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2026/06/10
睡眠薬の種類|メラトニンとオレキシンに働く薬
「睡眠薬だけは、絶対に飲みたくないんです」——不眠で受診される方の、おそらく半数近くが最初にこう言います。癖になる。ぼんやりする。一生やめられなくなる。そんなイメージが、しっかり根を張っています。
そのイメージは、間違ってはいません。ただし、20年前の睡眠薬の話としては。
いま処方される睡眠薬には、まったく別の発想で作られた薬があります。脳を無理やり眠らせるのではなく、体がもともと持っている眠りの仕組みに、そっと手を添える——そういうタイプの薬です。この記事では、その2種類、メラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬を、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。
眠りを支える仕組みそのものは睡眠の仕組みの記事で、薬の前に整えるべき生活は生活習慣と睡眠リズムの記事で扱いました。この記事は、その土台の上に置く薬の話です。
睡眠薬に不安がある方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。「薬は使いたくない」というご希望も含めて、進め方は一緒に決めます。
▶ WEB予約はこちら(当日予約可)/初めての方は初診の流れのご案内をご覧ください。
睡眠薬には、大きく2つの発想がある
薬の話に入る前に、地図を描いておきます。現在の睡眠薬は、働き方の発想によって2つに分かれます。
ひとつは、脳の活動にブレーキをかけて眠らせる薬。GABAという「鎮める」システムを増強するタイプで、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系がここに入ります。効き目がはっきりしていて即効性がある一方、依存や耐性といった課題を抱えます。この系統は次の記事で詳しく扱います。
もうひとつが、今回の主役。眠りの生理的な仕組みに沿って働く薬です。無理やり眠らせるのではなく、「夜が来た」という合図を強めたり、「起きていろ」という指令を弱めたりする。人間が本来どうやって眠っているのかを利用する発想で、そのぶん、依存のリスクが低いのが最大の特徴です。
メラトニン受容体作動薬——「夜が来た」の合図を強める
どう働くのか
睡眠の仕組みの記事で書いたとおり、暗くなると脳からメラトニンというホルモンが出て、「もう夜ですよ」と体に知らせます。この合図を受けて深部体温が下がり、体が眠りの準備に入ります。
ラメルテオン(ロゼレム)は、このメラトニンが働く受け皿に作用して、合図を強める薬です。日本ではメラトニン製剤(メラトベル)も小児の一部で使われています。
ポイントは、この薬が眠らせる薬ではないということ。あくまで「夜の合図」を送るだけなので、飲んで数十分でストンと落ちる、という効き方はしません。ここを理解していないと、「効かない薬」だと誤解して、数日でやめてしまうことになります。
向いている人、注意点
体内時計がずれている方——夜勤や交代勤務、昼夜逆転、時差ぼけ、高齢の方の早寝早起きのずれ——に、とくに向いています。リズムそのものを整える方向に働くからです。
効果は穏やかで、依存性や翌日への持ち越しが少ない。だからこそ、「睡眠薬は怖い」という方に最初に提案しやすい薬でもあります。一方で、効果を実感するまでに数週間かかることがあり、即効性を求める方には物足りなく感じられます。飲み合わせに注意が必要な薬がいくつかあるので、お薬手帳は必ずお持ちください。
オレキシン受容体拮抗薬——「起きていろ」の指令を弱める
どう働くのか
こちらは、発想が逆です。眠りを促すのではなく、覚醒を維持している力を弱める。
脳には、オレキシンという物質があります。これは「起きていろ、目を覚ましていろ」と脳を覚醒側に保つ司令官です。夜になると自然に減っていき、私たちは眠りに落ちる。逆に言えば、この司令官が夜も働き続けていると、眠れません。
不眠の原因の記事で書いた「ストレスで神経が張りつめたまま眠れない」状態——疲れているのに頭だけが冴えているあの状態は、まさにオレキシンが夜も号令をかけ続けている姿だと考えるとわかりやすい。
スボレキサント(ベルソムラ)とレンボレキサント(デエビゴ)は、このオレキシンが受け取られる場所を塞いで、「起きていろ」の号令を届かなくする薬です。ブレーキを踏むのではなく、アクセルから足を離させる。すると、体が本来持っている眠りの流れが、自然に前に出てきます。
向いている人、注意点
眠りを保つ力があるため、寝つきだけでなく、中途覚醒——夜中に何度も目が覚めるタイプにも使いやすいのが強みです。ベンゾジアゼピン系のような依存や耐性のリスクが低く、長期に使う場面でも選びやすい。近年、不眠治療の主力になりつつある理由です。
注意点としては、翌朝への眠気の持ち越しやだるさが出ることがあります。とくに飲み始めの時期や、朝早く活動する方では注意が必要です。もう一つ特徴的なのが、夢をはっきり見る、悪夢を見るという副作用。オレキシンの働きを抑えることでレム睡眠の性質が変わるためと考えられていて、驚かれることが多いので、あらかじめお伝えするようにしています。飲み合わせに注意が必要な薬もあります。
なぜ、この2つが「新しい」と言えるのか
整理します。従来型の睡眠薬は、脳全体にブレーキをかけて眠らせる薬でした。効きます。効きますが、その代わりに、脳は「自分で眠る力」を使わなくなる。長く使えば体が慣れ、量が増え、やめにくくなる——これが依存や耐性の構図です。
メラトニンとオレキシンに働く薬は、眠りの生理を借りて眠る薬です。体内時計の合図を強め、覚醒の号令を弱める。主役はあくまで、その人自身の眠る力。だから依存のリスクが低く、やめるときの負担も軽い。
もちろん、万能ではありません。効き方は従来型より穏やかなので、「今夜どうしても眠りたい」という切迫した場面では物足りないこともあります。だから当院では、症状のタイプ、切迫度、年齢、併用薬、そして「どのくらいの期間使う想定か」を踏まえて、薬を選びます。睡眠薬の記事一覧で、それぞれの薬をさらに詳しく扱っています。
薬は、土台の上に置くもの
最後に、これだけは。薬は、生活習慣と睡眠リズムという土台の上に置いて、はじめて力を発揮します。起床時刻がバラバラで、夕方にコーヒーを飲み、寝酒を続けたままでは、どんな薬も分が悪い。
そして、背景にうつ病や不安症が隠れているなら、そちらの治療なしに眠りだけ取り戻すことはできません。睡眠薬は、原因を突き止めたうえで使う道具です。受診の目安の記事もあわせてご覧ください。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区を中心に、みなとみらいエリアからも通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、WEB予約は当日予約にも対応しています。当院は、向精神薬の多剤投与・大量投与・長期処方を可能な限り控える方針です。「いつまで飲むのか」「どうやめるのか」まで含めて設計してから始めますので、薬への不安はそのままお持ちください。
よくある質問
これらの薬なら、ずっと飲み続けても大丈夫ですか?
依存のリスクは低い薬ですが、「ずっと飲み続けることが目標」ではありません。眠りが安定し、生活の土台が立て直ったら、減らしていく方向を一緒に考えます。ただ、必要な時期に必要な薬を使うことをためらって、眠れない夜を重ねるほうが、心にも体にも負担が大きい。そのバランスを診察で調整します。
メラトニンのサプリメントを個人輸入で買おうと思っています。
おすすめしません。海外のサプリメントは含有量や品質の管理が国内の医薬品と同じ基準ではなく、ほかの薬との飲み合わせの確認もできません。同じ仕組みを狙うなら、医師の管理下で処方薬を使うほうが安全で、確実です。
眠れない夜だけ、頓服として使えますか?
薬の種類と状況によります。オレキシン受容体拮抗薬は必要な夜に使う形も可能ですが、メラトニン受容体作動薬はリズムを整える薬なので、毎日続けてこそ意味があります。「頓服で使いたい」という希望は、診察で伝えてください。それに合う薬を選びます。
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▶ 次のページ:従来型の睡眠薬|ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の特徴と注意点
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監修:田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。