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2026/06/16
動悸や息苦しさは不安のせい?パニック発作との関係を横浜・関内の精神科医が解説
深夜の救急外来。心電図、採血、レントゲン。一通りの検査が終わって、医師が言う。
「異常はありませんね。ストレスでしょう」
ほっとするはずのその言葉に、なぜか納得できない。あの動悸は本物だった。息ができなかったのも、死ぬかと思ったのも、全部本当だった。それなのに「異常なし」——では、あれは何だったのか。気のせいだったのか。
この記事は、そういう夜を経験した方のために書きます。あなたの症状は、気のせいではありません。実際に、心臓は速く打っていました。呼吸も乱れていました。ただ、その原因が心臓ではなかった、というだけです。横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。
動悸・息苦しさが続く方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。内科も併せて診療しており、体の病気の除外も含めて評価できます。
▶ WEB予約はこちら(当日予約可)/初めての方は初診の方へをご覧ください。
まず、大切な確認から
精神科医として、最初にはっきり申し上げます。胸の症状で、まず体の病気を除外することは、絶対に必要です。
次のような症状があるときは、不安のせいと決めつけず、ためらわず救急や内科を受診してください。
- これまで経験したことのない、強い胸の痛み
- 締めつけられるような痛みが、肩や腕、顎に広がる
- 意識が遠のく、実際に失神した
- 激しい呼吸困難
- 安静にしていても続く強い症状
この記事は、すでに検査を受けて「異常なし」と言われたのに、症状がくり返される方に向けたものです。パニック障害と間違えやすい病気の記事で、見分けをさらに詳しく解説しています。
「検査で異常なし」の、本当の意味
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
「異常なし」は、「症状がなかった」という意味ではありません。「心臓や肺という臓器には、壊れているところがない」という意味です。
あなたの心拍は、実際に上がっていました。呼吸も乱れ、手も震えていた。それは全部、本当に起きたことです。ただ、原因は心臓の故障ではなく、心臓に「速く打て」と命令を出した側——脳と自律神経にあった。それだけの違いです。
エンジンが壊れているのではなく、アクセルが誤って踏まれている。だから、心臓をいくら調べても、答えは出ないのです。
脳と体で、何が起きているのか
誤警報が、体を戦闘態勢にする
不安の総論で書いたとおり、脳には扁桃体という警報装置があります。危険を察知すると警報を鳴らし、体を「闘うか逃げるか」の態勢に切り替える。
このとき、脳幹の青斑核からノルアドレナリンが一気に放出され、交感神経が全開になります。すると、体は次のように動きます。
- 心臓:筋肉に血を送るため、速く強く打つ → 動悸
- 呼吸:酸素を取り込むため、速く浅くなる → 息苦しさ
- 血管:手足の血管が収縮する → 手足の冷え、しびれ
- 筋肉:いつでも動けるよう緊張する → 震え、胸の圧迫感
- 汗腺:体温上昇に備える → 発汗
- 消化:今は消化どころではないと判断 → 吐き気、腹部の不快感
すべて、命を守るための、正しい反応です。問題は、目の前に危険が何もないのに、この反応が起きていること。パニック障害の記事で書いた「脳の誤警報」とは、このことです。
過呼吸——「息が吸えない」の正体
ここは誤解が多いので、丁寧に説明します。
発作のとき、多くの方が「息が吸えない」と感じます。だから必死に吸おうとする。ところが、実際に起きていることは真逆です。吸いすぎているのです。
速く浅い呼吸をくり返すと、体内の二酸化炭素が過剰に排出されます。すると血液がアルカリ性に傾き、次のような現象が起こります。
- 脳の血管が収縮する → めまい、頭が締めつけられる感じ、現実感のなさ
- 手足や口のまわりがしびれる、ピリピリする
- 筋肉がこわばる(テタニー) → 手が硬直する
- そして、「息苦しい」という感覚がさらに強まる
最後の一行が、悪循環の核心です。吸えば吸うほど、息苦しくなる。そして「もっと吸わなければ」と焦る。だから、発作のときに必要なのは「吸うこと」ではなく「ゆっくり吐くこと」です。具体的な対処はパニック発作が起きたときの対処法で詳しく解説しています。
「身体感覚への過敏さ」——不安が症状を増幅する
もうひとつ、重要な仕組みがあります。
パニック障害や不安症の方では、体内の小さな変化に対する感受性が高まっていることが知られています。階段を上って心拍が少し上がった。コーヒーを飲んで動悸がした。暑くて汗をかいた。——健康な人なら気にも留めない変化を、脳が「発作の前ぶれだ」と検知してしまう。
すると不安が生じ、不安は交感神経を刺激し、実際に心拍と呼吸が乱れる。「体の変化 → 不安 → さらなる体の変化」という自己増殖の回路が回り始め、本物の発作へと育っていきます。
つまり、発作への恐怖そのものが、発作を作っている。この構造を理解することが、治療の出発点になります。
動悸・息苦しさの、不安以外の原因
「異常なし」と言われても、念のため確認したい原因があります。
体の病気
- 甲状腺機能亢進症:動悸、発汗、体重減少、いらいら、手の震え。不安症と極めてよく似ます。血液検査でわかるため、必ず確認します。
- 不整脈:発作性の頻脈は、症状が出ているときでないと心電図に映らないことがあります。「検査時には収まっていた」場合、ホルター心電図など時間をかけた検査が必要になることも。
- 貧血:酸素を運ぶ力が落ち、動悸や息切れが出ます。
- 低血糖:動悸、発汗、震え。食事を抜いたときに出やすい。
- 喘息など呼吸器の病気
- 更年期のホルモン変動:ほてり、動悸として現れます。
物質
- カフェイン:これは強調しておきたい。カフェインはそれ自体が動悸を引き起こす物質です。しかも、パニック障害の方はカフェインに対する感受性が高いことが知られています。「不安が強い」と訴える方の生活を伺うと、コーヒーやエナジードリンクを一日に何本も、ということが少なくありません。カフェインの記事もご覧ください。
- アルコール:飲んでいる間は落ち着いても、抜ける過程——とくに明け方に、反動の動悸と不安が来ます。
- ニコチン、一部の市販薬・サプリメント
睡眠不足
睡眠不足は交感神経を高ぶらせ、扁桃体を過敏にします。眠れない日が続くと、それだけで発作が起きやすくなる。不眠と心の不調は互いを強め合う回路を作ります。
不安による症状は、どんな出方をするか
体の病気との見分けの手がかりとして、不安による動悸・息苦しさには、いくつかの特徴があります(もちろん、自己判断で確定させないでください)。
- 突然始まり、数分〜十数分でピークに達する
- 「死ぬのではないか」という強烈な恐怖を伴う
- 手足や口のまわりのしびれを伴うことがある(過呼吸の特徴)
- 安静時にも起こる(労作性の狭心症とは異なる)
- 検査では異常が出ない
- 特定の状況——電車、人混み、会議——で起きやすい
とくに最後の項目が当てはまるなら、予期不安と広場恐怖が育ち始めているサインです。
治療——症状は、必ず軽くできます
① まず、仕組みを知ること
治療で最初に効くのは、実は薬ではありません。この記事に書いたような仕組みを、正しく理解することです。
「この動悸は、心臓の故障ではなく、警報システムの空回りだ」「息苦しいのは、吸えないからではなく、吸いすぎているからだ」——そう理解できると、症状への恐怖が減ります。そして恐怖が減れば、悪循環の燃料が減り、症状そのものが減っていく。
これは気休めではなく、治療の第一歩として確立された考え方です。
② 薬物療法
発作をくり返している場合、SSRIを中心とした抗うつ薬が用いられます。セロトニンのはたらきを整え、発作の起こりにくい状態へ底上げしていく薬です。効果が出るまで数週間かかること、飲み始めに一時的にそわそわ感が出ることがあるためごく少量から始めることは、押さえておいてください(パニック障害の薬物療法)。
強い発作が続く時期には、即効性のある抗不安薬を頓服として補助的に使うこともあります。ただし依存の問題があるため、必要最小限・短期間にとどめます。当院は、向精神薬の多剤投与・大量投与・長期処方を可能な限り控える方針です。
③ 生活面
- カフェインをやめる、または大幅に減らす。動悸を直接引き起こす物質を摂り続ける理由はありません。効果を最も実感しやすい一手です。
- お酒に頼らない。抜ける過程で反動が来ます。
- 睡眠を確保する。睡眠衛生の記事をご覧ください。
- 呼吸は、ゆっくり長く吐く。吸うことより、吐くことに意識を向けてください。
受診の目安
- 検査で異常なしと言われたのに、動悸や息苦しさがくり返される
- 「また起きるのでは」という不安が、日常に居座っている
- 症状を恐れて、電車や人混みを避けるようになった
- 症状のせいで、仕事や生活に支障が出ている
- 不安をまぎらわすために、お酒の量が増えている
早く相談するほど、回避が広がる前に手を打てます。そして回避が広がっていないほど、回復は早い。「気にしすぎと言われそうで」とためらわないでください。当院は、その症状が気のせいでないことを、よく知っています。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。祝日以外は毎日診療しており、当日のご予約にも対応しています(枠の状況によります)。精神科・心療内科に加えて内科も診療しているため、体の病気の除外も含めた評価が可能です。女性医師も在籍しています。
よくある質問
「ストレスですね」と言われましたが、納得できません。
その違和感は、もっともです。「ストレス」の一言では、なぜ心臓が速く打ったのかが説明されていないからです。この記事に書いたとおり、脳の警報が誤作動し、自律神経を通じて心臓と呼吸に指令が出た——そこまで説明されて、初めて腑に落ちるはずです。仕組みがわかれば、対処もできます。
紙袋を口に当てる方法は有効ですか?
おすすめしません。かつて過呼吸の対処として広まりましたが、酸素が不足して危険な事態を招く可能性があり、現在は推奨されていません。すべきことは、ゆっくり長く息を吐くことです。詳しくはパニック発作が起きたときの対処法をご覧ください。
発作で死ぬことはありますか?
パニック発作そのもので命を落とすことはありません。あの恐怖は本物ですが、危険の中身は誤警報です。ただし、繰り返しになりますが、体の病気の除外は必ず受けてください。その前提のうえでの話です。
症状が出ていないときに受診しても、意味がありますか?
あります。発作は、診察室では起きないことがほとんどです。それでも、発作の状況、頻度、きっかけ、その後の不安——これらを伺えば、見立ては立てられます。「症状が出ているところを見せられない」ことを、気にしないでください。
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不安に関する記事の一覧は「不安症・不安障害について」カテゴリページ、パニック障害については「パニック障害について」カテゴリページからご覧いただけます。
参考文献・情報源
- 厚生労働省|不安障害|こころの病気について知る
- 厚生労働省|パニック障害(パニック症)の認知行動療法マニュアル
- 日本不安症学会|パニック症の診療ガイドライン
- DSM-5-TR(アメリカ精神医学会)/ICD-11(世界保健機関)
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。