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2026/07/06
高齢の親が何もしなくなった・一日中ぼんやりしている——ご家族へ、その変化の見分け方を横浜・関内の精神科医が解説
実家に帰るたびに、少しずつ気になっていた。あんなに世話好きだった母が、庭の手入れをしなくなった。新聞を隅々まで読んでいた父が、テレビの前でぼんやりしている時間が増えた。趣味の集まりにも行かなくなり、身だしなみにも構わなくなってきた。話しかけても、返事が短い。表情も、どこか乏しい。「どこか具合が悪いの?」と聞いても、「別に」と言うだけ——。
「年をとれば、こういうものかもしれない」。そう思おうとしながらも、心のどこかで引っかかっている。その感覚は、大切です。高齢のご家族の「何もしなくなった」「意欲がなくなった」という変化は、単なる加齢ではなく、うつ、認知症、あるいはアパシー(意欲障害)といった、対処できる状態のサインであることが、少なくないからです。このページは、ご家族の立場でこの変化に気づいた方に向けて、横浜・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、その見分け方と対応を解説します。
「年のせい」とは限りません
高齢の方が活動的でなくなると、周囲は「年だから仕方ない」と受け止めがちです。確かに、加齢に伴って活動量が緩やかに減ることはあります。しかし、次のような場合は、加齢だけでは説明しきれない可能性があります。
- ある時期を境に、比較的はっきりと変化した
- それまで好きだった趣味・外出・人づきあいを、まとめてやめてしまった
- 身だしなみや入浴、食事など、日常のことも億劫がる
- 表情が乏しくなり、感情の起伏が減った
- 本人は、その変化をあまり気にしていない様子
とくに最後の点——本人が困っていない、というのは重要な手がかりです。これは、後で述べるアパシーの特徴でもあり、うつや認知症の初期にもみられます。「本人が平気そうだから大丈夫」ではなく、「本人が平気そうだからこそ、周囲が気にかける必要がある」と考えてください。
背景として考えられる3つの状態
高齢の方の「何もしなくなった」の背景には、主に次の3つが考えられます。これらは重なることもあり、見分けには専門的な評価が必要ですが、大まかな特徴を知っておくと、受診の判断に役立ちます。
①高齢者のうつ
高齢の方のうつは、若い世代のうつと少し様子が異なることがあります。「悲しい」「落ち込む」という気分の訴えより、意欲の低下、体の不調(食欲不振・不眠・体の痛み)、物忘れの訴えが前面に出やすいのです。そのため、うつと気づかれずに見過ごされることが少なくありません。高齢者のうつは、適切な治療で改善が期待できる状態ですから、見つけることに意味があります。
②認知症
アパシー(意欲・関心の低下)は、認知症でもっとも多くみられる症状のひとつで、記憶障害より先に現れることもあります。「意欲がなくなった」「無関心になった」という変化が、認知症の初期サインであることは、決して珍しくありません。物忘れが目立たなくても、意欲・関心の低下が続く場合は、認知機能の評価を検討する価値があります。認知症とアパシーの関係は認知症とアパシーでくわしく解説しています。
③アパシー(意欲障害)そのもの、脳血管障害など
脳卒中(とくに小さな脳梗塞のくり返し)やパーキンソン病など、脳の状態に伴って、アパシーが生じることもあります。これらは、意欲を生み出す脳の回路が影響を受けるために起こります。脳卒中後の意欲低下は脳卒中後の意欲低下、パーキンソン病についてはパーキンソン病とアパシーで解説しています。
うつと認知症とアパシー——ご家族が見分けるヒント
専門家でも慎重な判断を要する見分けですが、ご家族が観察するうえでのヒントをお伝えします。あくまで目安であり、確定は受診が必要です。
- 本人が「つらい」と言い、苦しんでいる → うつの可能性。苦痛が前面にある
- 本人は困っておらず、周囲が心配している → アパシーや認知症の可能性。苦痛が乏しい
- 物忘れ・日付や場所の混乱が目立つ → 認知症の評価が必要
- 手の震え・動作の遅さ・歩きにくさを伴う → パーキンソン病など、体の病気の評価が必要
うつとアパシーの詳しい見分けはアパシーとうつ病の違い|見分け方を、意欲障害全体の解説はアパシー(意欲障害)とはをご覧ください。
ご家族にできること・気をつけたいこと
「怠けている」と責めないでください
いちばん大切なことです。意欲を失った本人に対して、「怠けている」「しっかりして」「気の持ちようだ」と叱咤するのは、逆効果になります。アパシーやうつは、意志の力で動けるものではありません。責められることで、本人はさらに動けなくなり、あるいは頑なになってしまうことがあります。変化は「本人のせい」ではなく「対処すべき状態」だと捉えてください。
小さなきっかけを、さりげなく用意する
アパシーの方には、外からの働きかけが助けになることがあります。「一緒に散歩に行かない?」「これ、手伝ってくれる?」と、無理のない範囲で、行動のきっかけをさりげなく差し出す。強制ではなく、誘い水です。できたら「ありがとう」「助かった」と自然に返す。こうした小さな関わりの積み重ねが、意欲の回復を後押しすることがあります。
変化を記録しておく
いつ頃から、どんな変化があったか。物忘れはあるか。体の症状はあるか。これらをメモしておくと、受診の際に大きな助けになります。ご本人はうまく説明できないことが多いため、ご家族の観察が診断の重要な手がかりになります。
本人が受診を渋るときは
アパシーの方は、本人が困っていないため、受診を渋ることがよくあります。無理に説得しようとすると、かえってこじれることも。そんなときは、まずご家族だけで相談に来ていただくのもひとつの方法です。状況を整理し、受診につなげる工夫を一緒に考えられます。「健康診断のついでに」「私が心配だから付き合って」といった形で、ハードルを下げる声かけが有効なこともあります。接し方の詳細はアパシーのセルフチェックと家族の対応もご覧ください。
こんなときは、受診を検討してください
- 意欲・関心の低下が、2週間以上続いている
- 趣味・外出・人づきあいを、まとめてやめてしまった
- 入浴・着替え・食事など、日常のことも億劫がる
- 物忘れや、日付・場所の混乱がある
- 手の震え・動作の遅さ・歩きにくさを伴う
- 表情が乏しくなり、感情の起伏が減った
これらに当てはまるなら、一度、専門家に相談することをおすすめします。早く背景が分かれば、対処できることが多くあります。
よくあるご質問
本人が「どこも悪くない」と言って、受診を嫌がります。
アパシーや認知症の初期では、本人が変化を自覚しにくく、受診を渋ることがよくあります。無理強いは逆効果になりやすいため、まずはご家族だけでご相談ください。受診につなげる声かけの工夫も、一緒に考えられます。
ただの老化と、病気の見分けはつきますか?
ご家族だけで見分けるのは難しいことが多いです。ただ、「ある時期からはっきり変わった」「複数のことをまとめてやめた」「日常のことも億劫がる」といった特徴があれば、単なる老化ではない可能性を考えます。確認のために受診する価値があります。
認知症だったら、もう手遅れでしょうか?
そんなことはありません。認知症も、早く分かれば、進行を緩やかにする対応や、生活の工夫、ご家族の支援体制づくりなど、できることが多くあります。また、認知症に見えて、実は治療で改善するうつだった、というケースもあります。だからこそ、確認することに意味があるのです。
横浜・関内で相談したいとき
みなとメンタルクリニックは、JR関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・みなとみらいエリアで、ご家族の介護や見守りをされている方にも、通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、当日のご予約にも対応しています。当院は認知症の診療にも対応しており、ご本人の受診はもちろん、ご家族だけのご相談も承っています。「これは年のせいなのか、それとも」——その見極めからのご相談で、まったく構いません。ご予約はWEB予約から。受診にあたってのご不明な点はよくある質問もご参照ください。
関連ページ
参考文献・情報源
- Marin RS. Apathy: a neuropsychiatric syndrome. Journal of Neuropsychiatry and Clinical Neurosciences. 1991
- 認知症の行動・心理症状(BPSD)におけるアパシーの位置づけに関する研究(アパシーは認知症で最も高頻度の症状のひとつ)
- Distinguishing apathy from depression: a review. International Journal of Geriatric Psychiatry. 2023
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(高齢者のうつ・認知症に関する記載)
監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)/医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安症・睡眠障害・認知症などを中心に診療しています。詳しくは田邊陽一郎の理事長プロフィールをご覧ください。