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2026/08/05
「性格」と診断される病気の境目|気分変調症と性格はどう見分けるのかを横浜・関内の精神科医が解説
「あなたは昔からそういう性格でしょう」——長く続く憂うつを抱えてきた方の多くが、家族や職場から、あるいは医療機関で、この言葉を受け取っています。
では、性格と病気の境目は、どこにあるのか。この記事は、その一点をあつかいます。まずは要点です。
- 医学では、生まれ持った気質と、経験で形づくられる性格を分けて考える
- 性格検査の結果すら、そのときの気分の状態で動く——これは研究で確かめられている
- だから「性格だから変わらない」は、前提から成り立たない
- かつて抑うつ性パーソナリティ障害という診断案があったが、現在は病気の側に整理された
- 診察では、いまの状態ではなく人生の経過から見分けていく
横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、エビデンスをふまえて解説します。この記事は、気分変調症とは?「ずっと憂うつなのは性格」と思ってきた方へという総合ガイドの一部です。
「性格だから」と言われてきた方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。長い経過をたどってきた不調は、主治医制で腰を据えて診ていきます。
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そもそも「性格」とは何を指しているのか
日常語の「性格」は、かなり大ざっぱな言葉です。医学や心理学では、少なくとも次の2つを分けて考えます。
- 気質:生まれ持った反応のしかた。刺激への敏感さ、危険を避けやすさ、新しいものへの向かい方など。人生の早い時期から現れ、比較的安定しています
- 性格(人格):気質を土台に、経験・環境・関係のなかで形づくられていく部分。自分をどう見るか、人とどう関わるか。こちらは変わりうるものです
この区別が効いてきます。「昔からこうだった」と言うとき、多くの人は気質と性格を一緒くたにしています。しかし「生まれつき慎重な子だった」と「自分には価値がないと思うようになった」は、まったく別の層の話です。後者は、経験の産物です。
そして、慢性の抑うつは、まさにこの後者を作り替えてしまいます。
決定的な手がかり——性格検査の結果すら、状態で動く
ここが、この記事のいちばん大事な部分です。
性格を測る指標のひとつに、神経症傾向(不安や落ち込みの感じやすさ)があります。これは長く「安定した性格特性」と考えられてきました。うつになりやすい人はもともと神経症傾向が高い、という説明も広く使われています。
ところが、研究を重ねるうちに、奇妙なことがわかってきました。
うつの状態にあるときに測ると、神経症傾向は高く出る。そして、うつが回復すると、下がる。
さらに踏み込んだ比較試験では、抗うつ薬による治療を受けた群で、症状の改善だけでは説明できないほど神経症傾向が低下したことが報告されています。つまり、性格として測られていたものの一部は、実はいま抑うつ状態にあることの反映だった、ということです。
この事実が示すのは、単純ですが重要なことです。「性格検査でこう出たから、これはあなたの性格だ」という推論は成り立たない。まして、本人や家族の主観による「昔からこういう性格」は、なおのこと当てになりません。
「抑うつ性パーソナリティ障害」という診断が、消えた話
この問題は、専門家の間でも長く議論されてきました。その痕跡が、診断基準の歴史に残っています。
1994年に出た診断基準(DSM-IV)には、抑うつ性パーソナリティ障害という診断案が、正式採用ではなく「今後の研究のための案」として付録に載せられました。悲観的で、自責的で、喜びを感じにくい——そうしたあり方を、パーソナリティの問題として位置づけようという発想です。
しかし研究が進むにつれ、この状態は気分変調症とほとんど区別がつかないことが明らかになっていきました。そして2013年の改訂(DSM-5)では、この診断案は独立した診断としては採用されず、慢性の抑うつは持続性抑うつ障害という気分の病気の側に整理されました。
つまり専門家たちは、長い議論の末に、「これはパーソナリティの問題ではなく、治療対象の気分の病気だ」という側に判断を寄せたのです。「性格だから」と言われてきた方にとって、これは知っておく価値のある経緯だと思います。
診察では、どう見分けるのか
いまこの瞬間の様子を見ても、区別はつきません。悲観的で、自信がなくて、疲れている——この状態像は、性格でも病気でも同じに見えます。
ですから、時間軸で見ます。診察では、次のようなことをうかがっていきます。
① どこかに、違う時期はなかったか
「ずっとこう」と言う方でも、丁寧に聞くと、例外が見つかることがあります。部活に打ち込んでいた時期、ある人と出会っていた時期、環境が変わった直後の数か月。その時期に、いまと違う手応えがあったのなら、それは「そうでない自分」がありうる証拠です。
逆に、記憶をさかのぼっても本当に一貫している場合は、発症が非常に早かった可能性を考えます。
② いつ、どんなふうに始まったか
気質であれば、幼児期から一貫しています。「小さい頃から人見知りだった」「昔から慎重だった」というのは、気質の話です。
一方、ある時期を境に自己評価が下がった、対人関係を避けるようになったという経過があれば、そこに何かが起きています。中学の途中から、就職して数年目から、というように、切れ目が見つかることは少なくありません。
③ 症状は、状況に関係なく続いているか
環境が変わっても、休みが取れても、良いことがあっても、水位が変わらない。この「状況からの独立」は、病気側を示唆する所見です。反対に、特定の環境でだけ悪化するなら、別の見立てになります(適応障害について)。
④ 体の症状を伴っているか
性格は、睡眠のリズムや食欲、朝の重さを直接には変えません。眠りが浅い、朝がとくにつらい、食欲が落ちている、疲れが抜けない——こうした身体面の変化が伴っているなら、気分の病気として考える根拠になります(朝起きられない/疲れが取れない・だるさが続く)。
それでも、はっきり分けられないことがあります
正直に書きます。この4つを確かめても、白黒つかないことは珍しくありません。とくに発症が10代前半だった場合、気質と病気と、それによって形づくられた性格が、分かちがたく絡まっています。
そのときの実務的な答えは、ひとつです。分けられないなら、治療してみて、動くかどうかを見る。診断のために治療するのではなく、治療の反応が診断を教えてくれる、という順序になります。
見分けが難しい、よくある場面
もともと物静かな方が、慢性の抑うつを抱えている
外から見ると、以前と大きく変わりません。ご本人も「もともと口数は少ない」と説明します。しかし、「話さない」と「話す気力がわかない」は別です。前者なら本人は困っていません。困っているかどうかを聞くと、輪郭が出てきます。
発達特性による消耗が背景にある
ADHDやASDの特性があると、日常の場面で人より消耗し、失敗も重なります。それが長年積み重なれば、自己評価が下がり、慢性の抑うつが形づくられます。この場合、「性格」に見えているものの正体は、特性でも病気でもなく、その両方の相互作用の結果です。抑うつだけを治療しても、消耗の源が残ります(大人の発達障害(ADHD・ASD)について)。
刺激を受け取りやすい方が、合わない環境に長くいる
敏感さそのものは病気ではありません。しかし、その敏感さと環境が噛み合わない状態が続けば、慢性の消耗になります(繊細さ・生きづらさ(HSP))。
気分の波が、性格の起伏に見えている
「感情の起伏が激しい性格」と言われてきた方のなかに、気分の病気が隠れていることがあります。とくに軽い高揚期を伴う場合、本人はそれを「調子がよかった時期」としか認識していません(双極性障害(躁うつ病)について)。
「性格だから」と言われてきた経験について
ここは、医学の話ではなく、経験の話です。
長く続く不調を抱えてきた方の多くが、周囲から、ときには医療者から、「性格でしょう」と言われた経験を持っています。そのたびに、相談する回路がひとつずつ閉じていきます。
そして厄介なのは、この言葉が完全な嘘ではないことです。長年続いた状態は、実際に性格のように振る舞います。だから反論しにくい。「たしかにそうかもしれない」と、本人も引き受けてしまう。
診察でお伝えしているのは、こういうことです。いま性格のように見えることと、それが最初から性格だったこととは、別の話です。そして、性格のように見えるものであっても、治療で動く部分がある。この2点さえ押さえておけば、「性格だから仕方ない」で止まらずに済みます。
自分を責めてきた方には、うつは怠けではない——自分を責めてしまうあなたへもあわせてお読みください。
治療で変わるもの、変わらないもの
期待の置きどころを、はっきりさせておきます。
変わりうるもの
- 朝の重さ、疲れやすさ、眠りの質——身体面は比較的早く動きます
- 物事の受け取り方——人の言葉を悪い方に解釈する、先回りして諦める、といったくせ
- 自己評価——「自分には価値がない」という前提。時間はかかりますが、動きます
- 決められなさ——選択に時間がかかる、人に合わせてしまう
- 対人関係の避け方——避けることで機会が減り、さらに苦手になる悪循環を、どこかで切ります
変わらないもの、変える必要のないもの
- もともとの気質——慎重さ、内向性、感受性の強さ。これらは病気ではなく、その方の持ち味です
- 好み、関心の方向、人との距離の取り方——治療の対象ではありません
目標は「明るく社交的な人になること」ではありません。もともと物静かな方は、治療後も物静かなままです。変わるのは、その静けさが消耗によるものか、その方本来のものか、という中身のほうです。
パーソナリティ障害との関係
慢性の抑うつがある方では、対人関係のパターンにも困難を抱えていることがあり、パーソナリティ障害の併存が問題になる場面があります。とくに、批判や拒絶を恐れて人を避けるパターンは、慢性の抑うつと重なりやすいことが知られています。
ここでも順序が大切です。抑うつが強い時期に人格を評価すると、実際より重く見積もってしまいます。先ほどの神経症傾向の話と同じことが起こるからです。ですから、まず気分の状態を整えたうえで、あらためて対人関係のパターンを見ていく——という進め方をとります。
受診を検討する目安
- 「性格だから」と言われて、相談をあきらめてきた
- 自分でも性格だと思ってきたが、生活のつらさが続いている
- 物心ついてから、気分が晴れた記憶がほとんどない
- 自己評価の低さが、仕事や人間関係に影響している
- 眠り・食欲・朝の重さなど、体の面にも変化がある
- 「消えてしまいたい」という感覚が、昔から背景に流れている
最後の項目は、慢性の抑うつでよくみられるものです。強い衝動としてではなく、背景音のように長く続くため、相談の対象だと思っていない方が多いのですが、必ず伝えてください。もう限界だと感じたとき——つらさが振り切れたときの受診の考え方もご覧ください。
すぐに話を聞いてほしいとき
気持ちが張りつめて、今すぐ誰かに聞いてほしいときは、次の窓口が使えます。診療時間外でも受け付けています。
- よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・通話無料)
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」 電話・SNSの相談窓口が一覧になっています
よくある質問
性格を変える治療、ということですか?
いいえ。取り除くのは、長年の抑うつが上から塗り重ねてきた部分です。その下にある、その方本来のあり方は残ります。
親も同じような性格です。遺伝ではないですか。
気分の不調には体質的な要素が関わり、家族に同じような方がいることは珍しくありません。ただし、それは「だから変わらない」という意味ではありません。体質的な要素があっても、治療で状態は動きます。
性格検査を受ければ、はっきりしますか?
検査は補助にはなりますが、決め手にはなりません。抑うつ状態にあるときに測ると、結果がその影響を受けるためです。診断は、生活歴と経過をふまえて総合的に判断します。
他院で「性格の問題」と言われました。診断は変わりますか?
変わることがあります。慢性の状態は、短い診察のなかでは性格に見えやすいためです。経過を丁寧にうかがったうえで、あらためて見立てます。これまでの経緯も含めて、お話しください。
治療して、本当に自己評価は上がりますか?
すぐには変わりません。長年かけて固まったものなので、動き方もゆっくりです。ただ、身体面が楽になり、日々の失敗が減っていくと、後から自己評価がついてくる——という順序をたどる方が多くいます。
家族に、どう説明すればいいですか?
「性格ではなく、長く続いている不調だと言われた」とお伝えいただければ十分です。ご家族に同席いただき、医師から説明することもできます。家族・パートナーの元気がないとき——かける言葉・避けたい言葉・受診のすすめ方も参考になります。
横浜・関内で、長く続く不調にお悩みの方へ
「性格だから仕方ない」と結論づけてしまう前に、一度、別の見方を試す価値があります。性格と病気の境目は、専門家のあいだでも長く議論されてきたほど微妙なものです。ご本人が一人で判断できなくて、当然です。
横浜・関内のみなとメンタルクリニックでは、気分変調症をはじめ、うつ病、不安症、不眠症、発達障害など、心の不調全般の診療を行っています。主治医制で、同じ医師が経過を追います。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分。土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています(枠の状況によります)。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。女性医師による診療にも対応しています。
関連ページ
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治療
受診案内
参考・情報源
- American Psychiatric Association. DSM-IV(抑うつ性パーソナリティ障害の研究用基準)/DSM-5-TR(持続性抑うつ障害への整理)
- Tang TZ, et al. Personality change during depression treatment: a placebo-controlled trial. Arch Gen Psychiatry. 2009(治療による神経症傾向の変化)
- Ormel J, et al. Neuroticism and common mental disorders: meaning and utility of a complex concept. Clin Psychol Rev.(神経症傾向の状態依存性)
- Cloninger CR, et al. A psychobiological model of temperament and character. Arch Gen Psychiatry.(気質と性格の区別)
- Klein DN, et al. Dysthymia and chronic depression: introduction, classification, risk factors, and course.(慢性うつの経過と人格との関係)
- 日本うつ病学会|気分障害の治療ガイドライン
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。