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2026/06/09

抗うつ薬各論 S-RIM(ボルチオキセチン/トリンテリックス)とは?作用・効果・副作用を横浜・関内の精神科医が解説

「気分は前より持ち直した気がします。でも、頭が戻らないんです。資料を読んでも入ってこないし、会議で言葉が出てこない」——うつ病の回復途中で、こう訴える方は少なくありません。気分と、頭の働き。この2つの回復は、必ずしも足並みが揃わないのです。

この「頭の働き」——集中力、思考のスピード、言葉の出やすさ——への効果が注目されて登場したのが、S-RIMという新しい分類の抗うつ薬、ボルチオキセチン(トリンテリックス)です。日本では2019年に登場した、抗うつ薬の中では最も新しい顔ぶれの一つです。

この記事では、ボルチオキセチンの仕組みと得意分野、副作用を、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。抗うつ薬全体の地図は薬物療法 各論(種類と特徴の総覧)、共通ルールは薬物療法 総論、これまでのSSRISNRINaSSAの各論とあわせてどうぞ。

S-RIMとは——「回収を塞ぐ」に「受け皿の調整」を重ねた薬

S-RIMは「セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬」の略です。名前に2つの仕事が入っています。

1つ目の仕事は、SSRIと同じ再取り込み阻害。放出されたセロトニンの回収口を塞いで、長く働けるようにします。ここまでなら「5番目のSSRI」です。

2つ目の仕事が、この薬の個性です。セロトニンには、受け取る側にいくつもの種類の受け皿(受容体)があり、それぞれ役割が違います。ボルチオキセチンは、この受け皿のうち特定のいくつかに対して、あるものは刺激し、あるものはブロックする——という細かい調整を同時に行います。ミキサーのつまみを1本だけ上げるのがSSRIだとすれば、複数のつまみを別々の方向に微調整するのがS-RIM。この調整の結果、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、グルタミン酸といった、記憶や思考に関わる伝達物質のバランスにも間接的に手が届くと考えられています。

得意分野——「認知機能」への効果が注目された抗うつ薬

この幅広い調整の産物として注目されているのが、認知機能——集中力・記憶・思考のスピード・判断——への効果です。うつ病では、ミスが増える・集中できない・頭に霧がかかったようになるという症状がほぼ必発で、しかも気分が回復したあとまで残りやすい。仕事への復帰を考えるうえで、実はこの「残る霧」が最後の壁になることが多いのです。

ボルチオキセチンは、気分への効果に加えて、この認知面の症状への効果が研究で報告されている点で独特の立ち位置にあります。復職を見据えた治療の後半戦や、デスクワークで頭の切れが生命線という方の治療で、候補に挙がりやすい薬です。

もう一つの持ち味が、副作用の全体的な軽さです。眠気が少なく、体重への影響が小さく、性機能への影響もSSRIより出にくいとされます。ミルタザピンの眠気・体重増加が向かい風になる方、SSRIの副作用で続けられなかった方の乗り換え先としても検討される薬です。

注意点——新しい薬なりの弱点もある

  • 吐き気:いちばん多い副作用です。とくに飲み始めと増量時に出やすく、多くは数日〜2週間で軽くなります。SSRIと同じく、「効果より先に副作用が来る時期がある」と知っておくと脱落を防げます。
  • 効果の立ち上がり:ほかの抗うつ薬と同様、2〜4週間の単位で見ます。総論で書いた「畑に水を撒いてから芽が出るまで」の話は、この薬でも同じです。
  • 飲み合わせ:ほかのセロトニンに働く薬(抗うつ薬同士、一部の鎮痛薬や片頭痛の薬など)との重複には注意が必要です。お薬手帳で必ず共有してください。
  • 費用:新しい薬なので、この記事の時点でジェネリックがなく、古い薬より薬価が高めです。ただし自立支援医療を使えば自己負担は原則1割になるので、費用を理由に選択肢から外す前に、まず制度をご確認ください。

やめるときの中断症候群は比較的出にくいとされていますが、それでも自己判断の急な中断は避けて、段階的に減らす原則は守ってください。また、これまでの各論でくり返してきたとおり、飲み始めてそわそわが強い・気分がむしろ不安定という場合は、間違われやすい病気の記事で書いた双極性障害の再点検をします。

どういう人に選ばれやすいか——診察室での位置づけ

整理すると、ボルチオキセチンが候補の上位に来やすいのは、こんな場面です。

  • 気分は持ち直してきたのに、集中力・思考の霧が抜けず、復職の壁になっている
  • 頭脳労働が中心で、認知面への影響を最小限にしたい
  • SSRIやSNRIを副作用(眠気・体重・性機能)で続けられなかった
  • 眠気を出したくない、体重を増やしたくないという生活上の事情がある

逆に、ミルタザピンの記事で書いた「眠れない・食べられない・痩せてきた」タイプでは、眠りと食欲を直接支える薬のほうが早道のこともあります。薬の優劣ではなく、症状の形との相性。各論を通じてくり返してきた原則が、最新の薬でもそのまま生きています。

みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区を中心に、みなとみらいエリアからも通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、WEB予約は当日予約にも対応しています。初めての方は当日予約と初診の流れのご案内をご覧ください。

よくある質問

いちばん新しい薬なら、いちばん良い薬なのですか?

新しさと優秀さは別です。ボルチオキセチンには認知機能への効果や副作用の軽さという持ち味がありますが、眠りと食欲を直接支える力ではミルタザピンに、痛みへの効果ではデュロキセチンに、それぞれ分があります。最新の薬は選択肢が一つ増えたということであって、これまでの薬が古くなったということではありません。

頭の働きが戻らないのは、薬の副作用ではないのですか?

その可能性の確認も大事です。眠気の強い薬の影響で頭が重いのか、うつ病の症状として認知機能が落ちているのか——原因によって打ち手が逆になります。診察で、いま飲んでいる薬と症状の時間関係を一緒に整理しましょう。ご自身で判断して薬を止めるのだけは避けてください。

物忘れがひどいのですが、認知症ではないかと心配です。

うつ病による認知機能の低下は、高齢の方では認知症と間違われるほど目立つことがあります(間違われやすい病気の記事で書いた仮性認知症です)。うつ病の治療で戻る性質のものなので、自己判断であきらめる前に、一度評価を受けてください。


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監修:田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。

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