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2026/08/12
「気持ちが分からない」と言われたら|感情が薄い時期のご家族・パートナーへ、横浜・関内の精神科医が解説
「今、自分が何を思っているのか分からない」。ご家族やパートナーからそう告げられて、戸惑っておられる方がいらっしゃいます。あるいは、ご自分のほうがそう感じてしまい、どう伝えればよいか分からずに黙っておられる方も。
感情が薄くなる状態——感情鈍麻——は、ご本人だけの問題にとどまりません。もっとも近くにいる方との関係に、静かに影響していきます。
この記事は、そう言われた側の方にも、そう感じている側の方にも読んでいただけるように書きました。横浜市中区・関内で精神科・心療内科を診療する立場から、この時期をどう過ごしていけばよいかをご説明します。
まず、知っておいていただきたいこと
いちばん大切な点をお伝えします。
反応が薄いことは、多くの場合、気持ちが変わったということではありません。
感情が薄くなる状態では、うれしさも、悲しみも、怒りも、まとめて遠くなります。特定の誰かに対する気持ちだけが薄れるのではなく、感じる力そのものが一時的に鈍っているのです。
ですから、「あの人は変わってしまった」「もう自分に関心がないのだ」という受けとめは、事実とずれていることがほとんどです。気持ちがなくなったのではなく、気持ちに手が届かない状態——そう考えていただくのが実際に近いと思います。
そしてもう一つ。この状態は、多くの場合戻ります。お薬の調整で変わることもあれば、体調の回復とともに戻ることもあります。今の状態が、これからずっと続くわけではありません。背景については何も感じない・感情が動かないのはなぜ?(feeling-nothing)をご覧ください。
そばから見ると、どんな変化に見えるか
ご家族が気づかれるのは、たいてい次のような変化です。
会話が減った。返事が短くなった。話しかけても、うわの空に見える。うれしい知らせを伝えても、反応が淡々としている。以前は一緒に笑っていた場面で、表情が動かない。こちらが落ち込んでいても、気づいてもらえない。予定を提案しても「どちらでもいい」と返ってくる。
こうした変化は、冷たくなったように見えてしまいます。けれども実際には、ご本人の内側では反応が起きにくくなっているだけで、関係を軽んじているわけではありません。
もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。ご本人がこの状態をいちばん気にしておられることが多いという点です。「大事なはずなのに、そう感じられない自分がおかしいのではないか」と、ひそかに悩んでおられることがよくあります。
ご家族だけのご相談も承っています
みなとメンタルクリニックは、JR関内駅・横浜市営地下鉄関内駅から徒歩圏、みなとみらい線馬車道駅、JR桜木町駅からもお越しいただける横浜市中区の精神科・心療内科です。土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。
ご本人が受診に踏み切れない段階でも、ご家族だけでご相談いただけます。どう声をかけるか、どのタイミングで受診を勧めるか。一緒に考えていきましょう。
支える側に湧いてくる気持ちも、自然なものです
「症状なのだから受けとめてあげて」と言われても、簡単ではありません。戸惑い、寂しさ、いらだち、不安。どれも当然の反応です。
むしろ心配なのは、「相手は病気なのだから、傷ついてはいけない」と我慢してしまうことです。支える側が気持ちを押し殺し続けると、いずれ限界が来ます。しんどいと感じてよいのです。そのうえで、どう関わるかを考えていきましょう。
避けたい関わり方
よかれと思ってしてしまいがちですが、この時期には逆効果になりやすいものがあります。
気持ちを確かめようとする
「私のこと、どう思ってるの」「なんとも思わないの」。答えを求めたくなるのは自然なことですが、答えられないこと自体が今の状態です。問われるほどご本人は追い込まれ、「答えられない自分はだめだ」と自責が深まります。
反応を試す
わざと冷たくしてみる、距離を置いて様子を見る、といった方法で反応を引き出そうとされることがあります。この時期には効果がないばかりか、双方が消耗します。
気のせいだと打ち消す
「そんなことないよ」「気にしすぎだよ」。励ますつもりの言葉ですが、ご本人には「分かってもらえない」と伝わってしまいます。
原因を探して責める
「私が何かした?」「仕事のせい?」。原因探しは、たいてい誰かを責める形に着地します。この状態には複数の要因が重なっていることが多く、犯人を特定することにあまり意味はありません。
「よくなったね」と結論づける
感情が薄い時期は、外からは落ち着いて見えることがあります。「もう平気そうだね」と早く結論づけられると、ご本人は「もう相談できない」と感じてしまいます。
かわりに、できること
状態として受けとめる
「今は感じにくい時期なんだね」。この一言があるだけで、ご本人はずいぶん楽になります。理解しようと努めなくても、そういう状態なのだと認めるだけで十分です。
返事を求めない声かけをする
気持ちを尋ねる代わりに、事実や体調を尋ねてみてください。
- 「よく眠れてる?」
- 「ごはん、食べられてる?」
- 「今日は何時ごろ帰る?」
- 「散歩、行ってみる?」
答えやすい質問は、会話を続ける助けになります。
選べる形で聞く
「どうしたい?」より「AとB、どっちがいい?」。選択肢があると答えやすくなります。決められないときは「じゃあ今日はAにしておくね」と引き取っていただいて構いません。
いつもどおりを続ける
特別なことをする必要はありません。同じ時間に食事をする、同じように声をかける、同じ番組を一緒に見る。変わらない日常があることが、いちばんの支えになります。
そばにいるだけでよい時間をつくる
会話がなくても構いません。同じ部屋で別々のことをしている、それだけの時間にも意味があります。「何か話さなければ」と気を張らないでください。
そう感じている側の方へ
ご自分を責めないでください
大切な人に対して何も感じられないことを、人としての欠陥のように思ってしまう方がいらっしゃいます。これは症状であって、人柄の問題ではありません。感じる力が一時的に鈍っているだけで、関係そのものが失われたわけではないのです。
伝え方を用意しておく
黙っていると、相手は別の意味に受け取ってしまいます。次のような伝え方であれば、誤解が生まれにくくなります。
- 「今、いろんなことを感じにくくなっていて。あなたに対してだけじゃないんだ」
- 「反応が薄いと思うけど、嫌になったわけじゃない」
- 「今は考えがまとまらないから、少し時間をもらえると助かる」
- 「うまく言えないんだけど、そういう時期みたい」
この記事を見せていただくのも一つの方法です。ご自分の言葉で説明しにくいときは、代わりに読んでもらってください。
無理に取りつくろわないでください
感じているふりを続けると、消耗します。一時的にはうまくいっても、長くは持ちません。今は感じにくい、と正直に伝えるほうが、結果として関係は保たれます。
大きな決断は、先送りにしてください
この時期には、関係を終わらせる決断をしないことを強くお勧めしています。
感情が薄い状態では、判断の材料になる感覚そのものが働いていません。「どちらでもいい」「もう続けられない」という結論も、その状態から出てきたものです。回復してから振り返ると、まったく違って見えることがよくあります。
退職や転居といった大きな決断も同様です。急ぐ必要がないのであれば、感情が戻ってから改めて考えることをお勧めします。回復の経過については感情が戻ってくるとき(emotional-recovery-signs)をご覧ください。
お子さんがいらっしゃる場合
親としての反応が薄くなることを、深く気に病まれる方がいらっしゃいます。子どもの話に上の空になってしまう、行事に心が動かない、と。
この時期に必要なのは、感じることではなく、続けることです。ごはんを用意する、送り出す、おやすみと言う。手続きとして続けているだけでも、お子さんには十分に届きます。感じられるようになるのは、あとからで構いません。
お子さんが年齢に応じて理解できる範囲で、「お父さん(お母さん)は今、疲れていて元気が出にくい時期なんだ」と伝えておくと、自分のせいだと思わせずに済みます。詳しい説明は必要ありません。
支える側が消耗しないために
長引くことがあるテーマですので、支える方の側も守っていただきたいと思います。
- ご自分の予定や楽しみを、手放さない
- 相談できる相手を、ひとりでも確保しておく
- 「治すのは自分の役目」と背負わない。治療は医療の仕事です
- よくならない時期があっても、ご自分の関わり方のせいだと考えない
- 眠れない、食欲がない、涙が出るといった変化が出てきたら、ご自身も相談してください
支える側が倒れてしまうと、共倒れになります。ご自分を守ることが、結果としてご本人を守ります。
受診をどう勧めればよいでしょうか
「病院に行ったら」という言い方は、責められたように受け取られることがあります。次のような伝え方のほうが届きやすいものです。
- 「眠れていないみたいだから、そこだけでも相談してみない?」
- 「薬が合っているか、確認してもらうだけでもいいと思う」
- 「一緒に行ってもいいよ。待合室で待ってるから」
すでに通院中の方であれば、「感情が薄いことを、次の診察で言ってみて」と伝えていただくのが有効です。この症状は、こちらから尋ねないと語られにくいものです。ご本人が言い出しにくければ、ご家族が同席して代わりにお伝えいただいても構いません。
すでに通院されている方向けには、抗うつ薬で感情が平坦になるとき(antidepressant-emotional-blunting)もご参考になります。
気をつけていただきたいこと
感情が薄い時期は、ご本人がご自分のしんどさに気づきにくくなっています。淡々としているからといって、負担が軽いとは限りません。
「消えてしまいたい」といった言葉が出たときや、身辺の整理を始めたようなときは、落ち着いて見えても様子を見ずにご相談ください。診察を待たずに話したいときは、次の窓口もご利用いただけます。ご家族からのご相談も受け付けています。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」(SNS相談などの窓口一覧)
- 命に関わる危険があるときは119番
よくあるご質問
本当に、心変わりではないのでしょうか
感じる力の全体が鈍っている状態では、特定の誰かへの気持ちだけを取り出して判断することができません。今の状態での結論は、回復してからのものとは違ってくることが多くあります。判断を急がないことをお勧めします。
どのくらい待てばよいのでしょうか
背景によって幅があります。お薬の調整で変わる場合は比較的早く、体調の回復にともなう場合はもう少し時間がかかります。「いつまで」と区切るより、経過を見ながら診察で確認していくほうが確かです。
本人が受診を嫌がります
まずはご家族だけでご相談ください。無理に連れて来ていただく必要はありません。声のかけ方や、待つあいだの過ごし方を一緒に考えます。
私の接し方が悪いのでしょうか
違います。この状態は、周囲の関わり方によって起こるものではありません。ご自分を責めないでください。
私自身もつらくなってきました
支える方が消耗されることは、とてもよくあります。ご自身の受診も、遠慮なくご検討ください。当院では、ご家族の方のご相談も承っています。
家族だけで相談できますか
できます。ご本人が受診されていない段階でも構いません。土日の診療や当日予約にも対応しておりますので、桜木町・みなとみらい方面からもお越しいただけます。
おわりに
感情が薄い時期は、ご本人にとっても、そばにいる方にとっても、先の見えにくい時間です。けれども、この状態には理由があり、多くの場合は戻っていきます。
今できることは、原因を確かめること、無理をしないこと、そして大きな決断を急がないこと。この三つで十分です。
感情が薄くなる状態の全体像は何も感じない・感情が動かないのはなぜ?(feeling-nothing)にまとめています。気になる点があれば、そちらから関連する記事もご覧ください。
関連ページ
- 何も感じない・感情が動かないのはなぜ?(feeling-nothing)
- 感情が戻ってくるとき(emotional-recovery-signs)
- 抗うつ薬で感情が平坦になるとき(antidepressant-emotional-blunting)
- 「何も感じない」と「楽しめない」はどう違う?(emotional-blunting-vs-anhedonia)
- 自分が自分でない感じ・現実感がない(depersonalization-derealization)
- 自分の気持ちが分からない・失感情症(alexithymia)
- つらい体験のあと、何も感じなくなる(trauma-emotional-numbing)
- 落ち込んでいる家族を支える(supporting-low-mood-family)
- 気分の落ち込みが続く(prolonged-low-mood)
- 初診の流れ・当日予約について(first-visit-guide)
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。