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2026/08/05
慢性うつの治療は、急性期のうつと何が違うのか|目標・時間軸・進め方を横浜・関内の精神科医が解説
同じ「うつの治療」でも、数か月の落ち込みを治すのと、十年続いてきた状態を動かすのとでは、設計がまるで違います。
ところが、この違いはあまり説明されません。そのため、慢性の経過をたどってきた方が急性期と同じ物差しで治療を受け、「効かない」と感じて中断してしまう——これが繰り返されています。まずは要点です。
- 目標が違う。症状をゼロにするのではなく、水位を上げ、生活の機能を戻す
- 時間軸が違う。判定は数週間ではなく、もっと長い単位で
- 測り方が違う。本人が変化に気づけないので、外から測る仕組みが要る
- 薬の位置づけが違う。薬は下支え。主戦場は行動と対人関係
- 研究では、慢性うつでは薬と心理的な関わりの併用が、どちらか一方より優れることが示されている
横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、エビデンスをふまえて解説します。この記事は、気分変調症とは?「ずっと憂うつなのは性格」と思ってきた方へという総合ガイドの一部です。
長く続くうつの治療をお考えの方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。長い経過を要する治療だからこそ、主治医制で、同じ医師が継続して診ます。
▶ WEB予約はこちら(当日予約可)/初めての方は横浜関内で心療内科を当日予約したい方へ|今日つらいときの受診目安と初診の流れをご覧ください。
急性期のうつの治療は、どう組み立てるか
比較のために、まず標準的なうつ病治療の形を確認します。
数か月前まで元気だった方が落ち込んだ場合、目標ははっきりしています。元の状態に戻すことです。到達点が見えているので、進み方も測りやすい。
- 休養を確保し、負荷を減らす
- 抗うつ薬を始め、数週間で効果を判定する
- 症状が軽くなったら、再発予防のため一定期間続ける
- 安定したら、時間をかけて減らしていく
この組み立ては、多くの方でうまく機能します。詳しくはうつ病とは?症状・原因・治療の全体像をご覧ください。
問題は、この設計をそのまま慢性の状態に当てはめたときに起こります。
違い① 目標——「戻す」先が、ない
慢性の経過をたどってきた方には、戻るべき「元の状態」がありません。十年、二十年と続いていれば、そもそも比較対象が存在しない。
ですから、目標の立て方から変える必要があります。当院でお伝えしているのは、次のような組み立てです。
- 症状をゼロにする、を目標にしない——到達できない目標は、途中の改善を見えなくします
- 水位を上げる、と考える——低い位置で平らだった地面の高さを、少しずつ上げていく
- 機能で測る——朝起きられるか、仕事が続くか、人と会えるか、休みの日に何かできるか。気分ではなく、できることの範囲で測ります
この置き換えは、単なる慰めではありません。慢性の状態では、気分の自己評価そのものが低いほうに偏るため、気分だけを指標にすると改善が検出できないという実務上の理由があります。
違い② 時間軸——判定を、急がない
抗うつ薬の効果判定は、急性期であれば数週間が目安です。しかし慢性の経過をたどってきた方では、反応が現れるまでに、より長い時間がかかる傾向があります。
ここを知らずに短い物差しで判断すると、何が起きるか。「効かないので変更」を繰り返し、薬の種類だけが増えて、どれも十分に試されていない状態になります。これは「うつが治らない」と言われたとき|治りにくさの正体を分解するで扱った「見かけの治療抵抗性」の典型です。
そこで、当院では治療を始める時点で、判定の時期を先に決めておきます。「この量で、この時期まで続けて、そこで一緒に振り返りましょう」と。
これには副次的な効果があります。途中で不安になったときの拠り所ができるのです。見通しがないまま「効いている気がしない」日々を過ごすのは、それ自体がつらい。約束の日が決まっていれば、そこまでは持ちこたえられます。
違い③ 測り方——本人には、気づけない
慢性うつの治療で、いちばん見落とされやすいのがこの点です。
変化の現れ方が、急性期とは違います。「気分が晴れた」という形では来ません。実際に先に動くのは、こういうところです。
- 朝、布団から出るまでの時間が短くなった
- 人の言葉を、悪いほうに解釈しなくなった
- 断れた。あるいは、頼めた
- 迷う時間が減り、決められるようになった
- 休みの日に、何かをしようと思えた
どれも地味です。そして本人は、まず気づきません。「相変わらずです」とおっしゃる方の生活を細かくうかがうと、実は動いていた、ということが頻繁にあります。
だから、外から測る仕組みが要ります。
測定に基づいて進めるということ
大規模研究(STAR*D)で採られたのは、毎回の診察で症状を評価尺度で測り、その数値に基づいて次の手を決めるという方法でした。印象や感覚ではなく、記録で判断する。この考え方は、いまでは標準的なものになっています。
慢性うつでは、これがとくに効きます。変化が小さいぶん、記録がなければ検出できないからです。診察では、質問紙を使ったり、生活の具体的な場面(起床時刻、外出の回数、人と話した頻度)をうかがったりして、変化を拾っていきます。
ご自身でも、簡単な記録をつけていただけると助かります。手帳に一行、「起きた時刻」と「今日やったこと」だけで十分です。数か月経ってから読み返すと、記憶では思い出せない変化が見えます。
違い④ 薬の位置づけ——下支えであって、主役ではない
抗うつ薬は、慢性うつに対しても有効です。比較試験でプラセボより優れることが確認されており、治療の柱のひとつであることは間違いありません。
ただし、薬が動かせる範囲には限りがあります。
長年のあいだに固まったもの——「どうせ言っても変わらない」という前提、人を避けるパターン、自分に価値がないという自己像。これらは、薬で気分が少し上がっても、そのままそこにあります。むしろ、これらが状態を維持する装置として働いているため、装置を止めないかぎり水位は戻ってしまいます。
ですから薬の役割は、「行動を変えられるだけの余力を作ること」だと考えています。余力ができたら、次の段階に進む。薬だけで完結させようとすると、そこで頭打ちになります。
薬の種類や副作用は抗うつ薬について、減らし方は抗うつ薬のやめ方|減らし方・中断症状・再発との見分けをご覧ください。当院は多剤投与・大量投与・長期の漫然処方を可能な限り控える方針です。
違い⑤ 心理的な関わりの比重が、大きい
ここには、はっきりしたエビデンスがあります。
慢性のうつを対象にした大規模な比較試験では、薬物療法だけの群、心理療法だけの群、両方を併用した群を比べたところ、併用群が、どちらか一方の群を大きく上回りました。この結果は、その後のメタ解析でも支持されています。
興味深いのは、この差が急性期のうつでは、ここまではっきりしないことです。慢性の状態に特有の現象と考えられています。理由は、先ほど述べた「維持装置」にあります。長年のパターンを扱わなければ、慢性うつは動きにくい。
そのため国際的には、慢性うつ専用の心理療法が開発されているほどです。長期にわたって形づくられた対人関係のパターンを扱うことに焦点を当てた手法が、この目的のために作られました。
当院での進め方
当院では、専門的な心理療法プログラムそのものは行っていませんが、診察のなかでカウンセリング的なアプローチを組み込みます。
- つらさの背景にある考え方の前提を、一緒に言葉にしていく
- 「どうせ」「自分なんて」がいつ、どこで作られたのかをたどる
- 対人関係で起きたことを、具体的な場面に分解して振り返る
- できたこと・動いたことを、こちらから拾って言語化する
この積み重ねが、薬と並んで治療の柱になります。
違い⑥ 行動から始める——気分を待たない
慢性うつには、必ずこの輪が回っています。
意欲が出ない → 動かない → 何も起こらない → 手応えがない → さらに意欲が出ない
何年も回り続けた輪は、放っておいて止まることはありません。どこかで人為的に切る必要があります。
切る場所として現実的なのは、「動かない」のところです。気分は直接には動かせませんが、行動は選べるからです。
ここで大事なのは順番です。「気分が上がったら動く」ではなく、「動いた結果として、気分がついてくる」。この順序を、少しずつ体で確かめていきます。
実際には、驚くほど小さいところから始めます。
- 決まった時刻に起きる(起きたあと何をするかは問わない)
- 朝、カーテンを開けて光を入れる
- 一日一回、家の外に出る(用事は不要)
- 週に一度、人と言葉を交わす場面を作る
- 以前やっていたことを、ひとつだけ再開してみる
「こんなことで」と思われるかもしれません。しかし大きな目標を立てて達成できないことが、慢性うつでは最大の逆効果になります。失敗の記録がまたひとつ増えるからです。小ささには、意味があります。
眠りが崩れている場合は、そこから手をつけます(不眠・睡眠障害について/朝起きられない)。
違い⑦ やめ方と、その後
慢性の経過をたどってきた方では、再発率が高いことが知られています。そのため、症状が落ち着いてからの扱いも、急性期とは変わります。
- 安定してすぐには減らさない:十分な期間、安定が続いたことを確認してから検討します
- 減らす時期を選ぶ:転職、異動、引っ越しなど、負荷が増える時期は避けます
- 刻みを小さく:とくに最後の段階ほど、ゆっくり進めます
- 減らしたあとも通院を続ける:やめた直後が、最も再発を捉えたい時期です
残った症状が次の再発を予測する、という研究があります。ですから「だいたい良くなったから、このへんで」という判断は、慢性うつではとりません。詳しくは二重うつ病(ダブルデプレッション)とは|「治ったのに、元に戻っただけ」の理由もご覧ください。
治療が続かない、いちばんの理由
慢性うつの治療で最大の障害は、副作用でも、効果不足でもありません。途中でやめてしまうことです。
理由は、ここまで読んでいただければ明らかだと思います。変化が地味で、時間がかかり、本人には気づけない。そのうえ、「どうせ変わらない」という考えは、慢性うつの症状そのものです。つまり病気が、治療の中断をすすめてくる。
ここへの対策も、治療の一部として組み込みます。
- 判定の時期を先に決める(違い②)
- 記録で変化を可視化する(違い③)
- 「やめたくなったら、やめる前に一度話す」と最初に約束しておく
- 通院の間隔を、無理のない範囲に設定する
最後の点は現実的な話です。長く続く治療なので、通いやすさそのものが治療の成否を左右します。当院が土日も診療し、関内駅から徒歩2分という立地であることは、この意味で治療上の条件でもあります。
ご家族にできること
慢性うつの治療は年単位になるため、周囲の関わり方が結果に影響します。
- 変化を代わりに見つける:本人が気づけない小さな変化を、外から指摘してもらえると、それ自体が治療の助けになります
- 急かさない:「まだ良くならないの」は、本人がいちばん自分に言っている言葉です
- 性格として扱わない:「そういう人だから」は、回復の可能性を閉じます
- 通院を支える:長い治療では、続けること自体が難所になります
詳しくは家族・パートナーの元気がないとき——かける言葉・避けたい言葉・受診のすすめ方をご覧ください。ご家族だけのご相談も承っています。
受診を検討する目安
- 治療を受けてきたが、短期間で薬が次々と変わってきた
- 「効いているのか分からない」まま、通院を続けている
- 良くなっても、すぐ元に戻ってしまう
- 薬だけの治療で、頭打ちになっている感覚がある
- 通院が続かず、中断を繰り返している
- 「消えてしまいたい」という気持ちが、背景に流れている
長く続く治療だからこそ、最初に設計を共有しておくことに意味があります。目標、時間軸、測り方、やめるときの条件。ここを言葉にしてから始めます。もう限界だと感じたとき——つらさが振り切れたときの受診の考え方もご覧ください。
すぐに話を聞いてほしいとき
気持ちが張りつめて、今すぐ誰かに聞いてほしいときは、次の窓口が使えます。診療時間外でも受け付けています。
- よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・通話無料)
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」 電話・SNSの相談窓口が一覧になっています
よくある質問
どのくらいの期間、治療が必要ですか?
年単位で考えます。ただし、その間ずっと同じ状態というわけではありません。数か月で身体面が楽になり、その後に考え方や対人関係が動いてくる、という順序をたどることが多くあります。
「効いている気がしない」のですが、続ける意味はありますか?
その感覚自体が、慢性うつでよく起こることです。だからこそ記録を取り、外から測ります。やめる前に、一度その気持ちを診察でお話しください。記録を見返すと、動いていることが分かる場合があります。
薬なしで、治療できませんか?
状態によります。軽度であれば、生活の立て直しとカウンセリング的なアプローチを中心に進めることもあります。「薬は使いたくない」というご希望は、最初にお伝えください。それを前提に設計します。
カウンセリングは受けられますか?
当院では、診察のなかでカウンセリング的なアプローチを組み込んで進めます。専門的な心理療法プログラムをご希望の場合は、状態をふまえてご相談ください。
通院の間隔は、どのくらいですか?
治療の段階によります。調整中は間隔を詰め、安定してくれば広げていきます。長く続ける治療なので、無理のない間隔を一緒に決めます。
途中で通うのをやめてしまった経験があります。また同じになりませんか。
中断の経験は、責める材料ではなく、設計を見直す材料です。なぜ続かなかったのか——効果が見えなかった、通いにくかった、話しにくかった。そこを聞かせていただければ、次は違う組み立てができます。
仕事を続けながら、治療できますか?
多くの方が続けながら治療されています。慢性うつでは、休むだけでは解決しないことも多いためです。ただし負荷が過大な場合は調整が必要で、当院の理事長は日本医師会認定産業医でもあり、働き方の相談にも対応しています(休職・復職について)。
横浜・関内で、長く続くうつの治療をお考えの方へ
慢性のうつは、短期決戦の治療には向きません。かわりに、時間をかければ動く部分があります。大切なのは、その見通しを最初に共有し、途中で見失わない仕組みを作っておくことです。
横浜・関内のみなとメンタルクリニックでは、気分変調症をはじめ、うつ病、不安症、不眠症、発達障害など、心の不調全般の診療を行っています。主治医制で、同じ医師が経過を追います。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分。土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています(枠の状況によります)。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。女性医師による診療にも対応しています。
関連ページ
慢性のうつ・気分変調症について
- 気分変調症とは?「ずっと憂うつなのは性格」と思ってきた方へ——慢性のうつを解説
- 二重うつ病(ダブルデプレッション)とは|「治ったのに、元に戻っただけ」の理由
- 「うつが治らない」と言われたとき|治りにくさの正体を分解する
- 「性格」と診断される病気の境目|気分変調症と性格はどう見分けるのか
うつ病・気分の落ち込みについて
- うつ病とは?症状・原因・治療の全体像
- 気分の落ち込みが続く——「ただの落ち込み」と「受診すべきうつ」の境界線
- うつは怠けではない——自分を責めてしまうあなたへ
- 何をしても楽しくない——興味がわかないとき
- 朝起きられない
- もう限界だと感じたとき——つらさが振り切れたときの受診の考え方
- 家族・パートナーの元気がないとき——かける言葉・避けたい言葉・受診のすすめ方
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参考・情報源
- Keller MB, et al. A comparison of nefazodone, the cognitive behavioral-analysis system of psychotherapy, and their combination for the treatment of chronic depression. N Engl J Med. 2000(併用の優位性)
- Cuijpers P, et al. Psychotherapy for chronic major depression and dysthymia: a meta-analysis. Clin Psychol Rev.(慢性うつに対する心理療法)
- Trivedi MH, et al. Measurement-based care in STAR*D(測定に基づく治療)
- Judd LL, et al. Residual symptoms as predictors of relapse(残遺症状と再発)
- Cuijpers P, et al. Behavioral activation treatments of depression: a meta-analysis(行動から始める治療)
- 日本うつ病学会|気分障害の治療ガイドライン
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。