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2026/08/12

自分が自分でない感じ・現実感がない|離人感と感情鈍麻の違いを横浜・関内の精神科医が解説

自分が自分でないような感じがする。鏡に映る顔が、自分のものに思えない。話している自分を、少し離れたところから眺めているような感覚。あるいは、見慣れた景色が作り物のように見える、家族の顔が知らない人のように感じられる——。

こうした感覚を離人感(りじんかん)現実感喪失(げんじつかんそうしつ)といいます。英語では depersonalization、derealization と呼ばれます。

はじめにお伝えしておきたいことがあります。この感覚は、決して珍しいものではありません。生涯のうちに一度は経験する方が半数を超えるという報告もあり、多くは疲れや強い不安のあとに一時的に生じて、自然に落ち着いていきます。「頭がおかしくなったのでは」と不安になって調べておられるとしたら、その心配はまずいりません。

この記事では、横浜市中区・関内で精神科・心療内科を診療する立場から、この感覚がどういうものなのか、感情鈍麻とどう違うのか、そしてどう対応していけばよいのかをご説明します。


どんな感覚なのでしょうか

大きく二つに分けられます。両方が同時に起こることもあれば、どちらか一方だけのこともあります。

離人感——自分についての感覚の変化

自分自身が遠くなる感覚です。次のような形で語られます。

自分の体が自分のものでないように感じる。手を見ても「これが自分の手だ」という実感が薄い。話している声が、自分の声に聞こえない。行動している自分を、少し後ろから、あるいは天井のあたりから眺めているような感じ。感情が自分のものではないように思える。鏡を見ても、そこにいるのが自分だという手ごたえがない。写真のなかの自分が他人のように見える。

記憶についても「自分が体験したこととして思い出せない」「他人の話を聞いたような感じがする」とおっしゃる方がいます。

現実感喪失——周囲についての感覚の変化

世界のほうが遠くなる感覚です。

見えているものが、映画のスクリーンごしのように感じられる。景色が平面的に見える、絵に描いたように見える。よく知っている道なのに、初めて来た場所のような気がする。家族や友人の顔が、なぜかよそよそしく感じられる。音がくぐもって聞こえる、遠くから響いてくるように感じる。時間の流れ方が変に感じられ、さっきのことがずいぶん前のことのように思える。

大切な特徴——「おかしい」と分かっている

この状態の重要な特徴は、ご本人が「これは変だ」と自覚していることです。「自分の体だと分かっているのに、そう感じられない」「現実だと分かっているのに、現実味がない」。この、分かっているのに感じられない、というずれこそが離人感・現実感喪失の本質です。

現実と空想の区別がつかなくなっているわけではありません。ここが、しばしば心配される「心を病んで現実が分からなくなる」状態との、はっきりした違いです。この点はどうぞご安心ください。


言葉にしにくい感覚こそ、お話しください

みなとメンタルクリニックは、JR関内駅・横浜市営地下鉄関内駅から徒歩圏、みなとみらい線馬車道駅、JR桜木町駅からもお越しいただける横浜市中区の精神科・心療内科です。土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。

「うまく説明できないのですが」と前置きされる方がとても多い症状です。伝わらないのではと心配される必要はありません。日常的にうかがっているご相談ですので、思いつくままにお話しください。


なぜ、こうした感覚が起こるのでしょうか

心を守るためのはたらきとして

強い不安や恐怖に直面したとき、脳には感覚との距離をとって自分を守る仕組みがあります。目の前の出来事から少し離れることで、圧倒されずにやり過ごす。いわば非常時の安全装置です。

この仕組みは誰にでも備わっています。事故に遭った直後に妙に冷静だった、大変な場面を他人事のように眺めていた、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。離人感・現実感喪失は、この安全装置が働いている状態です。異常な反応ではなく、正常な仕組みが強く出ている状態と考えると分かりやすいと思います。

強い不安や緊張が続いたあとに

パニック発作の最中や直後に生じることがよく知られています。動悸や息苦しさとともに現実感が薄れ、「このままおかしくなるのでは」という恐怖が重なります。

発作でなくとも、緊張が高い状態が長く続くと起こりやすくなります。脳が警戒態勢を保ち続けることで疲弊し、感覚の処理がうまく回らなくなるためと考えられています。

疲れや睡眠不足で

眠れない日が続いたあと、あるいは長時間労働のあとに、ふっと現実感が薄れることがあります。この場合は休息で戻ることがほとんどです。カフェインの摂りすぎ、飲酒のあとにも生じやすくなります。

そのほかの背景

うつ病や不安症の症状のひとつとして現れることがあります。強いストレスやつらい体験のあとに続くこともあります。また、一部のお薬や物質の影響で生じることもあります。まれではありますが、てんかんや片頭痛など神経のはたらきに関わる病気で似た感覚が生じることもあるため、初診では体の面も含めて確かめます。

感情鈍麻とは、どう違うのでしょうか

どちらも「実感が伴わない」という点で似ており、実際に重なることもあります。ただ、中心にあるものが違います。

1. 何が遠くなっているか

  • 感情鈍麻——遠いのは感情です。うれしさも悲しみも薄い。ただし自分は自分だし、世界は世界のままです
  • 離人感・現実感喪失——遠いのは自分自身や世界そのものです。感情だけでなく、体の感覚、視覚、時間の流れ方まで変わって感じられます

2. どんな不安を伴うか

感情鈍麻では、「このままでいいのだろうか」という静かな戸惑いが中心です。離人感・現実感喪失では、強い恐怖を伴うことが多く、「自分が壊れてしまうのでは」「二度と元に戻れないのでは」という切迫した怖さが出てきます。この怖さの強さが、見分けの手がかりになります。

3. 始まり方

感情鈍麻はゆっくり進み、いつからか分からないことが多いものです。離人感・現実感喪失はある瞬間から始まったとはっきり言える方が多く、パニック発作や強い出来事と結びついていることもよくあります。

4. 体の感覚に変化があるか

感情鈍麻では、体の感覚は通常どおりです。離人感では体の感覚そのものが変わります。手足が自分のものでない、痛みを感じにくい、体が軽い・重い、といった変化を伴います。

5. 波があるかどうか

感情鈍麻は比較的一定して続きます。離人感・現実感喪失は波が大きいことが特徴です。人混みや疲れているとき、緊張する場面で強まり、安心できる環境ではすっと薄れることがあります。

なお、この二つは重なることもあります。感情の平坦さについては何も感じない・感情が動かないのはなぜ?(feeling-nothing)、楽しめなさとの違いは「何も感じない」と「楽しめない」はどう違う?(emotional-blunting-vs-anhedonia)をご覧ください。

これは病気なのでしょうか

多くの場合、一時的な反応です。疲れが取れたり、不安が落ち着いたりすると自然に薄れていきます。数分から数時間で消えることもあれば、数日続くこともあります。

一方で、こうした感覚が長く続き、生活に支障が出ている場合には、離人感・現実感消失症という診断名で治療の対象として考えます。診断名がつくかどうかで治療の必要性が決まるわけではなく、お困りであれば、それだけで相談の理由になります。

また、うつ病や不安症、強いストレスへの反応の一部として生じている場合は、そちらの治療が進むにつれて薄れていくことが多くあります。

受診の目安

次のような場合は、一度ご相談ください。

  • この感覚が数週間以上続いている
  • 仕事や家事、勉強に集中できない
  • 運転や作業の最中に生じて、危ないと感じることがある
  • この感覚そのものへの不安が強く、そのことばかり考えてしまう
  • 気分の落ち込みや不眠、動悸などが一緒にある
  • 人と会うのを避けるようになった

とくに、この状態が続くと気持ちが追い込まれやすくなります。「消えてしまいたい」といった気持ちがふと浮かんだときは、様子を見ずに早めにお声かけください。診察を待たずに話したいときは、次の窓口もご利用いただけます。

  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
  • よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」(SNS相談などの窓口一覧)
  • 命に関わる危険があるときは119番

どう対応していくか

1. 背景にあるものを確かめる

不安が強いのか、気分が落ち込んでいるのか、疲れが限界なのか。背景によって進め方が変わりますので、まずそこを一緒に整理します。甲状腺のはたらきや貧血など、体の状態が関わっていないかも必要に応じて確認します。

2. 「怖がりすぎない」ことが治療になります

この症状には、少し特殊なところがあります。この感覚を怖がるほど、強まりやすいのです。「また来た」「消えなかったらどうしよう」と身構えると、緊張が高まり、安全装置がさらに働いてしまう。悪循環になりやすい構造があります。

逆にいえば、「これは疲れたときに出る、体の反応なんだ」と受けとめられるようになると、それだけで軽くなる方が少なくありません。正体を知ることが、そのまま治療の一部になります。

3. 今ここに戻ってくる練習

感覚が遠くなったとき、意識を「今、ここ」に戻す方法があります。無理なくできるものをいくつかご紹介します。

  • 見えているものを声に出して数える。「白い壁、青いカップ、時計の秒針」と、目に入ったものに名前をつけていきます
  • 足の裏が床に触れている感覚に注意を向ける。椅子に座っているなら、背中や太ももが座面に触れている感じに気づいてみます
  • 温かい飲みものを、ゆっくり味わう
  • 好きな香りをかぐ
  • ゆっくり息を吐く。吸うことより、吐くほうを長めにするのがこつです

いずれも、感覚を強い刺激で上書きするのではなく、穏やかな感覚に注意を戻していくという考え方です。うまくいかない日があっても構いません。「戻す練習をしている」という気持ちで続けるだけで十分です。

4. 生活の調整

睡眠不足、過重な業務、カフェインの摂りすぎ、飲酒の習慣は、いずれもこの感覚を強めます。まずここを整えるだけで軽くなる方が多くいらっしゃいます。とくに睡眠は大きく影響します。

5. お薬について

この感覚そのものに直接効くお薬は限られていますが、背景にある不安や気分の落ち込みが軽くなると、結果としてこの感覚も薄れていくことがよくあります。逆に、お薬の影響で感覚の変化が出ている場合には、量や種類の見直しを検討します。抗うつ薬による感情の平坦さについては抗うつ薬で感情が平坦になるとき(antidepressant-emotional-blunting)をご覧ください。

6. 話しながら整理していく

どんなときに強まり、どんなときに薄れるのか。診察のなかで一緒に振り返っていくと、ご自分なりのパターンが見えてきます。このカウンセリング的なアプローチが、対処の幅を広げてくれます。

ご家族・パートナーの方へ

「自分が自分でない感じがする」と打ち明けられると、驚かれるかもしれません。ただ、この感覚は現実が分からなくなっているという意味ではなく、ご本人には状況がはっきり理解できています。

「気のせいだよ」と打ち消したり、「そんなことを言われても」と困惑を返したりすると、ご本人は「やはり伝わらない」と孤立してしまいます。「そういう感じがするんだね」と、そのまま受けとめていただくだけで十分です。説明を求めなくて構いません。ご家族だけでのご相談も承っています。

診察でどう伝えればよいでしょうか

言葉にしにくい感覚ですので、たとえで構いません。次のような伝え方をされる方が多くいらっしゃいます。

  • 「自分が自分でない感じがします」
  • 「ガラス一枚はさんで、世界を見ているようです」
  • 「自分の行動を、外から見ている感じです」
  • 「知っている場所なのに、初めて来たみたいに感じます」
  • 「うまく言えないのですが、現実味がありません」

あわせて、いつ始まったか、どんなときに強まるか、どのくらい続くかが分かると、見立てが進みます。うまくまとまらなくても、診察のなかで一緒にたどっていきますのでご安心ください。

よくあるご質問

このまま戻らなくなることはありますか

多くの場合、背景にあるものが整うにつれて薄れていきます。長く続いている方でも、対応を重ねることで日常への影響を減らしていくことができます。「二度と戻らない」という心配は、この症状につきものの不安であって、実際の見通しとは違います。

心の病気が重いということでしょうか

そうとは限りません。健康な方が疲れや強い不安のあとに経験することも多い感覚です。現実との区別がついている点も、しばしば心配される状態とは異なります。

誰にも信じてもらえない気がします

言葉にしにくい症状ですので、そう感じられるのは無理もありません。ただ、精神科・心療内科では日常的にうかがっているご相談です。伝わらない心配はいりませんので、感じたままをお話しください。

感情鈍麻と両方あると言われました

重なること自体は珍しくありません。背景を整理しながら、どちらの要素が強いかを経過のなかで見ていきます。時間とともに輪郭がはっきりしてきますので、焦らずに進めていきましょう。

当日に受診できますか

可能です。当院は当日予約に対応しています。土日の診療もありますので、平日にお時間が取りにくい方もご相談ください。桜木町・みなとみらい方面からもお越しいただけます。


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この記事の監修者

田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)

医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。

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