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2026/06/10
抗うつ薬 各論|四環系抗うつ薬の特徴を精神科医がやさしく解説
「新しい薬の話ばかり聞くけれど、昔からある薬はもう使われていないんですか」——薬の説明をしていると、ときどき聞かれます。答えは、使われています。ただし、出番の選び方が昔とは変わりました。
今回取り上げる四環系抗うつ薬は、1980年代に登場した世代の薬です。SSRIより古く、三環系より新しい。処方の主役ではなくなりましたが、いまも消えずに残っているのには、この世代なりの持ち味があるからです。
この記事では、四環系抗うつ薬の仕組みと現在の立ち位置を、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が解説します。抗うつ薬全体の地図は薬物療法 各論(種類と特徴の総覧)、共通ルールは薬物療法 総論を先にどうぞ。これまでのSSRI・SNRI・NaSSA・S-RIMの各論も並べて読むと、世代の流れが立体的に見えるはずです。
四環系とは——三環系の副作用を軽くしようとした世代
名前の由来は単純で、薬の化学構造に環(リング)が4つあるから四環系です。ひとつ前の世代の三環系(環が3つ)は、効果の切れ味は確かなものの、口の渇き・便秘・眠気・立ちくらみといった副作用も強く出ました。その反省から、「効果を保ちつつ、副作用を軽く」を狙って設計されたのが四環系の世代です。
日本で使われてきた主な薬は、ミアンセリン(テトラミド)、セチプチリン(テシプール)、マプロチリン(ルジオミール)です。働き方は薬ごとに少しずつ違いますが、おおむねノルアドレナリン側に重心を置いてバランスを整える設計で、狙いどおり、三環系より副作用は全体に軽くなりました。ただ、効果の力強さの面では三環系に一歩譲る——というのが、この世代のおおまかな採点です。
現在の主な出番——「眠りを助ける」名脇役
では、SSRIやSNRIが主役の現在、四環系はどこで働いているのか。いちばん多い出番は、眠りの立て直しです。
四環系——とくにミアンセリンとセチプチリンは、眠気を誘う性質がはっきりしています。この性質を生かして、夜に少量を使い、うつ病や不安に伴う不眠を支える使い方が定着しています。ミルタザピンの記事で「副作用が効果に回る」という話を書きましたが、実はミルタザピンはミアンセリンを土台に改良された薬で、この「眠りを助ける抗うつ薬」という発想の源流が四環系にあります。いわば親子関係です。
睡眠薬とは違うルートで眠りを支えられるため、睡眠薬を増やしたくない場面、不眠が長引いてこじれている場面で、選択肢としての価値があります。また、高齢の方の不眠やせん妄予防の文脈で、ほかの薬より使いやすい場面があることも、臨床では知られています。
注意点——「軽くなった」とはいえ、この世代なりの癖はある
- 眠気の持ち越し:眠りを助ける性質の裏返しで、翌日の日中に眠気やだるさが残ることがあります。車の運転をする方では特に注意します。
- 口の渇き・便秘・立ちくらみ:三環系より軽いとはいえ、ゼロではありません。高齢の方では転倒につながるふらつきに気を配ります。
- マプロチリンの注意:けいれんの既往がある方では慎重に使う薬とされています。既往歴は必ず教えてください。
- やめるときは段階的に:総論で書いた原則はこの世代でも同じです。
また、うつ病の治療の主軸としては、効果の面で現在の第一選択はSSRI・SNRIなどの新しい世代です。四環系「だけ」で中等症以上のうつ病を治しきる設計は、いまではあまり取りません。主役を張る薬ではなく、眠りという弱点を的確に埋める脇役——その割り切りが、この世代を今も現役にしています。
診察室での位置づけ——どういうときに候補になるか
- SSRIやSNRIで気分は支えられているが、不眠だけが残っている
- 睡眠薬を増やす・続けることに不安があり、別ルートで眠りを支えたい
- 高齢の方で、強い薬を避けながら眠りと気分を穏やかに支えたい
逆に、意欲低下が主役ならSNRI、認知面の霧が課題ならS-RIM、眠りと食欲の両方が崩れているならNaSSA——と、症状の形ごとに適材が変わるのは、各論を通じて書いてきたとおりです。どの世代の薬にも、その薬でなければ埋まらない場所がある。四環系の場所は「眠り」です。
費用面では、四環系はいずれも古くからある薬で、ジェネリックも含めて薬価は安く済みます。通院費用が心配な方は、自己負担が原則1割になる自立支援医療をご利用ください。
みなとメンタルクリニックは関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分。横浜市中区を中心に、みなとみらいエリアからも通いやすい場所にあります。祝日以外は土日も診療しており、WEB予約は当日予約にも対応しています。初めての方は当日予約と初診の流れのご案内をご覧ください。
よくある質問
古い薬を出されるのは、手を抜かれているのでしょうか?
逆です。あなたの症状の形——たとえば「不眠が最大の敵」という形——に対して、古い世代の持ち味がいちばん合うと判断した、という積極的な選択です。新しい薬ほど良い薬、という単純な序列は抗うつ薬には存在しません。
眠るための薬なら、睡眠薬でいいのでは?
役割が少し違います。睡眠薬は眠りそのものを直接助ける薬、四環系は抗うつ薬として気分を支えながら眠りにも働く薬です。うつ病や不安が背景にある不眠では、背景ごと支えられる後者が合理的な場面があります。どちらを使うかは、不眠の原因と全体の治療設計で決めます。抗不安薬と睡眠薬の違いの記事も参考になるはずです。
四環系で日中の眠気が残ります。
飲む時間を早める、量を調整する、といった手で改善することが多い症状です。それでも残るなら薬の変更を検討します。自己判断で急にやめず、まず診察で相談してください。
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監修:田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医・難病指定医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。