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2026/06/08
うつ病の治療|薬物療法 各論——抗うつ薬の種類と特徴を精神科医が解説
「新しい薬に変えましょう」と言われたとき、あるいは初めての処方箋を受け取ったとき——薬の名前を検索した経験は、たぶん多くの方にあると思います。そして検索結果を前に、かえって不安になった経験も。
抗うつ薬には、いくつかの系統があります。系統ごとに、効き方の得意分野と、副作用の出やすいポイントが違います。この地図を持っているかどうかで、「なぜ自分にはこの薬なのか」「変更の提案は何を狙っているのか」の見え方がまるで変わります。
この記事では、抗うつ薬の主な系統と、それぞれの特徴を、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。効くまでの期間・続け方・やめ方といった共通のルールは薬物療法 総論で書いたので、まだの方はそちらを先にどうぞ。ここからは、各論——薬そのものの話です。
地図の全体——現在の主役と、脇を固める薬たち
現在のうつ病治療で最初に選ばれることが多いのは、SSRI・SNRI・NaSSAと呼ばれる比較的新しい世代の薬です。それより古くからある三環系・四環系は、切れ味がある一方で副作用も出やすく、いまは出番を選ぶ薬になりました。ほかに、独自の働き方をする薬がいくつかあります。
どの系統も、うつ病とは?の総論で触れた神経伝達物質——セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど——のバランスに働きかける点は共通です。違うのは、どの伝達物質を、どんなやり方で増やすか。この違いが、そのまま個性になります。
SSRI——不安が絡むうつに強い、現在の第一選択
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンに的を絞って働く薬です。日本ではフルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)が使われています。
「選択的」という名前のとおり、狙い以外の場所への影響が少なく設計されているため、古い世代の薬に比べて副作用の負担が軽いのが持ち味です。落ち込みに加えて不安が強いタイプのうつ病に力を発揮し、不安症やパニック障害、強迫性障害の治療でも中心に立つ薬です。飲み始めの吐き気・むかつきが出やすいこと、やめるときにゆっくり減らす必要があることは、総論で書いたとおりです。4剤それぞれの個性は、次のSSRIの各論記事で一つずつ解説します。
SNRI——意欲の低下や、痛みを伴ううつに
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、セロトニンに加えてノルアドレナリンにも働きます。ノルアドレナリンは意欲や活力に関わる伝達物質なので、気力が出ない・体が動かないという側面が目立つうつ病で選ばれやすい系統です。日本ではミルナシプラン(トレドミン)、デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)が使われています。
デュロキセチンは痛みをやわらげる効果も確認されていて、頭痛や肩こり、体の痛みを伴ううつ病でよい適応になることがあります。症状の記事で書いたとおり、うつ病は体の症状として現れることが多い病気なので、この特性は実際の外来でよく生きます。一方、ノルアドレナリンに働くぶん、血圧や動悸、排尿への影響に気を配る必要があります。
NaSSA——眠れない・食べられないうつに
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)は、再取り込みを邪魔するのではなく、伝達物質の放出そのものを増やすという別ルートの薬です。日本ではミルタザピン(リフレックス、レメロン)がこれにあたります。
特徴は、眠気と食欲増進が「副作用」であると同時に「効果」にもなりうること。眠れない・食べられない・体重が落ちたというタイプのうつ病では、この性質が追い風になります。逆に、日中の眠気や体重増加が困る方には向かない場合もある——性質は同じでも、その人の症状次第で追い風にも向かい風にもなる、薬選びの面白さと難しさが凝縮された薬です。
三環系・四環系——古いが、消えない理由がある
1950年代から使われてきた最古参の系統です。アミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)、ミアンセリン(テトラミド)などがあります。効果の force は確かで、新しい薬で十分な手応えが得られないケースでいまも出番があります。
ただし、口の渇き、便秘、眠気、立ちくらみといった副作用が新しい世代より出やすく、高齢の方では特に慎重に使います。第一選択ではなくなったけれど、引き出しから消えることもない——そういう位置の薬たちです。
その他の薬——独自路線の選択肢
- ボルチオキセチン(トリンテリックス):セロトニンへの働きに加えて複数の受容体を調整する、比較的新しい薬です。思考力や集中力といった認知面の症状への効果が注目されています。
- トラゾドン(レスリン、デジレル):抗うつ薬に分類されますが、眠りを深くする性質を生かして、不眠が強い方の睡眠の立て直しに使われることが多い薬です。睡眠薬とどう違うのかは睡眠薬の記事一覧もあわせてどうぞ。
- スルピリド(ドグマチール):少量では胃薬・食欲面、といった具合に量によって顔が変わる薬で、食欲低下を伴う軽いうつ状態で使われることがあります。
どうやって選んでいるのか——診察室の中の考え方
系統の地図を見せたところで、実際の選び方をお話しします。私たちが見ているのは、おおまかに次のポイントです。
- 症状の形:不安が強いのか、意欲が出ないのか、眠れない・食べられないが主役なのか。症状の形と薬の得意分野を合わせます。
- 体の側の事情:年齢、持病、ほかに飲んでいる薬、痛みの有無。
- 生活の側の事情:車を運転する仕事か、日中の眠気がどれくらい致命的か、体重の変化をどこまで許容できるか。
- 過去の治療歴:以前効いた薬・合わなかった薬の情報は、何よりの手がかりです。お薬手帳を持ってきてください。
そして総論で書いた原則——少なく始めて、ゆっくり上げて、できるだけ一種類で——を守りながら評価していきます。最初の薬が最適解とは限りません。2〜4週間試して手応えが乏しければ、量の調整や薬の変更を検討する。この試行錯誤は失敗ではなく、あなたに合う薬を絞り込んでいく正規の手順です。
なお、抗うつ薬でそわそわする・気分が不安定になるという反応が出たときは、間違われやすい病気の記事で書いた双極性障害が隠れていないか、見立てから再点検します。双極性障害では治療の柱が気分安定薬に変わるからです。
薬の話を、一人で抱えないでほしい
系統の全体像を紹介してきましたが、この地図はあくまで、診察室での会話のための共通言語です。「ネットで調べてこの薬が良さそうだと思った」という持ち込みも歓迎します。そこから、あなたの症状の形とその薬の得意分野が合っているかを一緒に検討すればいいのです。
副作用が出たとき、効いている実感がないとき、薬を減らしたくなったとき——自己判断で動く前に、まず聞かせてください。休養と精神療法という土台、休職・復職という環境調整と組み合わせながら、薬の役割を最適な大きさに保つのが主治医の仕事です。通院費用が心配な方は、自己負担が原則1割になる自立支援医療をご利用ください。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区を中心に、みなとみらいエリアからも通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、WEB予約は当日予約にも対応しています。初めての方は当日予約と初診の流れのご案内をご覧ください。
よくある質問
いちばん強い抗うつ薬はどれですか?
「最強の薬」というランキングは存在しません。あるのは「あなたの症状の形に合う薬」だけです。不安が強い人にはSSRIが、意欲低下が主役の人にはSNRIが、眠れない・食べられない人にはNaSSAが、それぞれ「強い薬」として働きます。合わない薬は、どんなに評判が良くても弱い薬です。
ジェネリックでも効果は同じですか?
ジェネリック(後発医薬品)は、先発品と同じ有効成分を含み、効果や安全性が確認されたお薬です。費用を抑えられる利点があります。当院では後発品のあるお薬について、ご説明のうえ一般名で処方する場合があります。気になることは診察や薬局でお尋ねください。
薬を変えるとき、また一からやり直しですか?
やり直しではありません。前の薬への反応——何が効いて、何がつらかったか——が、次の薬を絞り込む情報になります。切り替えの際も、急にゼロにするのではなく、重ねながら入れ替えるなど、症状が穴に落ちないよう手順を設計します。
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監修:田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。