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2026/06/24
過敏性腸症候群(IBS)とは?ストレスと下痢・便秘・腹痛の原因と治療を横浜・関内の精神科医が解説
「大事な会議や試験の前になると、決まってお腹が痛くなる」「通勤電車の中で急に下痢に襲われ、途中下車してしまう」「便秘と下痢をくり返す」「何度検査をしても異常がないのに、お腹の不調だけがずっと続く」——このようなお腹のつらさを抱えて、長いあいだ困ってこられたのではないでしょうか。
その症状は、気のせいでも、あなたの心が弱いからでもありません。過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。IBSは、検査をしても腸に目立った異常が見つからないのに、腹痛や便通の異常(下痢・便秘)が続く、れっきとした体の病気です。多くの方が、つらさを誰にも分かってもらえず、ひとりで抱え込んでいます。けれど、IBSは正しく対応していくことで、楽になっていける病気です。
このページでは、IBSとはどんな病気か、症状とタイプ、なぜ起こるのか(脳と腸のしくみ)、似た病気との見分け、そして治療について、横浜市中区・関内のみなとメンタルクリニックの精神科医が、ガイドラインをふまえて、できるだけ分かりやすく解説します。ストレスが体に出る心身症全般については、心身症とは?もあわせてご覧ください。
過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)とは、腹痛と、便通の異常(下痢や便秘)が慢性的に続くのに、検査をしても腸に炎症や腫瘍などの明らかな異常が見つからない病気です。命に関わる病気ではありませんが、毎日の生活への影響がとても大きく、生活の質(QOL)を大きく損なうことが知られています。
IBSは、決してめずらしい病気ではありません。日本を含む先進国では、人口のおよそ1割前後にみられるとされ、あなたが思っている以上に、同じ悩みを抱えている方はたくさんいます。とくに20〜40代の働く世代や、学生の方に多くみられます。まじめで責任感が強い方、人に気をつかう方、緊張しやすい方に起こりやすい傾向があり、「しっかりしなければ」とがんばってきた方ほど、お腹に出てしまうことがあります。
大切なのは、IBSは「異常がない」のではなく、「検査では見えにくいけれど、確かに存在する不調」だということです。あなたが感じているつらさは、本物です。
IBSの症状とタイプ
IBSの中心となる症状は、お腹の痛みや不快感と、便通の異常です。多くの場合、排便によって症状がいったん和らぐ、という特徴があります。便の状態によって、大きく4つのタイプに分けられ、人によって出方が異なります。
- 下痢型:急にお腹が痛くなり、下痢をくり返します。通勤・通学の途中や、会議・試験の前など、緊張する場面で起こりやすいのが特徴です
- 便秘型:お腹が張って苦しく、便が出にくくなります。コロコロした硬い便になりやすく、すっきりしません
- 混合型:下痢と便秘を、日や時期によって交互にくり返します
- 分類不能型:上のどれにもはっきり当てはまらないタイプです
このほかにも、お腹の張り(膨満感)、ガスがたまる、おならが気になる、出してもすっきりしない残便感など、さまざまな症状を伴うことがあります。これらの症状が組み合わさって、毎日の生活を地味に、しかし確実につらくしていきます。
こんな場面で、困っていませんか
IBSの本当のつらさは、症状そのものだけでなく、「いつ症状が出るか分からない」という不安が、生活のあらゆる場面に影を落とすことにあります。こんな経験に、心当たりはないでしょうか。
- 満員電車に乗ると、急にお腹が痛くなり、次の駅で降りられるかどうか、そればかり考えてしまう
- 会議や面接、発表の前になると、必ずと言っていいほどお腹を下す
- 映画館や新幹線、高速道路など、すぐにトイレに行けない場所が怖い
- 外出のたびに、トイレの場所を真っ先に確認してしまう
- 友人との約束や旅行、デートを、お腹の不安から避けるようになった
- 「またお腹が痛くなったらどうしよう」と考えると、それだけで本当に痛くなってくる
- 内科で「異常なし」「ストレスですね」と言われ、それ以上どうしていいか分からない
とくに、「また症状が出たらどうしよう」という心配(予期不安)が強くなると、その不安自体が腸を刺激して、本当に症状を引き起こしてしまう——IBSには、こうした悪循環が起こりやすい特徴があります。行動範囲がだんだん狭くなり、「自分は普通のことができない」と自分を責めてしまう方も少なくありません。でも、それはあなたの努力が足りないからではなく、これからお話しする、体のしくみによるものです。
なぜIBSが起こるのか|脳と腸のつながり(脳腸相関)
IBSの原因は一つではありませんが、その中心にあると考えられているのが、「脳腸相関(のうちょうそうかん)」というしくみです。脳と腸は、自律神経やホルモンを通じて、たがいに密接に連絡を取り合っています。「緊張するとお腹が痛くなる」「不安だとトイレが近くなる」というのは、誰しも経験のあることですが、これはまさに、脳が感じたストレスが腸の働きに直接伝わるためです。IBSの方では、このつながりが、より敏感になっていると考えられています。
ストレスがお腹に伝わる道すじ(CRHというホルモン)
もう少しくわしく見てみましょう。私たちがストレスを感じると、その情報が脳の視床下部(ししょうかぶ)に伝わり、そこからCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)という、ストレスに反応するホルモンが出ます。このCRHが引き金となって、自律神経を介して腸に「警報」が伝わり、腸の動きが乱れたり、過敏になったりします。これが、ストレスを感じると下痢や腹痛が起こる、最初の道すじです。IBSの方は、このCRHに対する腸の反応が、人より強く出やすいことが分かっています。
カギを握る「セロトニン」と、腸の受容体
ここで重要な役割を果たすのが、セロトニンという物質です。セロトニンは「幸せホルモン」として脳の物質というイメージがありますが、実は体内のセロトニンの大部分は、脳ではなく腸に存在しています。腸の壁にある特別な細胞(EC細胞)が、刺激を受けるとセロトニンを放出します。
放出されたセロトニンは、腸の神経にある「5-HT3受容体」という”受け皿”に結合します。すると2つのことが起こります。ひとつは、腸の蠕動運動(ぜんどう、便を送り出す動き)が活発になり、水分の分泌が増えて、下痢を引き起こすこと。もうひとつは、その刺激が痛みの信号として脳に伝わり、腹痛として感じられることです。IBSの下痢型では、このセロトニンの働きが過剰になっていると考えられています。
痛みを強く感じてしまう「内臓知覚過敏」
さらにIBSの方では、腸が刺激を感じ取る感度そのものが高くなっています(内臓知覚過敏)。健康な方なら気づかないようなわずかな腸の動きやガスでも、脳に「痛い」という信号が強く届いてしまうのです。これは、腸から脳へ痛みを伝える経路(大腸痛覚系)が過敏になっているためで、「大げさだ」と言われがちなあなたの痛みが、実際にはっきりと存在する理由が、ここにあります。
感染・腸内細菌・体質などの重なり
このほか、食あたりなどの感染性腸炎のあとにIBSを発症することがあること(感染後IBS)や、腸内細菌のバランスの乱れ、腸の粘膜のごく軽い炎症なども関わるとされています。こうしたいくつもの要因に、もともとの体質や、まじめでがんばりやすい性格などが重なって、IBSが生じると考えられています。一つの原因に決めつけられるものではなく、だからこそ、あなたが悪いわけではないのです。
IBSと間違われやすい・確認しておきたい病気
腹痛や便通の異常は、IBS以外の病気でも起こります。安心して治療に取り組むためにも、次のようなサインがある場合は、まずほかの病気がないかを検査で確認しておくことが大切です。
- 便に血が混じる
- 思いがけず体重が減ってきた
- 夜間、眠っているあいだも症状で目が覚める
- 発熱を伴う
- 50歳を過ぎてから、急に便通の異常が始まった
- ご家族に、大腸がんや炎症性腸疾患の方がいる
これらがある場合は、潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなど、別の病気の可能性も考えられるため、まず消化器内科での検査が優先されます。当院では、必要に応じて消化器内科と連携し、体の病気がないことを確認したうえで、安心してIBSへの対応を進めていきます。「もしかして重い病気では」という心配も、はっきりさせることで軽くなります。
受診を検討する目安
次のような状態が続いている場合は、一度ご相談ください。「これくらいで受診していいのかな」とためらう必要はありません。
- 腹痛や下痢・便秘が、3か月以上くり返し続いている
- 緊張やストレスと、お腹の症状に関連を感じる
- お腹の不安のために、通勤・通学・外出に支障が出ている
- 内科で検査をして、大きな異常はないと言われた
- 気分の落ち込みや不安も、あわせて感じている
- 市販薬でしのいできたが、なかなか改善しない
IBSは、適切に対応していくことで、症状をやわらげ、安心して過ごせる時間を取り戻していける病気です。受診をご希望の方は、WEB予約はこちらからご予約いただけます。
IBSの治療
IBSの治療は、生活習慣の見直しを土台に、お腹の症状への治療と、ストレスや不安への対応を組み合わせて、段階的に進めていきます。一度にすべてを変えようとするのではなく、あなたの症状やタイプ、生活への影響に合わせて、無理のないところから一緒に取り組んでいきます。
生活習慣・食事の工夫
規則正しい食事と睡眠、適度な運動は、腸の働きを整える大切な土台になります。脂っこいものや刺激物、アルコール、カフェインを控えめにする、自分の症状を悪化させやすい食べ物に少しずつ気づいていく、といった工夫が役立ちます。「あれもこれも我慢」ではなく、あなたに合うもの・合わないものを、ゆっくり見極めていくイメージです。
お腹の症状への薬|セロトニンのしくみに基づいた治療
先ほどお話しした脳腸相関とセロトニンのしくみは、そのまま治療の考え方につながります。つまり、症状が起こるしくみが分かっているからこそ、それに合わせてお薬を選ぶことができます。
- 下痢型には、過剰になったセロトニンが腸の5-HT3受容体に結合するのを抑えるお薬(5-HT3受容体に働くタイプ)が用いられます。腸の動きすぎと水分分泌を落ち着かせて下痢をやわらげ、同時に、痛みの信号も抑えるため、腹痛の改善にもつながります
- 便秘型には、腸の動きを促すしくみ(5-HT4受容体に働くタイプ)のお薬や、腸の水分を整えるお薬などが用いられます
- このほか、腸内環境を整えるお薬(プロバイオティクス)、お腹の張りや痛みをやわらげるお薬などを、症状やタイプに合わせて組み合わせます
このように、IBSの治療は「なんとなく」ではなく、腸で起きている反応のしくみに沿って、お薬を選んでいくことができます。必要に応じて消化器内科と連携しながら、つらい症状をまずやわらげていくことを大切にします。
ストレス・不安への対応(心療内科・精神科の役割)
IBSは脳腸相関の病気であるため、ストレスや不安への対応が、お腹の症状そのものの改善にもつながります。「またお腹が痛くなったら」という予期不安をやわらげ、症状との付き合い方を少しずつ整理していくことで、悪循環がほどけていきます。
また、不安や緊張、気分の落ち込みが強い場合には、SSRIなどの抗うつ薬が用いられることがあります。これは「気のせいだから精神安定剤を」という意味ではありません。抗うつ薬には、脳腸相関を介して腸の過敏さをやわらげ、痛みを感じ取る閾値(いきち、痛みを感じ始める境目)を上げる働きがあるとされ、お腹の症状そのものに対して用いられます。少量から、効果や特徴をていねいにご説明したうえで、あなたの希望をうかがいながら、無理なく検討していきます。お薬は自己判断で中止せず、医師と相談しながら進めることが大切です。漢方薬を用いることもあります。
治療はどのように進むのか
まず、これまでの症状の経過や、生活・ストレスの状況を、時間をかけてうかがいます。必要に応じて消化器内科と連携し、体の病気がないことを確認します。そのうえで、生活習慣の見直し、お腹の症状への薬、ストレスへの対応を、段階的に組み合わせていきます。
目標は、症状を無理に「ゼロ」にすることではなく、お腹を気にしすぎずに、行きたい場所へ行き、やりたいことができる毎日を取り戻していくことです。IBSは、長く付き合うことのある病気ですが、しくみに基づいた対応によって、十分にコントロールしていけます。あせらず、あなたのペースで、一緒に進めていきましょう。
よくある質問
IBSは何科を受診すればいいですか?
まずは消化器内科で体の病気がないかを確認し、ストレスや不安が関わっている場合は、心療内科・精神科が対応します。両方を連携させて進めることもできます。お腹の不安や緊張が強い方、予期不安で外出がつらい方は、当院にご相談ください。
「ストレスが原因」なら、気にしなければ治りますか?
「気にしないようにしよう」と思っても、CRHやセロトニンを介した脳腸相関のしくみで、症状は起こってしまいます。むしろ、我慢してため込むほど悪化しやすいため、無理に抑え込まず、適切な対応をとっていくことが、回復への近道になります。
抗うつ薬と聞くと抵抗があります。お腹の薬なのですか?
IBSで用いる場合は、気分の薬としてだけでなく、腸の過敏さや痛みをやわらげる目的で使われます。脳腸相関のしくみに基づいた、お腹の症状への治療のひとつです。心配な点は、診察でくわしくご説明しますので、遠慮なくお尋ねください。
IBSは治りますか?
症状が完全に消えない場合でも、治療によって大きくやわらげ、生活への支障を減らしていくことができます。「お腹を気にせず過ごせる時間」を、少しずつ増やしていくことを目指します。
トイレの不安で電車に乗れません。こんなことでも相談していいですか?
もちろんです。トイレへの不安(予期不安)は、IBSのもっともつらい部分のひとつであり、治療の大切な対象です。「こんなことで」と思わず、どうぞ安心してお話しください。少しずつ、不安をやわらげていく方法を一緒に考えていきます。
横浜・関内でお腹の不調(IBS)にお悩みの方へ
IBSのつらさは、外からは見えにくく、「気のせい」「ストレスでしょう」と片づけられて、分かってもらえないまま、ひとりで抱え込んでしまいがちです。けれど、検査で異常がなくても、あなたが感じている腹痛や下痢・便秘は、脳と腸のしくみから説明できる、まぎれもない現実のつらさです。お腹の不安のために、行きたい場所をあきらめたり、毎日びくびくしながら過ごしたりする必要は、もうありません。
横浜・関内のみなとメンタルクリニックは、心療内科・精神科として、ストレスが関わるお腹の不調に向き合い、必要に応じて消化器内科とも連携しながら、心と体の両面からサポートします。関内駅から徒歩2分、桜木町駅・馬車道駅から徒歩5分、土日も診療し、当日予約にも対応しています。みなとみらいエリアからも通院しやすく、お仕事や学校の合間にも通っていただけます。
「ずっとこのお腹と付き合っていくしかない」と、あきらめないでください。まずは、お話を聞かせていただくところから始めましょう。受診をご希望の方は、WEB予約はこちらからご予約いただけます。受診前に確認したいことがある方は、よくある質問もご覧ください。
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参考文献・情報源
本記事の内容は、過敏性腸症候群(IBS)に関する以下の資料を参考にしています。
- 日本消化器病学会|機能性消化管疾患診療ガイドライン2020(過敏性腸症候群 IBS)
- Rome IV 基準(機能性消化管疾患の国際的診断基準)
- 日本心身医学会|心身症に関する資料
- 厚生労働省|こころの健康に関する情報
- 各医薬品の添付文書・患者向け医薬品情報
医学監修
田邊 陽一郎(精神保健指定医・精神科専門医・日本医師会認定産業医)
医療法人鴻志会 みなとメンタルクリニック 理事長。秋田大学医学部卒業後、東北での精神科救急・被災地医療、神奈川での在宅医療を経て、現職。うつ病・不安障害・睡眠障害・認知症などを中心に診療。