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2026/07/14

食欲がない・食べても味がしない——気分の落ち込みと食欲の関係を横浜・関内の精神科医が解説

冷蔵庫を開けても、食べたいものが浮かばない。

目の前に料理があっても、手が伸びない。義務のように口に運んでみるが、味を感じない。砂を噛んでいるようだ、と表現される方もいます。気づけば一日、まともに食べていない。体重計に乗ると、数キロ減っている。

あるいは、まったく逆のことが起きている方もいます。夕方から夜にかけて、甘いものや炭水化物が止まらない。空腹でもないのに食べ続け、あとで自己嫌悪に沈む。

どちらも、そのうち戻るだろうと思いながら、戻らない。

食欲の変化は、意志や食習慣の問題として片付けられがちです。しかし実際には、気分の状態を映す、きわめて客観的な指標です。精神科の診断基準にも、食欲や体重の変化は正式な症状として記載されています。

この記事は、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックがお届けする「気分の落ち込み・無気力」ガイドの一記事です。気分の落ち込みと食欲がどう結びついているのか、増える場合と減る場合で何が違うのか、受診の目安を、精神科医が解説します。落ち込み全体の見分け方は気分の落ち込みが続く——「ただの落ち込み」と「受診すべきうつ」の境界線にまとめています。

食欲の変化が2週間以上続いている方、体重が目に見えて減ってきた方は、様子を見ずにご相談ください。WEB予約はこちらから当日のご予約が可能です。関内駅から徒歩2分、祝日を除く土日も診療しています。


なぜ、気分が落ちると食欲が変わるのか

食欲は、単なる「お腹の空き具合」ではありません。

視床下部を中心とした食行動の調節系と、ストレス応答系(HPA軸と呼ばれるホルモンの経路)、そして「食べたら気持ちいい」という感覚を生み出す報酬系。この三つが連動して成り立っています。

強いストレスや、うつ状態が続くと、この連動が乱れます。ストレス応答が高まると食欲が抑制されることが知られており、また報酬系の働きが落ちると、食べても「おいしい」という感覚が生まれにくくなる。

味覚そのものが壊れたのではありません。味を「快」として受け取る回路の、出力が落ちている。食べても味がしないという体験は、ここから来ています。

この報酬系の機能低下は、食事に限らず、あらゆる楽しみが色あせる形で現れることがあります(何も楽しくない・好きだったことに興味がわかない——アンヘドニア(快感消失)とは)。

加えて、うつ状態では「食事を用意する」という段取り自体が、重荷になります。買い物に行く。献立を決める。調理する。——実行機能が落ちている状態では、この一連の作業が越えられない壁になり、結果として食事が抜けていく。

食欲がないのではなく、食事にたどり着けない。そういう方も、実際には少なくありません(やる気が出ない・何もしたくない——「無気力」の背後にあるものと回復の順序頭が働かない・ぼーっとして考えがまとまらない——うつと「思考の鈍さ」)。


「減るうつ」と「増えるうつ」

典型的なパターン:食欲低下・体重減少

うつ病でもっとも多いのは、食欲が落ちるパターンです。

診断基準では、食事療法をしていないのに1か月で体重の5%以上が変化した場合を、意味のある変化としています。60kgの方なら、約3kg。

体重が落ちていることに、本人が気づいていないこともあります。久しぶりに会った人から「痩せた?」と言われて初めて自覚する——よくある入口です。

この場合、しばしば朝がもっともつらく、朝食が最も食べられないという日内変動を伴います。夕方になると多少は食べられる。

気分の落ち込み、楽しめなさ、不眠、自責感が併存しているなら、うつ状態を考える段階です(うつ病についての解説記事一覧)。朝の起きづらさが強いなら朝起きられない・布団から出られないのは怠け?も、あわせてご覧ください。

見逃されやすいパターン:食欲増加・過食

一方で、うつ状態でも食欲が増え、体重が増えるタイプがあります。

とくに、夕方から夜にかけて甘いものや炭水化物への欲求が強まり、過眠(いくら寝ても眠く、長時間眠ってしまう)を伴う場合。非定型の特徴を持つうつ状態を考えます。

このパターンは、しばしば見逃されます。「食べられているし、むしろ太ったから、うつではないだろう」と、本人も周囲も判断してしまうためです。

しかし、食欲の増加は、減少と同じく、診断基準に記載された正式な症状です。「よく食べてよく眠っているのに、気分は晴れず、体は鉛のように重い」——これは、決して健康な状態ではありません。

休日は食べられて元気なのに、平日だけ食欲が落ちるという方は、休日は元気なのに平日になると落ち込む——それも「うつ」なのかもお読みください。

気分の波と、食欲の連動

過去に、眠らなくても平気で活動的だった時期や、周囲が驚くほど調子が良かった時期を挟んで、食欲と気分の変化を繰り返している場合。双極性障害の可能性を考える必要があります。

治療の組み立てが大きく変わるため、重要な鑑別点です(双極性障害(躁うつ病)についての解説記事一覧)。


体の病気を、先に外しておく

食欲の変化と体重減少は、心の問題として扱う前に、体の側を確認しておくべき症状の代表です。

甲状腺機能の異常(亢進では食べても痩せる、低下では食欲低下と体重増加)、消化器の疾患糖尿病悪性腫瘍。——いずれも食欲低下と体重減少を来しえます。

とくに、体重減少に加えて、発熱、寝汗、痛み、血便、嚥下のしにくさなどを伴う場合は、体の検査を優先してください。

当院は内科も標榜しており、必要に応じて血液検査などの評価をご案内し、必要と判断すれば適切な診療科へおつなぎします。

胃腸の不調が気分と連動して現れるタイプもあります(自律神経失調症についての解説記事一覧)。


食べないことが、心をさらに悪化させる

食欲低下を軽視できない理由があります。食べられない状態が続くと、それ自体が心の状態をさらに悪化させるからです。

栄養とエネルギーが不足すれば、集中力と判断力が落ち、疲労感が増し、気分はさらに沈む。

「気分が落ちる → 食べられない → エネルギーが枯れる → さらに気分が落ちる」——この循環に入ると、自力での脱出は難しくなります。だからこそ、食欲低下は「そのうち戻るだろう」と様子を見てよい症状ではありません(何もしていないのに疲れる・休んでも回復しない——「心の疲労」の正体)。

脱水は、さらに急速に体をむしばみます。食事が摂れないだけでなく、水分も摂れていない場合は、緊急性が上がります。ふらつき、立ちくらみ、尿量の減少があるなら、早急に受診してください。


今日からできること

「三食きちんと」を、いったん手放す

食べられないときに「ちゃんとした食事を三回」を目指すと、達成できずに自責が増えるだけです。

まず、口に入るものを、入るときに、少しずつ。ゼリー飲料、栄養補助食品、スープ、果物。何でも構いません。栄養バランスは、回復してから考えれば十分です。

段取りを、外注する

買い物・献立・調理という一連の作業が壁になっているなら、その壁を外してください。惣菜、レトルト、宅配、コンビニ。

「手を抜いている」のではありません。実行機能が落ちている時期の、正しい対処です。

水分だけは、意識して確保する

食事が摂れない時期でも、水分は最優先です。手元に飲み物を置き、時刻を決めて口をつけてください。

体重を、週1回だけ記録する

毎日計ると、数字に振り回されます。週に一度、同じ条件で記録するだけで、変化の傾向が客観的な情報になります。診察でも、重要な手がかりです。

「食べられない自分」を責めない

食欲は、意志で作れるものではありません。食べられなかった日を反省の材料にしても、事態は改善せず、自責が心のエネルギーをさらに削るだけです(「甘えているだけでは」と自分を責めてしまう方へ——うつは意志の弱さではない)。


受診の目安

  • 食欲の変化(低下または増加)が2週間以上続いている
  • 1か月で体重が5%以上変化した
  • 食べても味がしない、おいしいと感じられない
  • 気分の落ち込み、楽しめなさ、不眠または過眠、疲労感、自責感を伴っている
  • 食事の準備そのものができず、食事が抜け続けている
  • 水分も十分に摂れていない、ふらつきや立ちくらみがある
  • 体重減少に加え、発熱・痛み・その他の身体症状がある(体の検査を優先)

二つ以上当てはまるなら、受診をご検討ください。とくに水分が摂れていない場合と、急速な体重減少がある場合は、様子を見ずに早めにご相談ください。

そして——つらさが強く、もうもちこたえられないと感じているなら、期間の条件は関係ありません。その日のうちに、ご相談ください。当院は当日のご予約が可能です(045-663-5925/診療時間内)。夜間や休診日など、すぐの受診が難しいときは、厚生労働省「まもろうよ こころ」に、電話やSNSで相談できる公的な窓口がまとめられています。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・通話料無料)は、どんな内容でも受け付けています。

その苦しさを、一人で抱え続けなければならない理由は、ひとつもありません。限界を感じている方は、もう限界だと感じたとき——つらさが振り切れたときの受診の考え方もお読みください。

ご家族が食事を摂れていない様子を心配して読まれている方は家族・パートナーの元気がないとき——かける言葉・避けたい言葉・受診のすすめ方をご覧ください。ご家族だけでのご相談も承っています。


診察では、何をするのか

初診では、食欲の変化の経過と方向(低下か増加か)、体重の推移、味覚や食事の段取りの状態、気分・意欲・睡眠、身体症状をうかがいます。そのうえで、うつ状態なのか、双極性障害なのか、体の病気が関わっていないのかを整理します。必要に応じて、血液検査などで身体面を確認します。

治療は、休養の設計、生活と食事の立て直し、必要に応じた薬物療法、負荷への対処を助けるカウンセリング的アプローチを組み立てます。

仕事の負荷が背景にあるなら、業務調整や休職について、診断書というかたちで医学的な根拠をお出しできます。当院の医師は日本医師会認定産業医の資格を持っており、企業の労務実務をふまえた現実的な調整をご提案できます(適応障害についての解説記事一覧)。

休職の手順や収入面の支えは休職・復職についての解説記事一覧制度・お金についての解説記事一覧を、働きながら会社に知られず通院を続けたい方は働きながら精神科・心療内科に通うには?会社に知られず治療を続けるコツをご覧ください。


よくあるご質問

Q. 食欲がないだけで、他の症状はありません。それでも受診してよいですか。

A. はい。食欲の変化が単独で出ていても、体重が減っているなら評価の対象です。体の病気が隠れている可能性もあり、確認しておく価値があります。

「食欲がないだけ」と判断してよいかどうかを判断するのが、診察の役割です。

Q. 逆に食べすぎてしまいます。ただの過食では。

A. 気分の落ち込みや過眠、体の重さを伴う食欲増加は、うつ状態の症状として現れることがあります。「食べられているから健康」とは限りません。

夕方以降に炭水化物や甘いものへの欲求が強まり、そのあと自己嫌悪に沈むというパターンがあるなら、一度ご相談ください。

Q. 治療で、味覚は戻りますか。

A. うつ状態に伴って「味を快として感じられない」状態が生じている場合、背景の改善とともに戻ってくることが期待できます。ただし、気分の改善より少し遅れることがあります。

なお、味覚そのものの障害(亜鉛欠乏や神経の問題など)が疑われる場合は、体の側の評価も行います。

Q. 平日は仕事があり、通院の時間が取れません。

A. 当院は祝日を除く土曜・日曜も診療しています。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅からも徒歩5分。会社帰りに通える心療内科をお探しの方へもご参考のうえ、WEB予約はこちらから当日予約をご利用ください。


まとめ

食欲の変化は、気分の状態を映す客観的な指標です。減る場合も、増える場合も、どちらも正式な症状として診断基準に記載されています。

食べても味がしないのは、味覚が壊れたのではなく、快を受け取る回路の出力が落ちているためです。

そして食べられない状態は、それ自体が心をさらに悪化させる循環をつくります。三食きちんとを手放し、段取りを外注し、水分だけは確保する。

体重が1か月で5%以上動いたなら、体の検査も含めて、一度確認してください。

横浜・関内エリアで、食欲の変化に困っている方は、みなとメンタルクリニックにご相談ください。土日も診療しています。WEB予約はこちらからどうぞ。


気分の落ち込み・無気力(関連記事)

総合ガイド:気分の落ち込みが続く——「ただの落ち込み」と「受診すべきうつ」の境界線


参考文献

  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). 2022
  • Simmons WK, et al. Depression-related increases and decreases in appetite: dissociable patterns of aberrant activity in reward and interoceptive neurocircuitry. Am J Psychiatry. 2016
  • Adam TC, Epel ES. Stress, eating and the reward system. Physiol Behav. 2007
  • Łojko D, Rybakowski JK. Atypical depression: current perspectives. Neuropsychiatr Dis Treat. 2017
  • 日本うつ病学会「日本うつ病学会診療ガイドライン 大うつ病性障害」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「うつ病」
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」相談窓口一覧

この記事の監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。