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2026/06/20

なぜ躁状態で元気が出ても治療が必要なの?|双極性障害の治療の意味を横浜・関内の精神科医が解説

「本人はすごく元気で、調子が良さそうなのに、どうして治療が必要なの?」「むしろ仕事もはかどっていて、止めるのはかわいそうな気がする」「薬を勧めても『自分は病気じゃない』と言って、聞いてくれない」——双極性障害の躁状態・軽躁状態をめぐって、こうした疑問や戸惑いを感じていませんか。まずは、この記事の要点です。

  • 躁・軽躁は「元気で調子が良い」ように見えるが、双極性障害の症状の一部
  • 躁のあとには反動で強いうつが来やすく、放置はその後のつらさを招く
  • 躁状態は浪費・重大な決断・人間関係の悪化など、生活を壊すことがある
  • 治療は個性や元気を奪うためではなく、波に振り回されないため
  • 本人が病気と気づきにくいため、家族の気づき・相談が大きな支えになる

たしかに、躁状態や軽躁状態は、本人にとっても周囲にとっても「元気で調子の良い時期」に見えます。しかし、それは双極性障害の症状の一部であり、放っておくと、本人の生活や人間関係、そしてその後の心に、大きな影響を残すことがあります。このページでは、なぜ躁状態でも治療が必要なのか、その意味と、本人・ご家族の向き合い方について、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。双極性障害全体については「双極性障害(躁うつ病)とは」をご覧ください。

躁・軽躁は「調子が良い」ように見える

躁状態や軽躁状態では、気分が高ぶり、エネルギーにあふれ、よく動けて、アイデアも次々に浮かびます。本人は「絶好調」「むしろ元気になった」と感じることが多く、周囲からも「最近、活動的だね」と見えることがあります。だからこそ、「これが治療すべき症状だ」とは、思いにくいのです。ここが、双極性障害の、いちばん理解されにくいところかもしれません。「つらい症状」であれば治療が必要だと分かりやすいのですが、「気持ちの良い症状」だからこそ、治療の必要性が伝わりにくいのです。

それでも、なぜ治療が必要なのか

「元気なのに、なぜ?」という疑問は、もっともです。しかし、躁状態を治療せずに放置することには、いくつもの理由から、注意が必要です。順にご説明します。

躁のあとには、強いうつが来やすい

躁状態や軽躁状態のあとには、反動のように、強いうつ状態が訪れることが多いとされています。高ぶった時期のあとに深く落ち込み、何もできなくなる——この落差自体が、本人を大きく消耗させます。しかも、躁のときにとった行動(浪費や、人間関係のトラブルなど)への後悔が、うつのつらさに追い打ちをかけることもあります。躁を放置することは、その後のつらいうつを、より重くしてしまうことにもつながるのです。

躁状態が、生活・信用・人間関係を壊すことがある

躁状態では、判断力が普段とは変わり、次のような行動につながることがあります。

  • 大きな買い物・ギャンブル・投資などによる、浪費や借金
  • 勢いでの退職・離婚など、重大な決断
  • 怒りっぽくなり、人間関係を損なう
  • 過度に活動的になり、危険な行動をとる

これらは、本人が落ち着いたあとに、大きな後悔やダメージとして残ることがあります。「元気なうちの行動」が、あとの生活を苦しめてしまうのです。積み上げてきた信用や、大切な人間関係、財産を、一時期の高ぶりで失ってしまう——それは、本人がいちばん望まないことのはずです。治療は、こうした本人を守る、という意味も持っています。

重くなると、現実離れした考えや入院に至ることも

躁状態が重くなると、現実離れした考え(妄想など)が現れたり、生活が立ち行かなくなって、入院が必要になったりすることもあります。早めに治療することで、こうした事態を防ぎやすくなります。

波をくり返すほど、安定しにくくなることがある

気分の波を治療せずにくり返すと、波が起こりやすくなったり、安定しにくくなったりすることがあるとされています。くり返すごとに、次の波が来やすくなる、という悪循環に陥ることがあるのです。だからこそ、早めに、そして安定してからも治療を続け、波そのものを減らしていくことが大切です。

「自分らしさ」が分からなくなる

高ぶる時期と落ち込む時期をくり返すうちに、「本来の自分は、どんな状態なのか」が分かりにくくなり、自信を失ってしまう方もいます。治療で波を穏やかにすることは、安定した「自分」を取り戻していくことでもあります。

とくに「軽躁」は、見過ごされやすい

軽躁状態は、躁状態ほど激しくないぶん、「ただ調子が良いだけ」と見過ごされがちです。本人は心地よく感じるため、治療をやめたくなることもあります。しかし、軽躁を放置すると、その後にうつが来たり、波をくり返したりします。「調子が良い」と感じるときこそ、治療を続ける意味があります。「今は元気だから薬はいらない」と自己判断でやめてしまうことが、次の波を招く、という点に、とくに注意が必要です。

本人が「病気じゃない」と感じるのは、なぜか

躁・軽躁の時期は、本人にとって気分が良く、活動的で、むしろ「絶好調」に感じられます。そのため、「自分は病気ではない」「治療は必要ない」と感じやすいのです。これは、本人の性格や意地ではなく、躁状態の特徴のひとつです(専門的には「病識が得られにくい」といいます)。周囲が「おかしい」と感じても、本人には伝わりにくいことがあります。ご家族が「どうして分かってくれないのか」と、もどかしく感じられるのは自然なことですが、それは本人がわがままだからではなく、病気の性質による、ということを知っておいていただければと思います。

「治療で、自分の良い部分まで失われるのでは」という不安

「薬を飲んだら、元気な自分や、ひらめきが失われるのではないか」と心配される方もいます。とくに、躁のときの高い生産性や創造性を、「自分の才能」と感じている方は、それを手放すことに強い抵抗を感じることがあります。けれど、治療の目的は、個性や元気を奪うことでは、ありません。気分の波に振り回されず、安定して自分らしく過ごせるようにすることが目的です。

高ぶりすぎて後で苦しむのではなく、穏やかな状態で、持続的に力を発揮できるよう支える——それが治療の役割です。実際、波が安定することで、かえって仕事や人間関係が長続きし、「本来やりたかったこと」に、腰を据えて取り組めるようになった、という方も少なくありません。一時的な高い波より、なだらかで続く力のほうが、人生の役に立つことは多いのです。

家族・周囲ができること

本人が病気と気づきにくいぶん、ご家族や周囲の関わりが、大きな支えになります。

  • 頭ごなしに否定しない:「おかしい」と責めるより、心配を穏やかに伝える
  • 落ち着いているときに話す:高ぶっているときの説得は難しいため、安定した時期に、治療の大切さを話し合う
  • 危険な決断・行動から守る:大きな買い物や重大な決断は、一度立ち止まれるよう支える
  • 受診につなぐ:本人だけで難しいときは、家族が相談に同行する
  • 変化に早く気づく:眠らなくても平気、活動的すぎる、といったサインに気づき、早めに相談する

ただし、ご家族が一人で抱え込み、本人を何とかしようと奮闘しすぎると、ご家族自身が疲れ果ててしまいます。「本人を変えなければ」と気負いすぎず、まずはご家族だけで、医療機関に相談することもできます。当院では、ご家族からのご相談にも対応しています。どう関わればよいか、一緒に考えていきましょう。

治療を続ける意味

双極性障害の治療は、いまの症状を抑えるだけでなく、再発を防ぎ、安定した状態を保つことを目指します。だからこそ、躁・軽躁のときも、落ち着いたあとも、治療を続けることが大切です。「症状がないときにも薬を続ける」ことには、次の波を防ぐという、はっきりした意味があります。具体的な治療の進め方は、「双極性障害の薬物療法|気分安定薬・抗精神病薬・再発予防」でくわしく解説しています。また、躁・軽躁が見過ごされやすい背景については「双極性障害とうつ病の違い」もご覧ください。

受診を検討する目安

本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。次のような場合は、相談を検討してください。

  • 眠らなくても元気で、活動的になりすぎる時期がある
  • 高ぶった時期のあとに、強く落ち込む
  • 浪費や勢いでの決断など、後悔につながる行動がみられる
  • 本人が「病気ではない」と言い、治療につながらない
  • 気分の波で、家族や周囲が対応に困っている
  • 気分が沈んでいるのに落ち着かず、「消えてしまいたい」と感じることがある

とくに「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、我慢せず、早めにご相談ください。受診をご希望の方は、WEB予約はこちらからご予約いただけます。

よくある質問

本人が「病気じゃない」と言って、受診してくれません。

躁・軽躁のときは、本人が病気と気づきにくいものです。落ち着いている時期に話し合う、家族がまず相談する、といった方法があります。ご家族だけでのご相談も可能ですので、「どう受診につなげるか」から、一緒に考えましょう。

元気なのに無理に止めるのは、かわいそうではないですか?

お気持ちは、もっともです。ただ、その「元気」のあとに、強いうつや後悔が来ることが多く、波を穏やかにすることが、本人を守ることにつながります。元気や個性を奪うための治療では、ありません。

薬で、自分の個性や、ひらめきがなくなりませんか?

治療の目的は、個性を消すことではなく、波に振り回されず安定して過ごせるようにすることです。穏やかな状態で、持続的に力を発揮できるよう支えます。むしろ、安定することで力を発揮しやすくなる方も多くいます。

軽躁状態でも、治療が必要ですか?

はい。軽躁は「調子が良い」と感じられますが、その後にうつが来たり、波をくり返したりするため、安定させる治療が大切です。「調子が良いから、もう薬はやめたい」と感じるときこそ、ご相談ください。

症状がないときも、薬を飲み続けるのですか?

はい、多くの場合、症状が落ち着いた後も、再発予防のために治療を続けます。「症状がないのに飲む」ことには、次の波を防ぐという、大切な意味があります。やめるタイミングは、自己判断せず、医師と相談しながら決めていきます。

横浜・関内で、気分の波にお悩みの方・ご家族へ

「元気そうなのに、なぜ治療が必要なのか」——その疑問の先には、本人を守り、安定した生活を取り戻すという、治療の大切な意味があります。躁のときの行動で、大切なものを失う前に、そして、その後のつらいうつを軽くするために、早めの対応が力になります。本人も、ご家族も、一人で抱え込む必要はありません。

横浜・関内のみなとメンタルクリニックでは、双極性障害やうつ病をはじめ、こころの不調全般の診療を行っています。祝日以外は毎日診療し、平日は夜19時まで、土日も診療しているため、お仕事を続けながらの通院や、ご家族からのご相談にも対応しています。当日のご予約にも対応しており(枠の状況によります)、関内駅から徒歩2分と通いやすく、みなとみらいエリアからも通院しやすい立地です。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町エリアからもお越しいただけます。

受診をご希望の方は、WEB予約はこちらからご予約いただけます。受診前に確認したいことがある方は、よくある質問もご覧ください。初めて受診される方は、初診の方へも、あわせてご確認ください。

「こんなことで受診していいのだろうか」と、ためらう必要はまったくありません。気分の波のつらさも、ご家族の戸惑いも、我慢するものではありません。初めての方も、緊張されて当然です。私たちは、その一歩を、ていねいにお迎えします。

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  • 双極性障害と仕事・休職・復職|働きながら治療を続けるためのポイント
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この記事の監修者

田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)

医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。

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