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2026/06/17
休職中の過ごし方|回復のための時間の使い方を横浜・関内の精神科医が解説
休職1日目。平日の午前10時。
家にいる。誰もいない。テレビをつけると、主婦向けの情報番組が流れている。自分は、ここにいていい人間なのだろうか。
窓の外を、スーツを着た人が歩いていく。同僚は、いま会議をしているはずだ。自分の仕事は、誰かが代わりにやっている。
——そう考えた瞬間、いてもたってもいられなくなって、資格の参考書を開きます。3ページで、頭に入らないことに気づきます。次に、部屋の片付けを始めます。30分で、動けなくなります。
そして、こう思う。「休んでいるのに、少しも休まらない」
この記事は、その1日目のために書きます。休職中の時間を、どう使えば回復に向かうのか。横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。
休職中の方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。日本医師会認定産業医が在籍し、療養中の過ごし方から復職の設計まで、一貫して伴走します。
▶ WEB予約はこちら(当日予約可)/詳しくは産業医・休職・復職のご相談ページをご覧ください。
まず、この一文を受け取ってください
「何もしない」ことが、いまのあなたの仕事です。
休職中に「何をすればいいか」を探している方に、まずこれを伝えます。
あなたは、脳のエネルギーが枯渇した状態にあります。スマートフォンの電池が1%のとき、最初にすべきは新しいアプリを入れることではありません。充電器につなぐことです。
資格の勉強も、断捨離も、転職活動も、いまは電池1%で重いアプリを起動しようとしているのと同じです。だから、頭に入らない。だから、30分で動けなくなる。
それは、あなたの怠慢ではありません。充電が足りていないだけです。
罪悪感について——最初に、これを片付けます
休職中の相談で、最も多い訴えがこれです。
「休んでいるのに、罪悪感で休んだ気がしません」
平日の昼間に家にいる居心地の悪さ。同僚への申し訳なさ。給料をもらいながら(あるいは減らされながら)、何もしていない自分への嫌悪。
その罪悪感は、症状です
はっきりお伝えします。その罪悪感自体が、うつ病や適応障害の症状の一部です。
うつ病では、思考が自責の方向へ強く偏ります。「自分はダメだ」「迷惑をかけている」——これは、病気が見せている思考です。
健康なときのあなたなら、こう考えたはずです。「病気なんだから、休むのは当然だ」と。その当たり前が、いまは届かない。それこそが、病気の証拠なのです。
だから、こうしてください
罪悪感が消えてから休むのではなく、罪悪感を抱えたまま休んでください。
罪悪感が消えるのを待っていたら、永遠に休めません。回復とともに、罪悪感のほうが先に軽くなります。順番は、そちらなのです。
回復は、ジグザグに進みます
これを知らないと、休職期間の大半を、無用な絶望に費やすことになります。
回復は、右肩上がりの直線では進みません。
良い日の翌日に、悪い日が来ます。「今日は散歩できた」と喜んだ翌朝、布団から出られない。3歩進んで2歩下がる。これが、正常な経過です。
この波を知らないと、こうなります。調子が戻った日に「治った」と喜び、翌日沈んで「振り出しに戻った」と絶望する。この上下を繰り返して、消耗する。
比べる相手は、昨日ではなく「先月」です
日々の波を見ていると、進んでいることがわかりません。
だから、診察では必ずこう聞きます。「先月と比べて、どうですか」
昨日より悪い日は、いくらでもあります。それでも、月単位の傾きは、確実に上を向いていることがある。それを一緒に確認するために、通院という定点観測があるのです。
第1期:ひたすら休む——「何もしない」に耐える時期
症状が重い時期にやるべきことは、たった一つ。休むことです。
眠れるだけ眠っていい。一日中、横になっていていい。テレビもスマホも見る気力がなくても、それでいい。
この時期に、意味のあること
- 薬をきちんと飲む:抗うつ薬は、効果が出るまで2〜4週間かかります。「効かない」と自己判断でやめないでください(抗うつ薬の記事一覧)
- 眠りの土台を守る:眠れないつらさが強ければ、我慢せず診察で伝えてください(不眠・睡眠障害の記事一覧)
- 通院を続ける
- 大きな決断をしない(後述します)
それ以外は、何もしなくて構いません。本当に、何も。
第2期:生活の骨組みを、立て直す
エネルギーが戻り始めると、「散歩でもしてみようか」という気持ちが、自然に湧く日が出てきます。
その日が来るまで、待ってください。意志で前倒ししないでください。
この時期の目標は、活動量を増やすことではありません。生活の骨組みを立て直すことです。
① 起床時刻を、一定にする
これが、最も重要です。
眠る時間ではなく、起きる時間を固定してください。眠くなる時間は自分で決められませんが、起きる時間は決められます。
そして起床時刻が一定になると、体内時計が安定し、夜の眠気が来る時間も自然に定まってきます。
② 朝、光を浴びる
起きたら、カーテンを開ける。可能なら数分でも外に出る。曇りの日でも、屋外の光は室内照明よりはるかに強い。
今夜眠れるかどうかは、今朝の光でかなり決まっています(生活習慣で眠りを整える方法)。
③ 食事を、決まった時間に
おいしく食べられなくても構いません。時間を決めて口に入れる、それだけで生活の骨組みになります。
④ 散歩から始める、ゆるやかな運動
近所を10分歩く。それで十分です。
運動が気分に良い影響を与えることは、よく知られています。ただ、大事なのは「続けられる量」であって、追い込むことではありません。
⑤ 回復期こそ、無理をしがち
皮肉なことに、この時期がいちばん危ないとも言えます。
少し動けるようになった手応えから、一気に予定を詰め込んで、反動でどんと沈む。「昨日できたのに今日できない自分はダメだ」——これも、自責の症状です。
良い日にこそ、ブレーキを。これを覚えておいてください。
やってはいけない、5つのこと
① 大きな決断をしない
これが、いちばん大事な「やらないこと」です。
退職、転職、離婚、引っ越し、大きな買い物。
療養中は、思考が悲観の方向へ強く偏っています。その状態で下した決断は、回復してから後悔することが多い。
「辞めたい」しか考えられなくなっている方こそ、この罠のただ中にいます。
辞めるかどうかを決めるのは、回復してからでいい。そのために、休職があるのです。
② お酒に頼らない
眠れないからお酒で、というのは、最も避けたい対処です。
眠りの質は確実に落ち、気分を下げる方向にも働き、薬とも相性が悪い。しかも、量が増えていく。つらさを一時的に麻痺させる代わりに、回復を遅らせます。
③ SNSと情報を、浴び続けない
横になったままスマホで、他人の充実した日常を眺め続ける。——これは、自責を煮詰める行為です。
病名を検索し続けるのも、同じ。「治らない」という体験談ばかりが目に入ります。
仕事のチャットの通知は、切ってください。「見ない」を守ることも、治療です(通知が気になって休まらない方の記事)。
④ 復職の予定日を、自分で早めない
「来月には戻れるはず」と自分で締め切りを設定して、間に合わないことに焦る——この構図を、本当によく見ます。
回復のペースは、意志では決められません。
⑤ 職場のことを、考え続けない
連絡窓口は、一本に絞ってもらってください。同僚一人ひとりからの善意の連絡が、実はかなりの負担になります。
「休職中に旅行や外出をしてもいいのか」
これは、頻繁に聞かれます。
回復期に入って、本人が楽しめる範囲であれば、悪いことではありません。
「療養中なのに遊んでいると思われないか」と気にする方が多いのですが、気力が戻って行動範囲が広がるのは、回復のサインです。むしろ、「楽しめた」という体験は、回復の重要な指標になります。
ただし、急性期に無理をして出かけるのは逆効果。時期を見て、診察で相談してください。
SNSへの投稿だけは、慎重に。誤解を招くことがあります。
復職の準備は、いつから始めるのか
生活の骨組みが戻ってきたら、次の段階です。
「模擬出勤」で、試してみる
いきなり職場に戻るのではなく、その手前に一段挟みます。
朝、いつもの時間に家を出る。実際の通勤ルートを、ラッシュの時間帯に往復する。図書館やカフェで数時間、本を読んだりパソコン作業をしたりして過ごし、夕方に帰る。
これを2週間ほど続けて、崩れないか。ここで息切れするなら、まだ早い。本番前に、練習で確かめる。これが、失敗を防ぐ最も確実な方法です。
戻る環境が、変わっているか
ここを確認せずに戻ってはいけません。
同じ環境に、同じ働き方で戻れば、また同じことが起こります。業務量の調整、配置転換、残業の禁止——これらは、主治医の意見書を通じて、職場に正式に依頼できます。
当院には日本医師会認定産業医の資格を持つ医師が在籍しており、職場との調整に対応しています(産業医・職場連携の記事)。
お金の不安を、放置しないでください
療養中の焦りの、かなりの部分は経済的な不安から来ています。
ここは気力の問題ではなく、情報と手続きの問題なので、手を打てます。
- 傷病手当金:健康保険から、標準報酬日額のおおむね3分の2が、最長1年6か月支給されます
- 自立支援医療:通院費の自己負担が、原則1割になります(自立支援医療の記事一覧)
申請書の医師記入欄は、当院で記入します。書類を診察にお持ちください。詳しい仕組みと申請の流れは、次の記事で解説します。
通院を、療養のペースメーカーに
療養中の通院は、症状の確認と薬の調整のためだけではありません。
話して整理すること自体が、治療です。そして、「先月と比べてどうか」という定点観測を一緒にしてくれる人がいることが、波の中で方向を見失わないための羅針盤になります。
一人で休んでいると、自分が良くなっているのか悪くなっているのか、わからなくなります。その判断を、一人で背負わないでください。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。祝日以外は毎日診療しており、当日のご予約にも対応しています(枠の状況によります)。女性医師も在籍しています。
よくある質問
何もできない日が続くと、自分が怠けているように思えます。
その感覚自体が、症状です。骨折した人が「歩けない自分は怠けている」とは思わないでしょう。うつ病では、その当たり前の理屈が、本人にだけ届かなくなります。診察でその話をしてください。何度でもお伝えします。
休職中に、資格の勉強をしてもいいですか?
急性期は、やめてください。頭に入らないのは、あなたの能力の問題ではなく、脳が充電中だからです。回復期に入って、自然に「やってみようかな」と思えたなら、少しずつ。ただし、「休職期間を無駄にしてはいけない」という焦りからの勉強は、逆効果です。
いつになったら、良くなるのでしょうか。
個人差が大きく、一律には答えられません。ただ、期間を目標にしないでください。「◯か月で戻る」と決めて焦ることが、いちばん回復を遅らせます。「先月と比べて」の視点で、一緒に振り返りましょう。
復職が近づくと、不安で眠れません。
当然の反応です。そして、それは重要な情報です。不安の中身を、診察で分解しましょう。「何が不安なのか」がはっきりすれば、環境調整で対処できることも多いのです。一人で抱えないでください。
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休職・復職に関する記事の一覧は「休職・復職について」カテゴリページ、制度やお金については「制度・お金について」カテゴリページからご覧いただけます。
参考文献・情報源
- 厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
- 厚生労働省|こころの耳「働く人のメンタルヘルス」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。