深い関係を横浜・関内の精神科医が解説
パーキンソン病というと、手の震えや動作の遅さ、歩きにくさといった、体の症状を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、パーキンソン病には、体の症状と並んで、心や意欲にあらわれる症状があります。そのなかでも、患者さんとご家族の生活に、静かに、しかし大きな影響を及ぼすのが、アパシー(意欲・関心の低下)です。
「以前は意欲的だった人が、何もしなくなった」「リハビリを勧めても、気が乗らない様子」「体は少し動くようになったのに、自分から動こうとしない」——パーキンソン病の経過で、こうした変化に気づくご家族は少なくありません。そして、これらは「怠け」でも「性格の変化」でもなく、パーキンソン病という病気そのものに深く関わる、アパシーという症状であることが多いのです。このページでは、横浜・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、パーキンソン病とアパシーの関係を、ドパミンという物質を軸に解説します。アパシー全体の解説はアパシー(意欲障害)とはをご覧ください。
パーキンソン病では、アパシーが高頻度にみられます
研究によると、パーキンソン病でアパシーがみられる頻度は、平均しておよそ35〜40%と報告されています(研究による幅は13.9〜70%と広く、評価方法によって差があります)。これは、他の多くの神経の病気と比べても高い水準です。つまり、パーキンソン病の患者さんの、およそ3人に1人以上が、程度の差はあれアパシーを経験している可能性がある、ということになります。
重要なのは、このアパシーが、うつや疲労とは区別できる、独立した症状だと考えられている点です。かつては「アパシーはうつの一部では」とも考えられましたが、近年の研究では、パーキンソン病において、アパシー・うつ・疲労・不安は、重なりつつも分離できる別々の状態であることが、統計的な分析からも支持されています。だからこそ、それぞれを見分けて、それぞれに応じた対処を考えることが大切なのです。
なぜパーキンソン病でアパシーが起きるのか——ドパミンという鍵
パーキンソン病とアパシーの関係を理解する鍵は、ドパミンという神経伝達物質にあります。ここは、この記事の核心なので、ていねいにお話しします。
パーキンソン病は、脳のなかでドパミンを作る神経細胞が、少しずつ失われていく病気です。ドパミンが不足すると、手の震えや動作の遅さといった運動症状が現れます。これはよく知られていることです。しかし、ドパミンの役割は、体を動かすことだけではありません。ドパミンは、「やってみよう」という意欲を生み出し、報酬(良いこと)を予測して、そのために努力する——という心のはたらきにも、深く関わっているのです。
具体的には、脳の線条体という部分へのドパミンの供給が減ると、「労力をかけてでも、何かを得よう」という動機づけが弱まることが、研究で示されています。おもしろいことに、ドパミンが不足したときに損なわれるのは、「楽しむ力」そのものというより、「楽しみを得るために、労力を払おうとする力」だと考えられています。つまり、パーキンソン病のアパシーでは、「やれば楽しいかもしれない」と分かっていても、そこへ向かうエンジンが動きにくくなっている——そういう状態なのです。これは、意欲を生み出す脳の回路とドパミンの、まさに中心的なはたらきが影響を受けているために起こります。脳のしくみの一般的な解説はアパシーはなぜ起きる?脳のしくみと原因をご覧ください。
運動症状より先に、あるいは治療の陰で
パーキンソン病のアパシーには、注意すべきタイミングが2つあります。
ひとつは、運動症状がはっきりする前や、ごく早期から現れることがあるという点です。アパシーは、体の障害に対する落ち込みの結果として生じるだけでなく、病気そのものによって直接引き起こされる面があると考えられており、早期にも進行期にもみられます。
もうひとつは、薬による治療の調整のなかで、アパシーが目立つことがあるという点です。パーキンソン病の治療では、ドパミンを補う薬が使われますが、薬の効果が切れている時間帯(いわゆるオフの状態)には、運動症状とともに、意欲の低下や気分の変動が強まることがあります。これは、意欲がドパミンの状態と連動していることの、ひとつの表れです。こうした変動に気づいたら、それは主治医に伝えるべき大切な情報になります。
アパシーを見逃さないほうがよい理由
パーキンソン病のアパシーは、放置すると、いくつかの点で経過に影響します。研究では、アパシーが日常生活機能の低下、認知症を発症するリスクの増加、そして運動症状の治療への反応の悪化と関連することが報告されています。
とくに見過ごせないのが、リハビリテーションへの影響です。せっかく薬や治療で体が動かせるようになっても、アパシーのために「動こうという気持ち」がわかなければ、その改善を活かせません。リハビリに前向きに取り組めない背景に、意欲の問題としてのアパシーが隠れていることは、実際によくあります。「本人のやる気がない」と片づけず、アパシーという症状として捉えることで、対応の糸口が見えてきます。
うつ・疲労との見分け
パーキンソン病では、アパシー・うつ・疲労が同時にみられることも多く、見分けが難しい場合があります。大まかな手がかりを挙げます。
- アパシー:意欲・関心が乏しいが、本人は苦痛をあまり感じていない
- うつ:気分の落ち込み・悲しみ・自責を伴い、本人が苦しんでいる
- 疲労:「疲れて動けない」という感覚が中心。休息を求める
これらは重なることもあり、確定には専門的な評価が必要です。うつとアパシーの詳しい見分けはアパシーとうつ病の違い|見分け方を、疲労については休んでも疲れが取れない・常に疲れているもご参照ください。大切なのは、それぞれ対処が異なるため、まとめて「元気がない」で済ませないことです。
対処の考え方
パーキンソン病のアパシーに対して、まず大切なのは、神経内科の主治医と連携しながら、背景を整理することです。ドパミンを補う薬の調整が、意欲面に良い影響を与えることもあり、薬の効き方と意欲の変動の関係を見極めることが対応の出発点になります。あわせて、うつが混じっている場合には、その治療も検討されます。
薬物的な対応に加えて、環境の工夫や、周囲の関わり方も重要です。無理のない範囲で活動のきっかけを用意する、達成しやすい目標を設定する、できたことを一緒に喜ぶ——こうした関わりが、意欲を支えます。「怠けている」と責めるのは逆効果です。ご家族の関わり方についてはアパシーのセルフチェックと家族の対応もご覧ください。当院は精神科・心療内科として、神経内科での治療と並行して、気分や意欲の面からのサポートを行えます。
よくあるご質問
本人にやる気がないのは、性格や気持ちの問題でしょうか?
いいえ。パーキンソン病のアパシーは、病気によるドパミンのはたらきの変化が背景にある、症状のひとつです。性格や気持ちの持ちようの問題ではありません。「怠けている」と責めず、症状として捉えることが、適切な対応の第一歩です。
パーキンソン病の薬で、アパシーもよくなりますか?
ドパミンを補う薬の調整が、意欲面に良い影響を与えることがあります。ただし、効果には個人差があり、薬だけで十分とは限りません。神経内科の主治医と相談しながら、薬の調整と、環境や関わりの工夫を組み合わせるのがよいでしょう。
リハビリを嫌がります。どうすれば?
リハビリへの意欲のなさの背景に、アパシーがあることは少なくありません。無理強いより、小さく達成できる目標から始め、できたことを一緒に確認する関わりが助けになります。意欲の問題として主治医やリハビリのスタッフと共有することも大切です。
横浜・関内で相談したいとき
みなとメンタルクリニックは、JR関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・みなとみらいエリアで、ご本人やご家族が通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。パーキンソン病の運動症状は神経内科での治療が中心となりますが、意欲や気分の面でのつらさについては、精神科・心療内科としてサポートできます。「意欲の低下が気になる」というご相談も、ご家族からのご相談も歓迎です。ご予約はWEB予約から。受診にあたってのご不明な点はよくある質問もご参照ください。
関連ページ
参考文献・情報源
- Pagonabarraga J, et al. Apathy in Parkinson’s disease: clinical features, neural substrates, diagnosis, and treatment. Lancet Neurology. 2015(パーキンソン病のアパシーの臨床・神経基盤・治療)
- Apathy in Parkinson’s Disease: Diagnosis, Neuropsychological Correlates, Pathophysiology and Treatment(有病率の平均約35%、機能低下との関連)
- Deconstructing Apathy in Parkinson’s Disease. Frontiers in Neurology. 2021(アパシー・うつ・疲労・不安が分離可能な症候群であること、認知症リスク・運動治療反応との関連)
- 努力ベースの意思決定における線条体ドパミンの役割とアパシー・アンヘドニアに関する研究(パーキンソン病でアパシー約40%、アンヘドニア約46%)
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』
監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。