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2026/06/17
復帰を考えると眠れない時は?|横浜・関内の精神科医が解説
復職まで、あと3週間。
日中は、それなりに動けています。散歩もできる。本も読める。「もう大丈夫かもしれない」と、昼間は思う。
——ところが、夜になると、別の人格が起き上がってきます。
あの上司の顔。休職前、最後に見た机の上の書類の山。「あいつ、休んだんだって」と噂される自分。戻った初日、みんなの視線。また同じことになったら。今度こそ、居場所がなくなる。
時計を見る。2時40分。
「こんなことで眠れないなら、復職なんて無理じゃないか」——そう思った瞬間、不安がもう一段深くなります。
この記事は、その夜のために書きます。横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。
復職前の不安・不眠でお困りの方へ
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分(桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分)。祝日以外は土日も診療しており、当日予約にも対応しています。日本医師会認定産業医が在籍し、復職の可否判断から職場との調整まで対応します。眠れないまま復職しないでください。
▶ WEB予約はこちら(当日予約可)/詳しくは産業医・休職・復職のご相談ページをご覧ください。
まず——その不眠は、異常ではありません
最初に、これを受け取ってください。
復職前に眠れなくなるのは、ごく自然な反応です。
あなたは、一度そこで倒れた場所に、戻ろうとしています。脳が警戒するのは、当然のことです。
怪我をした場所を、体が覚えている。危険を察知した扁桃体が、警報を鳴らす。不安の総論の記事で書いたとおり、これは故障ではなく、正常な防衛反応です。
だから、まず「眠れない自分はダメだ」という判定を、取り下げてください。その判定こそが、不安を二重にしています。
ただし——「様子を見ましょう」とは言いません
正常な反応だと書きました。けれど、放っておいていい、とは言いません。
理由は明確です。
眠れないまま復職すると、再発リスクが跳ね上がる
復職のタイミングの記事で書いたとおり、睡眠のリズムが安定していることは、復職の第一関門です。
そして、不眠とうつ病は互いを強め合う回路を作ります。
眠れない → 日中の集中力が落ちる → ミスが増える → 自信を失う → さらに眠れない
——この回路が、復職直後に回り始めると、数週間で崩れます。
だから、こう言います。眠れないまま、復職しないでください。
不眠は「症状」であると同時に「情報」です
ここが、この記事でいちばん大切な部分です。
復職前の不眠を、単なる「困った症状」として、薬で消そうとするのは、もったいない。
なぜなら——その不眠は、あなたの脳が発している、極めて重要なメッセージだからです。
夜、あなたを眠らせない考えの中身。それを分解すると、復職に向けて何を準備すべきかが、そのまま見えてきます。
不安の中身を、分解しましょう
診察で、私は必ずこう聞きます。「眠れないとき、頭の中に何が浮かんでいますか」
ほとんどの方は、最初「なんとなく不安で」と答えます。けれど、掘っていくと、不安には必ず具体的な中身があります。
そして、その中身によって、打つべき手が変わります。
タイプ①:「また同じことになるのでは」
最も多い不安です。
そして——この不安は、極めて正当です。
正直に書きます。環境が何も変わっていなければ、また同じことになります。これは、脅しではなく、論理的な帰結です。
とくに適応障害は、特定の環境への反応として起こる病気です。同じ環境に、同じ働き方で戻れば、同じ反応が起こる。あなたの脳は、それを正確に予測しているのです。
だから、この不安への対処は「安心させること」ではありません。「環境を変えること」です。
- 業務量は、調整されるのか
- 残業は、禁止されるのか
- あの上司の下に、戻るのか
- 配置転換は、検討されたのか
これらが未解決のまま復職日が近づいているなら、眠れなくて当然です。そして、その状態で復職してはいけません。
環境調整は、主治医の意見書を通じて、職場に正式に依頼できます。当院には日本医師会認定産業医の資格を持つ医師が在籍しており、職場との調整に対応しています(産業医・職場連携の記事)。
不安を消すのではなく、不安の根拠を消す。これが、正しい順序です。
タイプ②:「周りに、どう思われているか」
「休んだ人」として見られる。噂されている。腫れ物に触るように扱われる。あるいは、あからさまに冷たくされる。
——この不安も、根拠がないわけではありません。
ただ、ここで押さえておきたいことがあります。あなたが想像している「周囲の視線」は、実際よりかなり厳しい可能性が高い。
うつ病では、思考が自責と悲観に偏ります。症状の記事で書いたとおり、これは病気が見せている思考です。
そして、人は、あなたが思うほど他人に関心を持っていません。あなたの復職を、あなたほど深刻に考えている人は、職場には一人もいません。
とはいえ、初日の気まずさは現実に存在します。だから、対策を立てます。
- 誰に、何を、どこまで話すか
- 「大丈夫?」と聞かれたら、何と答えるか
- 「ご迷惑をおかけしました」の一言を、あらかじめ用意しておく
台本があるだけで、初日の恐怖は、かなり小さくなります。これは、診察で一緒に作れます。
タイプ③:「以前のように、働けるだろうか」
集中力が戻っていない。頭に霧がかかっている。以前は10分でできたことに、1時間かかる。
この不安は、正しい自己認識です。そして、正しいからこそ、対処が明確です。
以前のように働かなくていいのです。
復職とは、「元の自分に戻ること」ではありません。段階的に、慣らしていくことです。
- 半日勤務から始める
- 残業は、しない(させない)
- 負荷の高い案件から、外れる
これらを復職の条件として、事前に職場と合意しておく。そうすれば、「以前のように働けない自分」を責める必要がなくなります。
タイプ④:「そもそも、戻りたくない」
この不安が浮かんでいるなら、それは最も重要な情報です。
眠れない理由が、「不安」ではなく「拒否」なのかもしれない。
体は、もっと正直です。復職日が近づくにつれて、動悸がする。吐き気がする。朝、起きられなくなる。——これは、体が「戻りたくない」と言っているサインです。
その場合、選択肢は2つです。
- 環境を変えて、戻る(配置転換、業務内容の変更)
- 戻らない(転職、退職)
ただし——2番目の決断を、いま下さないでください。
「辞めたい」しか考えられなくなっている状態は、視野が極端に狭くなっています。まず、1番目を検討してください。それを試したうえで、それでもダメなら、そのときに考えればいい。
眠れない夜の、具体的な対処
不安の根拠に手を打つのが本筋ですが、今夜、眠るための対処も書いておきます。
① 頭の中身を、紙に移す
いちばん効きます。
布団に入る30分〜1時間前に、紙とペンを用意して、不安の中身を全部書き出す。
- 何が怖いのか
- 具体的に、どうなるのが怖いのか
- それに対して、何ができるか(できないことは、書かなくていい)
脳が夜に考え事を始めるのは、「忘れてはいけない」と抱え込んでいるからです。紙に移せば、脳は抱える必要がなくなります。
そして、その紙を、次の診察に持ってきてください。それが、環境調整の設計図になります。
② 「復職について考える時間」を、日中に確保する
不安を追い払おうとすると、かえって強まります。だから、時間を与える。
夕方に15分、「復職について考える時間」を設けて、そこで存分に考える。夜、考えが浮かんできたら、「それは明日の15分で考える」と先送りする。
③ 20分眠れなければ、布団を出る
眠れないまま布団で粘ると、「布団=眠れずに苦しむ場所」という学習が強まります。
眠くならないなら、いったん布団を出て、暗めの照明で静かに過ごし、眠気が来たら戻る(寝つきが悪い方の記事)。
④ 時計を見ない
「あと4時間しか眠れない」——この計算が、新しい不安を生みます。
⑤ 夜明け前の思考を、信用しない
深夜と明け方に浮かぶ考えは、必ず暗いほうへ流れます。
同じ問題でも、昼に考えれば「対処できる課題」に見えるものが、夜には「破滅の予兆」に見える。
夜中の思考は、あなたの本当の判断ではありません。この時間に、復職の可否という重大な結論を出さないでください。
⑥ 生活の土台
起床時刻を一定にする。朝、光を浴びる。カフェインは昼まで。寝酒はやめる(生活習慣で眠りを整える方法)。
これは、復職準備そのものでもあります。出勤時刻に起きられる体を作ることが、そのまま復職の条件だからです。
薬について
眠れない状態が続いているなら、薬で眠りの底を支えることも、選択肢です。
「復職前に薬を増やすなんて」とためらう方がいますが、逆です。眠れないまま復職して再発するほうが、はるかに大きな損失です。
現在は、メラトニンやオレキシンに働く、依存性の低い睡眠薬があります。睡眠薬の記事一覧もご覧ください。
当院は、向精神薬の多剤投与・大量投与・長期処方を可能な限り控える方針です。処方する際は、「いつまで使うか」「どうやめるか」まで設計してから始めます。
復職日を、延ばす勇気
最後に、これを書いておきます。
眠れない状態が続いているなら、復職日を延ばすことも、正しい選択です。
「もう診断書の期限も切れるし」「会社にこれ以上迷惑をかけられない」——その焦りは、わかります。
けれど、焦って戻って再休職になるのが、いちばん遠回りです。そして、2回目の休職は、1回目より長引きます。
診断書の延長は、可能です。「まだ復職には早い」と、主治医が医学的に判断すれば、それを職場に伝えられます。
あなたが「もう少し待ってください」と言うのではなく、医師が「まだ早い」と言う。——この違いは、決定的です。
受診の目安
- 復職を考えると、不安で眠れない
- 復職日が近づくと、動悸や吐き気が出る
- 日中は動けるのに、夜になると不安に襲われる
- 戻る職場が、休職前と何も変わっていない
- 「そもそも戻りたくない」と思っている
- 会社から「早く戻ってこい」と言われて、板挟みになっている
その不眠は、放置せず、診察に持ってきてください。不安の中身を分解すれば、打つべき手が見えてきます。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区・関内を中心に、馬車道・桜木町・みなとみらいエリアからもお越しいただけます。祝日以外は毎日診療しており、当日のご予約にも対応しています(枠の状況によります)。女性医師も在籍しています。
よくある質問
復職前に眠れないのは、まだ治っていないということですか?
必ずしも、そうではありません。復職という具体的なストレスに対する、正常な反応である場合も多い。ただし、眠れない状態が続くなら、その中身を分解する必要があります。「治っていない」のか「環境が未解決」なのか——ここは、まったく違う話です。
「不安なだけ」と言われて、取り合ってもらえません。
その不安には、根拠があるかもしれません。とくに「環境が何も変わっていない」なら、不安は正当です。診察で、不安の中身を具体的に話してください。「なんとなく不安」ではなく、「あの上司の下に戻るのが怖い」と。具体的になれば、対処できます。
復職日を延ばしたいのですが、言い出せません。
あなたが言う必要はありません。医学的に「まだ早い」と判断されれば、主治医が診断書でそれを伝えます。診察で、いまの状態を正直に話してください。
眠れないまま、とりあえず復職してみるのはダメですか?
おすすめしません。眠れないまま復職すると、日中の集中力が落ち、ミスが増え、自信を失い、さらに眠れなくなる——この回路が数週間で回り始めます。そして、再休職になる。2回目の休職は、1回目より長引きます。
睡眠薬を使うと、復職に影響しませんか?
眠気の持ち越しがある薬は、仕事に影響することがあります。だから、薬の選び方が重要です。依存性が低く、翌日に残りにくいタイプを選びます。「復職後も運転がある」「集中力が要る仕事だ」——そうした事情は、診察で必ず伝えてください。それに合わせて薬を選びます。
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参考文献・情報源
- 厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」
- 厚生労働省|こころの耳「職場復帰支援」
この記事の監修者
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。