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2026/06/08
うつ病と間違われやすい病気との違い|適応障害・双極性障害との見分け方を精神科医が解説
「うつ病だと思って受診したら、違う診断だった」——これは診察室では、それほど珍しい出来事ではありません。逆もあります。何年も「自律神経の乱れ」だと思って過ごしてきた不調の正体が、うつ病だったということも。
落ち込む、眠れない、疲れが抜けない。こうした症状は、うつ病の看板であると同時に、いくつもの別の病気の看板でもあります。そして、どの病気かによって治療はまるで変わります。似ているのに、出口が違うのです。
この記事では、うつ病と間違われやすい病気を一つずつ取り上げて、どこが似ていて、どこで見分けるのかを、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。うつ病そのものの症状を先に整理したい方はうつ病の主な症状を、「そもそも病気なのか、ただの落ち込みなのか」の段階で迷っている方はうつ病と気分の落ち込みの違いをどうぞ。
適応障害——原因から離れると、楽になる
うつ病と最も間違われやすいのが適応障害です。症状はうつ病とよく似ています。落ち込み、不眠、涙、出社前の吐き気。違いは、症状の出方が特定のストレスにはっきり紐づいていることです。
異動先の上司。介護。夫婦の問題。原因がそこにあり、その場面に近づくと悪化して、離れると比較的すみやかに軽くなる。金曜の夜は元気なのに日曜の夜から沈む、という波形が典型です(この波形自体は日曜の夜になると憂うつになる方の記事でも扱いました)。うつ病が進むと、原因から離れても休日でも、気分が晴れなくなっていきます。
もっとも、両者は地続きでもあります。適応障害のまま無理を続けて、うつ病へ移行していくケースを外来では何度も見てきました。「環境のせいだから病気じゃない」と我慢を続けるのが、いちばんまずい選択です。詳しくは適応障害の記事一覧で解説しています。
双極性障害(躁うつ病)——「調子の良すぎた時期」が鍵
見分けを間違えたときの影響が最も大きいのが、双極性障害です。落ち込みの時期だけを切り取ると、うつ病と区別がつきません。実際、双極性障害の方の多くは、最初「うつ病」として治療が始まっています。
鍵は過去にあります。眠らなくても平気で動き回れた時期。気が大きくなって、買い物や新しい計画が止まらなかった数週間。周囲から「最近ハイテンションだね」と言われた記憶。本人にとってそれは「調子が良かった思い出」なので、診察で自分から話題にのぼることはまずありません。だからこちらから必ず聞きます。
なぜそこまで確認するかというと、双極性障害には抗うつ薬単独の治療がかえって症状を不安定にすることがあり、気分安定薬という別の柱が必要になるからです。似た症状、違う治療の代表例です。双極性障害の記事一覧もあわせてご覧ください。
不安症・パニック障害——「沈む」より「ざわつく」が主役
うつ病では不安もよく出ますし、不安症でも気分は沈みます。重なりの大きい二つですが、主役がどちらかを見ます。将来への心配、動悸、「また発作が起きたら」という予期不安が前面にあるなら不安症・不安障害やパニック障害の側から、興味や喜びの喪失・自責・朝の落ち込みが前面ならうつ病の側から考えます。両方が併存することも多く、その場合は治療で両にらみの設計をします。
自律神経失調症・心身症——体の症状の、その奥
めまい、動悸、頭痛、胃の不調。内科で検査をしても異常が見つからず、「自律神経の乱れですね」と言われて何年も過ごしている方の中に、一定の割合でうつ病が隠れています。
見分けの手がかりは、体の症状の背後に心の症状が育っていないかです。楽しめなくなっていないか。自分を責めるようになっていないか。朝と夕方で調子の差がないか。自律神経失調症とうつ病・不安症の見分け方で一段深く解説していますし、ストレスが体に出る仕組み全般は自律神経失調症の記事一覧と心身症の記事一覧で扱っています。
甲状腺の病気・貧血など——まず体を除外する
精神科の話ばかりではありません。甲状腺機能低下症は、だるさ、気力の低下、眠気、体重増加と、うつ病そっくりの顔で現れます。貧血や糖尿病、一部の薬の副作用でも似た状態になります。
だから初診では、必要に応じて血液検査で体の病気を除外します。「精神科に来たのに採血?」と驚かれることがありますが、順番の問題です。甲状腺が原因なら、治すべきは甲状腺のほうですから。
認知症との見分け——高齢の方の場合
高齢の方のうつ病は、もの忘れや反応の鈍さが目立って、認知症と間違われることがあります(うつ病側が原因のものは「仮性認知症」とも呼ばれます)。おおまかには、認知症では本人がもの忘れを取り繕う傾向があるのに対し、うつ病では「覚えられない、自分はもうだめだ」と強く訴える傾向がある、という違いがあります。うつ病の治療で認知機能がはっきり戻ることもあるため、あきらめる前に一度の評価が大切です。
発達障害・HSPとの関係——「二次的なうつ」という形
大人になってから、仕事のミスや対人関係の疲れが積み重なって落ち込みが続く——その背景に、ADHDやASDといった発達特性が隠れていることがあります。この場合、落ち込みは特性と環境のミスマッチから生まれた二次的なもので、うつ病の治療だけでは同じことが繰り返されます。仕事が続かない・転職を繰り返してしまうという形で現れることも多く、詳しくは大人の発達障害の記事一覧で解説しています。
また、病気ではありませんが、刺激に敏感で消耗しやすい気質(いわゆるHSP)が慢性的な疲れや落ち込みの土台になっていることもあります。繊細さ・生きづらさの記事一覧が手がかりになるはずです。
燃え尽き症候群——頑張りの燃料切れ
仕事に全力を注ぎ続けた人が、あるときぷつりと動けなくなる。仕事への冷めた感覚、達成感の喪失が中心で、仕事から完全に離れると少し戻る——これが燃え尽き症候群の典型で、うつ病と重なりつつも力点が違います。ただし放置すればうつ病へ進みます。燃え尽き症候群の記事一覧と、長時間労働で眠れない・疲れが取れないの記事もあわせてどうぞ。
自己判断で確定させないでほしい理由
ここまで読んで、「自分はどれに当たるんだろう」と考え込んでいるかもしれません。ただ、この記事の目的は、あなたに診断させることではありません。むしろ逆で、似た症状の裏にこれだけの分岐があるからこそ、見立ては診察に任せてほしいのです。
見分けを間違えたまま自己流で対処すると、治るものが長引きます。双極性障害に市販の対処を重ねても空回りしますし、甲状腺の病気に気合いは効きません。診察では、症状の並び方、経過、体の検査、過去の「調子が良すぎた時期」の有無——そうした材料を重ねて見立てをつくります。どれくらいの状態なら受診してよいのか迷う方は、うつ病とは?の総論の受診目安の項と、当日予約と初診の流れのご案内をご覧ください。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区を中心に、みなとみらいエリアからも通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、WEB予約は当日予約にも対応しています。精神科と内科の両方を診てきた経験から、体の病気の除外も含めた見立てが可能です。
よくある質問
診断名が変わることはありますか?
あります。とくに双極性障害は、経過の中で初めて見えてくることがある病気です。診断は一度きりの判定ではなく、経過を見ながら精度を上げていくものだとお考えください。通院の中で新しく気づいたこと——過去のハイテンションな時期、家族からの指摘など——は、些細に思えても教えてください。
他院で「うつ病」と言われましたが、しっくりきません。
セカンドオピニオンとしてのご相談も可能です。その際は、これまでの経過やお薬の内容がわかるもの(お薬手帳、紹介状など)をお持ちいただけると、見立ての材料が増えます。
複数当てはまる気がします。病気は一つに決まるものですか?
必ずしも一つには決まりません。うつ病と不安症、発達特性と二次的なうつ、のように併存はよくあります。その場合は、いま生活をいちばん妨げているものから順に手を打っていきます。
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監修:田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。