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2026/07/01
双極性障害の薬|気分安定薬とは?抗うつ薬を慎重に使う理由と再発予防を精神科医が解説
「双極性障害と診断されたけれど、どんな薬で治療するの?」「気分安定薬って何?」「一生飲み続けるの?」「うつ病の薬とは違うの?」——双極性障害の薬物療法について、こうした疑問や不安をお持ちの方は、少なくありません。まずは、この記事の要点です。
- 治療の中心は気分の波を抑える「気分安定薬」と、一部の「抗精神病薬」
- うつ病と違い、抗うつ薬だけを使うのは慎重に——躁転・気分の不安定化を招くことがある
- 薬には「今の症状を抑える役割」と「再発を防ぐ役割」があり、後者がとても重要
- リチウムなど一部の薬は血液検査で血中濃度を確認しながら、安全に使う
- 症状が落ち着いても、再発予防のため、自己判断でやめないことが大切
双極性障害の薬物療法は、うつ病の治療とは考え方が大きく異なります。「気分の波そのものを、なだらかにする」ことが目標になるためです。このページでは、双極性障害に使われるお薬の種類・役割・注意点、そして「再発予防」という大切な視点までを、日本うつ病学会の診療ガイドラインなどをふまえながら、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、できるだけていねいに解説します。双極性障害そのものについては「双極性障害(躁うつ病)とは」を、うつ病との違いについては「双極性障害とうつ病の違い」もあわせてご覧ください。
双極性障害の薬物療法|「波をなだらかにする」のが目標
双極性障害は、気分が高ぶる「躁(または軽躁)」と、気分が沈む「うつ」を、くり返す病気です。治療では、それぞれの時期の症状を抑えることに加えて、いちばん大切なのが、この「気分の波」そのものを、なだらかにしていくことです。
うつ病であれば、沈んだ気分を持ち上げる(抗うつ薬)が治療の中心になります。しかし双極性障害では、片方向に持ち上げるだけの薬を使うと、今度は反対側(躁)に振れてしまうことがあります。ちょうど、片側だけ強く押すと、シーソーが反対に跳ね上がるようなものです。だからこそ、双極性障害では「上げる・下げる」ではなく、「波の振れ幅を抑えて、安定させる」お薬が、治療の柱になります。この違いが、双極性障害の薬物療法を理解するうえで、いちばん大切なポイントです。
そして、双極性障害の治療には、大きく3つの「局面」があります。今まさに躁状態にあるとき(躁状態の治療)、うつ状態にあるとき(うつ状態の治療)、そして症状が落ち着いた後の再発予防(維持期の治療)です。それぞれの局面で、使うお薬や重点が少しずつ変わります。以下、まずお薬の種類を、次にこの局面ごとの考え方を、順にご説明します。
治療の柱①|気分安定薬
双極性障害の治療の中心となるのが、「気分安定薬」と呼ばれるお薬です。これは、躁にもうつにも働きかけ、気分の波を抑えて、再発を防ぐ役割をもつお薬の総称です。それぞれ、躁を抑える力が強いもの、うつ側を支える力が強いもの、といった個性があり、状態に応じて選ばれ、ときに組み合わせて使われます。代表的なものを挙げます(具体的な用量・選び方は、状態に応じて医師が判断します。ここでは、それぞれの特徴をご説明します)。
リチウム(炭酸リチウム)
双極性障害の治療において、古くから使われ、中心的な役割を果たしてきた、いわば「基本の薬」です。躁状態にもうつ状態にも用いられ、気分の波を安定させます。とくに、再発予防の効果がよく知られており、双極性障害の治療では欠かせないお薬とされています。
特筆すべきは、リチウムには自殺のリスクを下げる効果が報告されている点です。研究では、双極性障害の自殺率を大きく減らすことが示されており、この点は、ほかの薬にはない、リチウムの重要な特徴です。また、長期的な認知機能の面でも、良い影響が報告されています。
一方で、リチウムは、効果が現れる濃度と、副作用が出る濃度が近い(専門的には「治療域が狭い」)ため、定期的な血液検査で血中濃度を確認しながら、慎重に使うお薬です(この点は後で詳しくご説明します)。手のふるえ、のどの渇き、尿の量が増える、といった症状や、長期的には腎臓・甲状腺の働きへの影響が知られており、これらも定期的に確認します。汗を大量にかいたとき、脱水のとき、一部の痛み止め(ロキソニンなどの消炎鎮痛薬)や血圧の薬との併用で、血中濃度が上がることがあるため、体調の変化や、ほかのお薬(市販薬を含む)は、必ずお伝えください。
バルプロ酸(バルプロ酸ナトリウム)
もともとは、てんかんの治療に使われてきたお薬で、双極性障害では、とくに躁状態に用いられます。効果が現れるのが比較的早いとされ、急な高ぶりを抑えたい場面で選ばれることがあります。片頭痛の予防効果もあり、双極性障害に片頭痛を併せもつ方(併存率が高いことが知られています)では、両方に働く選択肢になります。
注意点として、妊娠中の使用は、赤ちゃんへの影響(先天的な異常や、発達への影響のリスク上昇)が知られているため、原則として避けられます。妊娠の可能性がある方、妊娠を希望される方は、必ず事前にお伝えください。ほかの、より安全な選択肢を一緒に考えます。このほか、肝臓の働きへの影響などを、血液検査で確認していきます。
ラモトリギン
こちらも、もとはてんかんの薬で、双極性障害では、とくに「うつ」の局面や、うつのくり返しの予防に用いられることが多いお薬です。躁を抑える力より、うつ側を支え、再発(とくにうつの再発)を防ぐ働きに特徴があります。「うつが中心の双極性障害」で、選択肢になりやすいお薬です。
最も注意すべき点は、まれに重い皮膚の症状(発疹から始まる、重篤なアレルギー反応)を起こすことがあることです。これを避けるため、ごく少量から、時間をかけて、ゆっくり増やしていくことが、厳格に定められています。飲み始めの時期に、発疹・発熱・粘膜のただれなどが出たら、すぐに医師にご連絡ください。ゆっくり増やすぶん、効果が安定するまで数週間以上かかりますが、これは安全のための、大切な手順です。あせらず進めていきましょう。
カルバマゼピン
これも、てんかんの治療にも使われるお薬で、躁状態に用いられることがあります。ほかのお薬の効き方を変えてしまう(飲み合わせの)場面があるため、服用中のお薬は、必ずお伝えください。こちらも、血液検査で経過を確認しながら使います。
治療の柱②|第二世代(非定型)抗精神病薬
「抗精神病薬」と聞くと、驚かれるかもしれませんが、双極性障害の治療では、気分安定薬と並ぶ、もう一つの大切な柱です。近年よく使われる「第二世代(非定型)抗精神病薬」と呼ばれるお薬は、気分の波を抑える作用をもち、躁状態・うつ状態・再発予防の、それぞれの場面で用いられます。
代表的なものに、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ルラシドンなどがあります。これらは、統合失調症などにも使われますが、双極性障害に対しては、「気分を安定させる薬」として位置づけられています。とくに、双極性障害のうつ状態に対して効果が認められているお薬もあり、抗うつ薬を単独で使いにくい双極性障害のうつにおいて、重要な選択肢になります。「抗精神病薬」という名前だけで不安にならず、あなたの気分の波を安定させるための薬、と理解していただければと思います。診断名が統合失調症に変わった、ということでは、けっしてありません。
お薬によって、副作用の傾向が異なります。眠気(不眠時にはこれを利用することもあります)、体重増加、血糖値や脂質への影響などがみられることがあり、とくに代謝への影響については、血液検査で確認していきます。どのお薬が合うかは、症状のタイプ(躁が強いか、うつが中心か)・体質・生活への影響などをふまえて、医師が一緒に選んでいきます。
なぜ、抗うつ薬だけを使うのは慎重なのか
双極性障害の薬物療法で、とくに知っておいていただきたいのが、抗うつ薬の扱いです。双極性障害の「うつ」は、うつ病のうつと症状が似ているため、つい抗うつ薬を使いたくなりますが、双極性障害に抗うつ薬だけ(単独)を使うことには、慎重な立場がとられています。
理由は、抗うつ薬の単独使用が、かえって気分を不安定にすることがあるためです。具体的には、うつから一気に躁・軽躁へ振れてしまう(躁転)、気分の波が短い周期でくり返されるようになる(急速交代化)、といったことが起こりえます。日本うつ病学会の診療ガイドラインでも、双極性障害の抑うつには、まず気分安定薬や第二世代抗精神病薬を用いることが基本とされ、抗うつ薬の単独使用は推奨されていません。大規模な研究でも、気分安定薬に抗うつ薬を上乗せしても、気分安定薬単独に比べて明らかに優れているとは示されなかった、と報告されています。
「絶対に使わない」というわけではなく、状況によっては、気分安定薬などと組み合わせて、慎重に使うこともあります。大切なのは、医師が病気の全体像(双極性であること)をふまえて、判断することです。「うつ病」として抗うつ薬だけで治療してもなかなか良くならなかった方が、双極性障害と分かって治療方針を見直したところ、安定に向かった——というのは、実際によくあることです。だからこそ、正しい診断が、正しい薬物療法の出発点になります。
お薬には「2つの役割」があります
双極性障害のお薬を理解するうえで、大切な視点があります。それは、お薬には「今の症状を抑える役割」と「再発を防ぐ役割」の、2つがあるということです。
- 急性期の治療:今、躁状態・うつ状態にある——その症状を抑え、落ち着かせるための治療です。躁のときは高ぶりを鎮め、うつのときは支える、というように、局面に応じて薬を調整します。
- 維持期の治療(再発予防):症状が落ち着いたあとも、次の波が来るのを防ぐために続ける治療です。双極性障害では、これがとても重要です。
双極性障害は、再発をくり返しやすい病気です。だからこそ、症状が治まったあとも、再発を防ぐために、お薬を続けることが大切になります。診療ガイドラインでも、症状が安定したあとに薬をやめると、続けた場合に比べて再発しやすいことが、明確に示されています。「もう治ったから」と自己判断でやめてしまうと、しばらくして波がぶり返してしまう——これが、双極性障害の治療で、もっとも避けたいことのひとつです。再発をくり返すことは、その後の経過にも影響するため、「安定を保ち続けること」そのものが、治療の大きな目標になります。
血液検査で、安全を確認しながら使います
双極性障害のお薬のなかには、血液検査をしながら、安全に使っていくものがあります。とくにリチウムは、効果が出る血中濃度と、副作用が出る濃度が近いため、定期的に採血して血中濃度を測り、適切な範囲に保たれているかを確認します。濃度が高すぎれば副作用のリスクが上がり、低すぎれば効果が不十分になるため、この確認が、効果と安全の両方を支えます。
「採血が続くのは大変」と感じるかもしれませんが、これは、お薬を安全に、効果的に使うための、大切な手順です。血中濃度だけでなく、リチウムでは腎臓・甲状腺の働き、バルプロ酸・カルバマゼピンでは肝臓の働き、抗精神病薬では血糖・脂質など、お薬に応じて必要な項目を、あわせて確認していきます。副作用は、こうして「検査で確認しながら」使っていくことで、多くは芽のうちに見つけて、早めに対応できます。当院では、こうした検査の必要性もご説明しながら、納得して治療を続けていただけるよう努めています。
お薬を続けるうえで、知っておきたいこと
効果が出るまでに、時間がかかることがあります
気分安定薬の多く、とくに再発予防の効果は、飲んですぐに実感できるものではありません。じわじわと、気分の波をならしていくお薬です。「すぐ効かないから」とやめてしまわず、続けることに意味があります。ラモトリギンのように、安全のためゆっくり増やすお薬では、効果の判断までにとくに時間がかかります。
自己判断でやめないこと
症状が落ち着くと、「もう飲まなくていいのでは」と感じることがあります。とくに、気分が良い時期には、「薬はいらない」と感じやすいものです。けれど、自己判断で急にやめると、再発の引き金になったり、離脱症状が出たりすることがあります。減らす・やめるときは、必ず医師と相談しながら、慎重に進めます。「やめたい」という気持ちも、大切な相談ごととして、お聞かせください。
飲み合わせ・妊娠について
双極性障害のお薬には、ほかの薬との飲み合わせや、妊娠に関する注意が必要なものがあります(とくにバルプロ酸、リチウムと一部の痛み止め・血圧の薬など)。市販薬・サプリメントも含め、服用中のものは必ずお伝えください。また、妊娠を考えている方・妊娠の可能性がある方は、早めにご相談ください。安全な選択肢を、一緒に考えていきます。
お薬だけではない、双極性障害の治療
双極性障害の治療は、お薬が中心ですが、それだけではありません。生活リズム(とくに睡眠)を整えること、気分の波のパターンを自分で把握すること、再発のサインに早めに気づくこと、周囲の理解を得ることなども、安定を保つうえで、とても大切です。とくに、睡眠不足や生活リズムの乱れは、躁のきっかけになりやすいため、規則正しい生活が、再発予防の土台になります。日々の気分を簡単に記録しておくと、波のパターンや、再発の予兆に気づきやすくなります。当院では、お薬による治療と、こうした生活面のサポートを、あわせて進めていきます。
よくある質問
双極性障害の薬は、一生飲み続けるのですか?
再発を防ぐために、長期間続けることが多いお薬ですが、「一生」と決まっているわけではありません。経過が安定していれば、医師と相談しながら調整していくこともあります。ただし、自己判断での中止は再発につながりやすいため、やめるタイミングは必ずご相談ください。長く安定を保っている方も、多くいらっしゃいます。
気分安定薬は、飲めばすぐ効きますか?
躁状態を抑える効果は比較的早く現れるものもありますが、再発を防ぐ効果は、じわじわと現れます。すぐに実感できなくても、続けることに意味があります。焦らず、一緒に経過をみていきましょう。
抗精神病薬を使うと言われました。統合失調症なのですか?
いいえ。第二世代抗精神病薬は、双極性障害では「気分を安定させる薬」として広く使われています。病名が変わったわけではありませんので、ご安心ください。不安な点は、遠慮なくお尋ねください。
なぜ、何度も採血が必要なのですか?
リチウムなど一部のお薬は、血中濃度を適切な範囲に保つことが、効果と安全の両面で大切だからです。あわせて、腎臓・甲状腺・肝臓・代謝などの働きも確認します。副作用を早めに見つけ、安全に治療を続けるための検査です。
双極性障害の薬を飲みながら、妊娠できますか?
お薬の種類によって、妊娠中の注意が異なります(とくにバルプロ酸は原則避けます)。妊娠を希望される場合は、早めにご相談ください。より安全なお薬への変更を含めて、方針を一緒に考えます。自己判断で中止せず、まずはご相談ください。
お酒を飲んでも、いいですか?
アルコールは、気分の波を乱したり、睡眠を妨げたり、お薬の作用に影響したりすることがあるため、控えめにするか、避けるのが望ましいとされます。飲酒の習慣がある場合は、ご相談ください。
リチウムは、こわい薬なのですか?
血中濃度の管理が必要なお薬ですが、定期的な血液検査のもとで適切に使えば、再発予防や自殺予防の効果が期待できる、双極性障害治療の要となるお薬です。正しく使えば、過度に恐れる必要はありません。気になる症状があれば、その都度ご相談ください。
当院の特徴|関内駅2分・平日夜間診療・当日予約対応・女性医師在籍
みなとメンタルクリニックは、関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分の、通いやすい立地にあります。祝日以外は毎日診療しており、平日は夜19時まで診療しているため、お仕事を続けながらの通院にも対応しています(土曜・日曜も診療)。当日のご予約にも対応していますが、枠の状況によっては、ご希望に添えない場合もございます。できるだけ同じ医師が継続して診療し、お薬についても、必要性や見通しをご説明し、ご納得いただきながら進めることを大切にしています。血液検査による安全確認も含め、双極性障害の長期的な治療を支えます。女性医師も在籍し、保険適用の心理検査にも対応しています。うつ病、不安症、双極性障害、不眠症、自律神経失調症、適応障害、発達障害など、こころの不調全般を診療しています。
横浜・関内で、双極性障害の治療をお考えの方へ
「双極性障害と診断され、薬のことが不安」「今の治療が合っているか相談したい」「うつ病として治療してきたが、良くならない」——どんなことでも、不安や希望をそのままお聞かせください。双極性障害は、適切なお薬と、生活面のサポートによって、気分の波を安定させ、自分らしい生活を続けていける病気です。長い経過を、一緒に支えていきます。
横浜・関内のみなとメンタルクリニックは、関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。祝日以外は毎日診療し、平日は夜間まで、土日も診療しています。当日のご予約にも対応しており(枠の状況によります)、みなとみらいエリアからも通院しやすいクリニックです。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町エリアからもお越しいただけます。
「こんなことで受診していいのだろうか」と、ためらう必要はまったくありません。気分の波のつらさも、お薬への不安も、我慢するものではありません。初めての方も、緊張されて当然です。私たちは、その一歩を、ていねいにお迎えします。受診をご希望の方は、WEB予約はこちらから。
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この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。