Blog ブログ

2026/07/13

長時間労働で眠れない・休んでも疲れが取れない——過労のサインと受診の目安を横浜・関内の精神科医が解説

「こんなに疲れているのに、なぜ眠れないんだろう」——深夜、仕事から帰って布団に入っても、頭の中はまだ会社にいる。神経が張りつめたまま、目だけが冴えている。

やっと眠れても、数時間で目が覚める。週末は昼まで寝ているのに、月曜の朝には疲れが戻っている。「寝ても取れない疲れ」を栄養ドリンクとカフェインで押し流しながら、また終電で帰る——。

この状態には、はっきりした仕組みがあります。「疲れているのに眠れない」のは矛盾ではなく、過労が一定の線を越えたときに起こる、典型的な症状です。そしてそれは、心と体が過労の限界圏に入ったことを示す、見逃してはいけないサインです。

この記事は、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックがお届けする「現代の働き方とメンタル不調」ガイドの一記事です。過労がなぜ不眠という形で現れるのか、危険水域を測る客観的なものさし、そして「休んでも取れない疲れ」からの回復の道筋を、産業医資格を持つ精神科医が解説します。働き方による不調の全体像は現代の働き方とメンタル不調——テレワーク・常時接続・成果主義がなぜ心を削るのかにまとめています。

すでに限界を感じている方は、WEB予約はこちらから当日のご予約も可能です。土日も診療しています。


「疲れているのに眠れない」の正体——過覚醒

健康な状態では、疲れれば眠くなります。この当たり前の仕組みが壊れるのは、脳が「休むモード」に切り替わらなくなるためです。

長時間労働が続くと、体は日中のストレスに対応するため、交感神経を優位にし、ストレスホルモン(コルチゾールなど)を出し続けます。本来、夜になればこのシステムは鎮まるのですが、緊張状態が長く続くと、切り替えのスイッチ自体が利かなくなります。これが「過覚醒」と呼ばれる状態です。体はくたくたなのに、脳のアクセルが踏まれたまま戻らない——だから、疲労と不眠が同居するのです。不眠症の研究では、この過覚醒が慢性不眠の中核的なメカニズムと考えられています。

つまり、「疲れているのに眠れない」が始まったら、それは疲労の量が、あなたの回復システムの処理能力を超えたという合図です。気合いや睡眠グッズの問題ではなく、システムの過負荷の問題です。


危険水域を測る、2つのものさし

① 労働時間——「月80時間」という国の基準

主観的な「まだ頑張れる」は、過労の測定にはあてになりません。疲労が深まるほど、自分の状態を正確に見積もる力そのものが落ちるからです。そこで、客観的なものさしを使ってください。

国は、時間外労働が月100時間、または2〜6か月平均で月80時間を超えると、脳・心臓疾患の発症との関連が強まるとして、労災認定の基準に採用しています。いわゆる「過労死ライン」です。月80時間の残業とは、毎日4時間残業して土日に休む生活——「うちの職場では普通」と感じる方もいるかもしれませんが、国が健康障害リスクの明確な線として扱う水準です。さらに、WHOとILOの共同研究では、週55時間以上の労働は週35〜40時間と比べて脳卒中や心疾患のリスクを有意に高めることが示されています。長時間労働の害は、精神論ではなく、国際的なデータで裏づけられた事実です。

まず、直近3か月の自分の時間外労働を、ざっくりでよいので計算してみてください。月80時間前後かそれ以上なら、症状の有無にかかわらず、あなたはすでに危険水域で働いています。

② 回復力——「休日で戻るか」というテスト

もうひとつのものさしは、回復のほうです。健康な疲労は、一晩の睡眠と週末の休養で回復します。次の項目に当てはまるものがないか、確認してください。

  • 疲れているのに寝つけない。眠りが浅く、夜中や明け方に目が覚める
  • 週末にたっぷり寝ても、月曜の朝に疲れが残っている
  • 休日は寝て終わる。趣味や外出をする気力が残っていない
  • 頭痛・肩こり・胃の不調・動悸が慢性化している
  • カフェインや栄養ドリンクの量が明らかに増えた
  • 寝るためにお酒を飲むようになった
  • ささいなことでイライラする。ミスが増えた

「休んでも戻らない疲れ」は、通常の疲労と質が違います。それは疲労の蓄積が生理的な回復力を超え、慢性疲労の段階に入ったサインであり、この段階を放置した先に、うつ病や体の病気が待っています。実際、労働時間と睡眠不足の蓄積が、うつ状態や脳・心臓疾患のリスクを高めていくことは、国の労災認定基準の考え方の根幹にもなっています。休んでも取れない疲れの仕組みは何もしていないのに疲れる・休んでも回復しない——「心の疲労」の正体でも詳しく解説しています。


過労はどう進行するか——3つの段階

第1段階(張りつめ期)——忙しいが、気力で回っている。寝つきが悪い日が出はじめる。カフェインが増える。本人は「充実している」と感じていることすらあります。

第2段階(消耗期)——「疲れているのに眠れない」が常態化。休日で疲れが取れなくなり、頭痛や胃の不調など体の症状が慢性化。イライラとミスが増える。この段階でも多くの方は「繁忙期が終われば」と我慢を続けます。

第3段階(破綻期)——ある朝、突然体が動かなくなる。涙が止まらない。強い動悸やめまいで出勤できない。うつ病、適応障害、あるいは体の病気として、一気に表面化します。周囲からは「突然倒れた」ように見えますが、実際には第1・第2段階が数か月から数年、先行しています。

この記事を読んでいるあなたは、おそらく第2段階のどこかにいます。そして知っていただきたいのは、第2段階と第3段階では、回復に必要な期間が桁違いに変わるということです。第2段階なら、働き方の調整と睡眠の治療で数週間〜数か月で立て直せることが多い。第3段階まで進むと、休職を含めて年単位の回復期間を要することが珍しくありません。すでに朝、体が動かない・涙が出る状態の方は、月曜の朝、体が動かない・涙が出る——出社前の身体症状はうつのサイン?で緊急度を確認し、早急にご相談ください。


回復の道筋——順番を間違えないこと

① 睡眠の確保を、業務より上位に置く

回復の出発点は睡眠です。しかし過覚醒の状態では「早く布団に入る」だけでは眠れません。まず、就寝前の1〜2時間を仕事から物理的に切り離すこと。メールとチャットの通知を切り、パソコンを閉じ、可能なら入浴で体温のリズムを作る。それでも眠れない状態が2週間以上続いているなら、不眠自体の治療を受けてください。不眠を放置したまま働き続けることが、第3段階への最短ルートです(不眠・睡眠障害についての解説記事一覧)。就寝前の通知が切れない方は通知が気になって休めない——常時接続・「つながらない権利」とストレスもご覧ください。寝酒だけは避けてください。睡眠の質を確実に悪化させ、量が増えていきます。

② 労働時間を「交渉の議題」に載せる

月80時間水準の残業が常態化しているなら、それは個人の工夫で吸収すべきものではなく、会社の安全配慮義務の問題です。残業時間の記録を残し、上司や人事に業務量の調整を具体的に相談してください。会社には、一定時間を超える長時間労働者に医師の面接指導を受けさせる義務もあります。使える制度は使いましょう。

③ 症状が出ているなら、受診と診断書という手段を

不眠・慢性疲労・体の症状がすでに出ているなら、交渉と並行して受診してください。診察では、うつ状態の評価とあわせて、必要に応じて血液検査などで甲状腺機能や貧血といった身体面の確認も行います(当院は内科にも対応しています)。そして、業務量の軽減が必要な状態であれば、診断書がその根拠になります。当院の医師は日本医師会認定産業医として長時間労働者の面接指導の実務にも通じており、あなたの職場で現実的に通る調整の形——残業制限、業務の一部免除、場合によっては休職——を一緒に設計できます。働きながら会社に知られず通院を続けたい方は働きながら精神科・心療内科に通うには?会社に知られず治療を続けるコツを、休職を視野に入れている方は休職・復職についての解説記事一覧もご覧ください。

なお、「忙しさは変わらないのに、最近は意欲だけが空っぽになった」という感覚が強い方は、過労の先にある燃え尽き症候群の形かもしれません(燃え尽き症候群についての解説記事一覧)。また、疲労や不調が主で「病気かどうかも分からない」段階の方はストレス・疲れ・なんとなく不調についての解説記事一覧から、仕事に行くこと自体がつらくなっている方は「仕事に行きたくない」は甘え?受診の目安と背後にある病気もご覧ください。


よくあるご質問

Q. 繁忙期が終われば落ち着くはずです。それまで我慢すべきでしょうか?

A. 「終わりの見える繁忙」で、まだ睡眠が保てているなら、期間限定の我慢が成り立つこともあります。しかし、すでに「疲れているのに眠れない」「休んでも戻らない」が始まっているなら、繁忙期の終わりを待つ間に第3段階へ進むリスクがあります。症状が出ている時点で、我慢の段階は終わっています。

Q. 眠れないだけで受診してもいいのですか?

A. はい。不眠は、それだけで治療対象であると同時に、うつ病の強力な危険信号でもあります。「眠れないだけ」の段階で来ていただくのが、実は最も回復が早い受診タイミングです。

Q. 会社に残業を減らしたいと言い出せません。

A. 言い出しにくい場合こそ、医師の診断書が役に立ちます。「本人の希望」ではなく「医学的な必要」として勤務調整を求める形になるため、会社側も安全配慮義務の観点から対応せざるを得なくなります。出し方やタイミングも診察でご相談ください。

Q. 仕事が遅くまであり、平日は通院できません。

A. 当院は祝日を除く土曜・日曜も診療しています。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分です。会社帰りに通える心療内科をお探しの方へもご参考のうえ、WEB予約はこちらから、当日予約も可能です。


まとめ

「疲れているのに眠れない」は、過労が回復システムの限界を超えたサインです。時間外労働が月80時間前後に達している、休日で疲れが戻らない——この2つのものさしのどちらかに引っかかるなら、あなたはすでに危険水域にいます。過労は、張りつめ期・消耗期・破綻期と進行し、破綻してからでは回復に年単位を要します。睡眠の治療を入口に、労働時間の調整を交渉の議題に載せ、必要なら診断書という手段を使う——消耗期のうちに手を打てば、立て直しは十分に可能です。

横浜・関内エリアで、過労と不眠を抱えながら働いている方は、みなとメンタルクリニックにご相談ください。土日も診療しています。WEB予約はこちらからどうぞ。


働き方別・場面別|現代の働き方とメンタル不調の関連記事

総合ガイド:現代の働き方とメンタル不調——テレワーク・常時接続・成果主義がなぜ心を削るのか

特定の場面(朝・週明け・出社)でつらい

働き方そのものが負荷になっている

キャリア・役割の悩みとして現れている


参考文献

  • 厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準」「精神障害の労災認定基準」
  • 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」「アルコールと睡眠」
  • Pega F, et al. Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours (WHO/ILO Joint Estimates). Environ Int. 2021
  • Riemann D, et al. The hyperarousal model of insomnia: a review of the concept and its evidence. Sleep Med Rev. 2010
  • 日本うつ病学会「日本うつ病学会診療ガイドライン」

この記事の監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。