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2026/06/29
パニック障害になりやすい人とは?原因・なりやすい性格・引き金を精神科医がやさしく解説
「どうして自分が、パニック障害になってしまったのだろう」「心が弱いからだろうか」――発作のつらさに加えて、こうした問いと、自分を責める気持ちを抱えている方は、本当に少なくありません。だから、まずこれだけはお伝えさせてください。パニック障害は、本人の弱さや、性格の問題で起こる病気ではありません。脳のしくみ、体質、ストレス――いくつもの要因が偶然に重なったときに、誰にでも起こりうる病気なのです。
このページでは、パニック障害がなぜ起こるのか、どんな要因が関わっているのか、そして「なりやすい」とされるのはどういう方なのかを、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、診察室の語り口で解説します。原因を正しく知ることは、自分や家族を責めずにすむことにつながり、治療への納得にもつながります。パニック障害全体の解説は、パニック障害とは?症状・原因・治療もあわせてご覧ください。
パニック障害は「ひとつの原因」では起こらない
パニック障害には、「これさえなければ起こらなかった」というような、たったひとつの原因があるわけではありません。多くの場合、その人がもともと持っている「なりやすさ」――体質や脳の特性という土台に、生活のなかのストレスや引き金が重なったときに、発症すると考えられています。
同じ出来事を経験しても、発症する人としない人がいるのは、この土台と引き金の組み合わせが、一人ひとり違うからです。コップにたとえてみましょう。もともとの水位(なりやすさ)が高い人ほど、少しの水(ストレス)が注がれただけで、あふれてしまう。逆に水位が低ければ、同じだけ注がれても、まだ余裕がある。だから「あの人は平気だったのに、自分は」と比べても、意味がないのです。そして大切なのは、この土台の多くが、「気の持ちよう」ではなく、脳という臓器のはたらきに関わるものだということ。順に見ていきましょう。
原因1:脳の「恐怖を扱うしくみ」の特性
近年の脳科学でもっとも重視されているのが、脳の「恐怖を感じ、コントロールするしくみ」の特性です。パニック障害のある方の脳には、画像研究などから、いくつかの特徴が指摘されています。
ひとつは、扁桃体(へんとうたい)という「警報装置」が過敏になっていること。扁桃体は、脳の奥にあって、恐怖や危険を感じとる役割をします。パニック障害では、これが敏感になりすぎていて、本来は危険でないわずかな体の変化――たとえば少しの動悸――にも、過剰に反応して警報を鳴らしてしまうと考えられています。しかも扁桃体は、恐怖の記憶と結びつきやすい性質があるため、一度発作が起きると、その場所や状況を「危険」として覚えこみ、くり返しやすくなります。
もうひとつが、その警報をなだめる「ブレーキ」が弱まっていること。前頭前野(ぜんとうぜんや)は、扁桃体の警報に対して「大丈夫、危険ではない」とブレーキをかける、理性の役割をします。パニック障害では、このブレーキのはたらきが落ちていて、いったん鳴った警報を抑えにくくなっていると指摘されています。アクセル(扁桃体)が過敏で、ブレーキ(前頭前野)が効きにくい――このアンバランスが、発作の起こりやすさにつながっているわけです。
さらに、脳の神経どうしの情報のやりとりを担う神経伝達物質のバランスも関わります。気分や不安を整えるセロトニン、警戒や興奮に関わるノルアドレナリン(青斑核という部分から放出されます)、脳の興奮を鎮めるGABA――こうした物質のバランスの乱れが、発作の起こりやすさに関わるとされています。SSRIなどのお薬が効くのは、このうちセロトニンのはたらきを整えるからです。
原因2:体が「窒息」と勘違いしやすい――二酸化炭素への過敏さ
これは少し専門的ですが、パニック障害を理解するうえで、とても興味深い特徴です。研究から、パニック障害のある方は、血液中の二酸化炭素のわずかな上昇に対して過敏であることが報告されています。
私たちの脳幹には、血液中の二酸化炭素の濃度を見張り、「ちゃんと酸素が足りているか」を監視する、いわば「窒息センサー」のような部分があります。パニック障害のある方では、このセンサーが敏感になりすぎていて、実際には何の問題もないわずかな変化を、「窒息しそうだ」「息ができなくなる」という誤った緊急信号として受け取り、扁桃体に伝えてしまうと考えられています。これを「窒息の誤警報」と呼びます。発作のときのあの強烈な息苦しさや、「このまま死ぬのではないか」という感覚の背景には、これがあると見られています。火災報知器の誤作動と同じことが、呼吸のセンサーで起きている――そうイメージすると分かりやすいかもしれません。
原因3:遺伝・体質――「なりやすさ」が少しだけ受け継がれる
家族に、パニック障害や不安の病気を経験した人がいる場合、発症のリスクがやや高まることが知られています。双子を対象にした研究などから、なりやすさには遺伝的な要素が3〜5割ほど関わると推定されています。親・子・きょうだいに経験者がいると、一般の人より発症リスクが数倍高い、という報告もあります。
ただ、ここは誤解しないでいただきたいのですが、「遺伝するから、必ずなる」という意味ではありません。パニック障害は、ひとつの遺伝子で決まる病気ではなく、複数の体質的な要素がからみ合う病気で、原因となる単一の遺伝子は見つかっていません。受け継がれるのは、あくまで「不安を感じやすい体質」という傾向であって、運命ではないのです。同じ体質を持っていても、環境や対処しだいで、発症しない人はたくさんいます。
原因4:もともとの気質――不安の感じやすさ
生まれ持った気質も、なりやすさに関わります。とくに研究で指摘されているのが、「不安感受性」と呼ばれる特性です。これは、動悸やめまいといった体の感覚そのものを、「何か危険なことの前ぶれだ」と受け取りやすい傾向のことです。
たとえば、運動やサウナで心臓がドキドキしたとき、たいていの人は気にとめません。けれど不安感受性が高いと、その同じ動悸を「何か悪いことが起きるのでは」と感じ、不安が高まり、それがまた動悸を強める――という反応が起こりやすいのです。また、子どものころから、初めての場面や強い刺激に対して慎重で、引っ込み思案だった方も、不安の病気になりやすいとされることがあります。これも、性格の良し悪しの話ではなく、生まれ持った神経の感じ方の個性、と考えてください。
原因5:ストレス・疲労――発症の引き金
こうした「なりやすさ」の土台があるところに、強いストレスや疲労が重なったとき、最初の発作が引き起こされることが多いとされています。引き金になるものは、さまざまです。仕事の過労や長時間労働、責任の重さ、職場の人間関係。引っ越し、転職、異動、昇進といった環境の変化。家庭の問題、育児や介護の負担。大切な人との死別や別れ。妊娠・出産・更年期などのホルモンの変化。あるいは、睡眠不足、慢性的な疲労、病気やケガからの回復期――。
ここで注目していただきたいことが、二つあります。ひとつは、つらい出来事だけでなく、昇進や結婚のような、一見うれしい変化も引き金になりうるということ。ストレスとは「悪いこと」だけを指すのではなく、「変化」そのものが、心と体への負荷になるのです。もうひとつは、心理的なストレスだけでなく、過労や寝不足といった身体的な疲労も、大きな引き金になるということ。強いストレスが続くと、体のストレス反応をつかさどるしくみ(自律神経やホルモンの調整)が乱れ、発作が起きやすい状態になると考えられています。「がんばり続けて、限界を超えたところで、最初の発作が来た」――そうおっしゃる方は、本当に多いのです。
パニック障害になりやすいとされる性格
性格の傾向として、まじめで責任感が強い、完璧主義できちんとやり遂げたい、人に気をつかい頼まれごとを断れない、不安や恐怖を感じやすく心配性、自分の体の変化に敏感、感情を表に出さずつらさをためこみやすい――こうした特徴のある方は、なりやすいとされることがあります。ただし、これは「こういう性格だから悪い」という話では、まったくありません。
むしろ、ここに挙げた多くは、社会のなかでは「長所」として評価される性質です。まじめで責任感が強いからこそ、無理を抱えこみ、限界まで頑張りすぎてしまう。人に気をつかうからこそ、助けを求めるのが遅れてしまう。つまり、性格そのものが悪いのではなく、その美点が、ときに自分を追い込む方向にはたらいてしまう、ということなのです。あなたがこれまで大切にしてきた誠実さや責任感は、決して否定されるべきものではありません。むしろ、その良さを、これからは自分自身にも向けてあげてほしいと思います。
発作を起こしやすくする「引き金」――生活のなかの注意点
発症の背景とは別に、すでにパニック障害がある方の場合、いくつかのものが発作を誘発したり、悪化させたりすることが知られています。心当たりがあれば、少し控えめにすることをおすすめします。
まずカフェイン。コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインには、神経を興奮させ、心拍を上げる作用があります。とりすぎると動悸や不安が強まり、発作の引き金になることがあります。「不安なときに、コーヒーで一息」が、かえって逆効果になることもあるので、量には気をつけたいところです。
意外に思われるかもしれませんが、喫煙も、パニック障害の発症・悪化と関連することが報告されています。ニコチンの刺激作用や、体に取り込まれる一酸化炭素の影響などが関わると考えられています。「タバコで落ち着く」という感覚とは裏腹に、長い目で見ると、不安を強めうるのです。
アルコールも注意が必要です。お酒は一時的に不安をやわらげるように感じられますが、酔いがさめるとき――とくに翌朝など――に、かえって不安や動悸が強まり、発作を誘発することがあります。不安を紛らわすための飲酒は、悪循環につながりやすいのです。お薬を飲んでいる場合は、飲み合わせの問題もあります。
そして睡眠不足・過労。これらは自律神経のバランスを乱し、発作を起こしやすくします。十分な休養と睡眠は、それ自体が、立派な予防になります。あわせて、二酸化炭素への過敏さとも関連して、閉めきった狭い空間や、空気のこもった環境で息苦しさを感じやすい方もいます。こまめに換気をして新鮮な空気を入れることが、安心につながることもあります。
「自分のせいだ」と、責める必要はありません
パニック障害になると、多くの方が「自分が弱いからだ」「もっとしっかりしていれば」と、自分を責めてしまいます。けれど、ここまで見てきたとおり、パニック障害は脳のしくみ、体の過敏さ、体質、ストレスが複雑に重なって生じる病気であって、性格の弱さや努力不足で起こるものではありません。むしろ、まじめに頑張りすぎた結果として、発症することが少なくないのです。
ご家族も、「気の持ちようだ」と考えたり、これまでの関わり方を責めたりする必要はありません。原因をひとつに決めつけて悔やむよりも、「今、回復のために何ができるか」へ目を向けることが、何より大切です。そして、パニック障害は適切な治療によって、良くなることが期待できる病気です。なりやすさという土台そのものは変えられなくても、引き金を減らし、脳のはたらきをお薬で整え、発作との向き合い方を身につけていくことで、ちゃんと回復に向かっていけます。
横浜・関内で、パニック障害にお悩みの方へ
「なぜ自分が」と一人で悩み続けるより、まずは専門医に相談することが、回復への近道です。みなとメンタルクリニックは、関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分。横浜市中区・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。土日も診療しておりますので、平日に通いにくい方も、どうぞご相談ください。発作の背景にあるものを一緒に整理しながら、回復を支えていきます。WEB予約はこちらから、ご不明な点はよくある質問もご覧ください。
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参考文献・情報源
- 厚生労働省|不安障害|こころの病気について知る
- 日本不安症学会|パニック症の診療ガイドライン
- 日本精神神経学会|精神疾患の診断と治療に関する資料
- DSM-5-TR(アメリカ精神医学会)/ICD-11(世界保健機関)
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。